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文章を書くときに「相手にどんな体験を与えたいか」を考えると強くなれる気がする

 先日、質問箱でこんな質問をいただきました。

 先生と呼んでいただいて恐縮していますがそれはさておき。一旦思いつく範囲で色々と書いたんですけど、ちょっと自分の思考の整理のためにも一旦まとめようかな、と思い筆を執りました。

前置き:創作活動の目的

 小説に限らず、創作活動という行為について、その目的は単に”作家の頭の中に浮かんでいるものをアウトプットして他人に伝える行為”ではないと思っています。

 創作活動の目的は「作家が頭の中に浮かんで滅茶苦茶テンション上がったのと同じ体験を受け手に与えること」にあると思うんです。アウトプットはあくまで手段で、体験を与えることが目的。

 例えばエロ同人でいうと、作者は「この二人がこのシチュでこんな風にイチャコラするのって超興奮するよねするよな俺はする」って思いながら描くじゃん。で、それを読んだオタクは「は~~~~~尊い最高死ぬ👼👼👼👼」っつって死ぬじゃないですか。あれです。あの死亡体験を与えることこそが、エロ同人を描いて公開する目的だと僕は思うんです。

 例えば②で、この文章は僕の考えだとか哲学だとかをアウトプットした上で、読者の人に”「あーなるほど」とか「いやそれは違うんじゃね」とか思う”という体験を与えることが目的です。

 もちろん自分の表現の発露や独白の手段として創作活動をされている方もいると思います(知り合いにもいます)が、最終的にそれを芸術や創作物として公開する以上は必ず受け手が存在するわけで、受け手の体験が作家の意図から大きく乖離しているというのは、良い悪い以前に単純に不幸で悲しいことだと思うんです。

 なので、文章を書くときに限らず創作をするときは、自分の与えたい体験はなにか、そしてそれをうまく伝えられているだろうか、という点を留意しながらやっています(※ただし余裕があるときに限る)

主題:文章を書くときに気を付けていること

 というわけで、創作活動は「体験を受け手に与える」ものだと思っています。そして小説はそれを文字で実現する競技だと思っています。競技です。文字という媒体を使って、読者に思い通りの体験を与えることができるかという戦いがそこにはあります。

 文章の解像度概念や間合いの表現、主語述語の順番、「てにをは」、倒置、比喩、テンポ感……それらはその競技における武器であり、自分の与えたい体験を読者に与えるために、その武器の中からどれを選ぶか、その武器をどう使うかというのがこの競技のミソだと思っています。

 僕がこの競技における武器の選定、使い方を考える際に気を付けていることは大雑把にこんな感じです。

①文章の解像度をコントロールしろ
②繰り返しが多いとかリズムが悪いと読む気が失せる
③登場させたなら使え

①文章の解像度をコントロールしろ

 この「文章の解像度」という概念は、逆噴射先生だったかダイハードテイルズのお二人だったか、とにかく忍殺関連の話題で出てきたように記憶しています。

 解像度とは本来ディスプレイやら印刷なんかで使う言葉で、要するに「どれだけ綺麗に克明に高精細に表示/印刷されるか」という値なわけなんですが、文章においても解像度は存在するという考え方です。そしてこの文章の解像度をシーンごとに可変にすることで小説の読み味はガッツリ変わると思っています。

 例えばアクションシーンで、「ヒーローは左腕でパンチ! 敵は屈んで回避! ヒーローは右足でキック! 敵は半身を入れ替えて回避して、一歩だけ踏み込んで右腕でパンチ!」みたいにダラダラ書くと読んでて飽きるし書いてても楽しくないんですよね。

 ここはいっそ解像度をがっつり下げて、ニンジャスレイヤーみたいに「ワンインチ距離での壮絶な応酬が続く!」って書いたほうが良い。なんでかって、そうすると読者がこれまでに経験したり視聴したものを元に勝手に想像して、超格好良い動きで脳内再生してくれるんですよね。

 一方、例えば「壮絶な応酬のあとの決定打」とかは克明に描く必要があって、その瞬間に解像度を爆上げすると格好良くなる気がしています。

 その緩急のつけ方とかが大事なんだろうなぁと留意しながら小説を書くことが多いです。まだ修行中ですけど。

②繰り返しが多いとかリズムが悪いと読む気が失せる

 これは上述の解像度の話とも繋がるんですが、読んでてリズムがだるいと自分自身も読む気が失せるんでその辺は気を付けています。

 経験上、リズムがダルくなる原因は「同じ語尾がずっと続く」「キャラクターが(物理的/心理的に)動かない」あたりかなぁと。個人的には、特に「同じ語尾がずっと続く」は注意が必要と思っていて、油断するとすぐ「言葉を続けた」「言った」ばかりになるんですよね……そうするとめっちゃくちゃダルくなっちゃうんだよな……

