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有限会社うまのほね 第1話『学校の七不思議』 Part1

 俺はタバコをくゆらせながら、仕事道具の詰まった工具箱の蓋を閉める。

 そしてクローゼットに下がっているツナギたちを眺めてしばし迷ったあと、一番端にあった真新しいツナギを着込んだ。

 特注品のそれは身体にしっかりとフィットしている。すぐ取り出す必要のあるもの達をポケットに詰め込んで、俺は煙を吐いた。

「よし」

 タバコを灰皿に押し付けて、ドアノブに掛けてあったジャンパーを手に、俺は外に出る。

 昼下がりの陽の光に照らされて、ジャンパーの背に踊る明朝体が白く輝いている──"有限会社うまのほね"。それが俺の城の名だ。

「そんじゃ、お仕事開始だ」

 ──俺の名は、飯島ハルキ。

 玩具から人工知能まで、様々な「機械」の修理を専門とする、エンジニアだ。

有限会社うまのほね

第1話「学校の七不思議」

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 市立秋茜小学校──通称・秋小に向かう道は、児童たちに"心臓破りの坂"と呼ばれる急坂だ。

 俺はそんな坂道を、愛用の電動アシスト付き自転車で快調に登っている……いや、登っていた。2分ほど前まで。

「ふざっけんな……! なんでッ……このタイミングで電池切れンだよ……!」

 道半ばでバッテリー切れを起こした俺の愛車は、ただの重石のついた自転車に成り下がった。俺は重いペダルをなんとか踏み込み、ヨボヨボの爺さんが歩くみたいな速度で坂を登る。

 必死な形相の俺の横に、電動スケボーに乗った少年がスィーっと並走してきた。

「おっちゃん……」

 電動スケボーの上で器用にうんこ座りしたまま、彼はジト目でこちらに話しかけてくる。

「……降りて押した方が早いんじゃない?」

「…………確かに」
 俺は観念して自転車を降りた。

 少年の名はカンタ。俺の今日の依頼人だ。

 いつもうちに遊びにくるガキンチョで、もう3,4年ほどの付き合いになるか。気のいい奴で、俺も気に入っているし、親御さんとも顔見知りだ(というか児童館かなんかみたいに使われている節がある)

 カンタは普段、友人のタロウと二人でやってくるのだが──今日は違った。

 彼は愛用の電動スケボーが擦り切れるような速度で店の前までやってきて、その手に彼のお気に入りの玩具を握りしめ、泣きながら店に駆け込んできて──

 ──おっちゃん、これ、あの、依頼料!

 ──これあげるからさ、だからさ!

 自転車を押す俺の脳裏に、カンタの言葉がフラッシュバックする。

 彼は泣きながら、こう叫んだのだ。

 ──タロウを助けて! ドローンのおばけにさらわれた!

(つづく)

  [目次] []

(作者註)
 本作は逆噴射小説大賞に応募した「有限会社うまのほね」を元に、連載用に加筆・修正を行ったものです。

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