 なのでそういう時は煙草に火を点けさせてみたり、パンを齧らせてみたり、鞄を持ちなおさせたり、ため息つかせたりしています。

とはいえ最近の桃之字はキャラクターに溜息つかせがちだから、これもこれで気をつけなきゃなーと思っているところだったりしますが。。

 また、逆噴射先生の言っている「困ったら銃を撃て」とか、「月を爆発させろ」「とりあえず爆発したら事態が動く」とかも、そういう事象への武器として有効だと思っています。突っ立って話してるよりも銃弾避けながら話したほうが格好良くない? 俺は格好良いと思う。

③登場させたなら使え

その男は黒いタキシードを身に纏い、手にステッキを持っていた。そして扉に近づくとこれを三回ノックして、小さな声で「手熊熊谷崑」と唱えた。すると扉が開き、中から──

 ↑この文章ってさ、↓これで良いと思いません?

その男は扉をノックして、小さな声でなにやら唱えた。すると扉が開き、中から──

 キャラクターがやっていることは一緒ですが、伝える情報が減っています。①の解像度コントロールの一環でもありますね。

 ただ、例えばこの後、「男の行動を見ていた人が扉を2回ノックして立って待っていたら、扉が開かなかった」「扉の向こうからは舞踏会のような音楽が聞こえてくる」みたいな展開が続くとすれば、やっぱり前者の文章のほうが相応しいと思うんですよね。逆を言うと、そういう展開でないのなら後者の文章で良いんです。

 わざわざ「タキシードを着ている」とか「三回」とか「手熊熊谷崑」とか書くなら、それはその後の展開で活用されなければならない。そう考えています。

主題2:文章を書くときの決まり

 これは主にコラム・エッセイで決めていることですが、以下の二点。

①ハッピーな気持ちのときに書く
②あくまで自分の主観として書く

①ハッピーな気持ちのときに書く

 テンションがくっっっっっっそ低いときとか、体調が悪いときとか、機嫌が悪いときとか、逆に超調子に乗って舞い上がっているときとか、そういうときは文章を書かないようにしています(ツイッターは除く。まぁ以前ちょっと我慢できなくてnoteにぶん投げたことありましたけど

 小説はまだいいんです。脳内の映像をアウトする行為なので、感情の影響は受けづらい。コラムとかエッセイが特に問題。ろくなことにならない! ろくなことにならない!

 やっぱね、どんなに正しいことを書いていても、怒りに塗れて書きなぐったような文章だったら受け入れてもらえないし、上から目線で「正解を教えてやる」みたいな感出されたら「うるせぇよ」って思われちゃうんですよね。少なくとも僕は思う。バッタでも食ってろって思う。

 コラムやエッセイも創作活動、つまりは体験を提供するものであるので、どんな体験をしてほしいかというところはちゃんと考えてから書くべきで、そのうえで「怒りに塗れて書きなぐった文章」「上から目線で教えてやる感のある文章」が武器として最適ならそうすれば良いとは思うんですけど……往々にしてそれがうまく行ってる例はあんまし見たことがないし、僕もうまく行った試しがない。

 そもそも、そういう文章って大概の場合「うわっ」って回れ右されるんじゃないかなと思うんですよ。僕だってTwitterのお気持ち長文スクショツイートなんかは条件反射でスルーしますし、note記事で超上から目線で面白くもない頓珍漢なこと言ってる記事と出会ったら早々にブラウザバックしますし。でもそうして、なにかを体験させたいはずの創作物が、体験させるより前に閉じられてしまうのって不幸じゃないですか。

 なのでテンションが超低いときは鳥小屋ていたらくとかの機嫌の影響を受けづらいものを更新するとか、もう出来上がった記事をぽちるだけにしています。

②あくまで自分の主観として書く

 これについては、心掛けてはいるもののうまくやれていないことも多くて日々反省する部分なんですけど。

 あくまで「僕はこう思う」「僕の主観です」で記事を書こうと決めています。みんなこう言ってるだとか、これが常識だとか、こうすべきであるとか、決めつけるだとか、そういうのはできるだけ書きたくない(具体的なデータがあるなら別だけど)

 特にこれを心掛けなきゃいけないなーと思っているのは考察・解釈系の記事で、「あくまで僕の考えです」から逸脱したら元作品に失礼だし、「これが正解、こう思わないやつはバカ」とかは最早全人類に対して失礼だと思うんです。

 ていうかさ、作者でもないのに「俺はこう読み取ったし、みんなもそう言っている! だからこれが完全無欠絶対無比に正解! それ以外の解釈のやつはバカ!」っておかしいじゃん。お前誰だよ。

 なので、例えば仮面ライダーウィザード第1話が最高だと思った話とか、セレベスト織田信長にヒーロー性を見出した話だとか、プロメアは実質スーパーヒーロー大戦だった話だとか、どれもあくまでも僕はこう思った僕は死んだ僕は僕は僕はっていう形で書いていますし、今後もそうしていくと思います。

いじょうだ

 軽い気持ちで書き始めたらすげー長くなった。質問者の方に届くと良いのだけど。

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