ファンのためになることをする必要も別にない

「アンチの相手をしてる暇があるなら、ファンのためになることをしろ」
 一見、正しく見えるこの意見だが、アンチにやられて思考と精神が弱っているVTuberに対して「アンチの相手をする or ファンのためになることをする」という二択しかないと思い込ませるのは一種の洗脳だろう。

 もちろん本人が「ファンのためになることがしたい」と思って活動することはいいことだ。しかしながら、何故無関係な第三者に「ファンのためになることをしろ」などと言われなければならないのだろうか。それこそ一体どういう目線で意見しているのだろうか。

 本記事は、以前の記事【「ファン」だとか「アンチ」だとか「ファンチ」だとか】と若干重複する部分もあるかもしれないが、「ファンのためになることをする」とは一体どういうことなのか、本当に「ファンのためになることをする」必要があるのかというところを掘り下げていく。

 VTuberとリスナーの意識の差

 まず第一に「リスナーをファンとアンチの二種類に分別しようとする思想」について触れておかなければならない。正確に言えば、「リスナーは配信者を"支持する者"と"攻撃する者"の2種類であるという思想」であり、ここでは「ファン=愛好家」「アンチ=対象を嫌いな者」という本来の意味は無視されている。さらにこの思想を唱える者にとっては、「ファンでもアンチでもない中間層」は存在しないのである。

 こうした歪な思想が生まれた背景には、「インターネット上での配信活動に不慣れな者がVTuberとなり、いきなり数百人、あるいは千人以上のリスナーの相手をすることになったこと」が関係していると思われる。大量のリスナーの意見を選別するだけの余裕がないから、強引にリスナーを味方と敵に分類しようというのである

 しかし、リスナー側が「自分は〇〇の味方で、××の敵」などと考えていることは少ないだろう。多くのリスナーは「なんとなく好きだから」「なんとなく面白いから」といった理由で観ているだけで、別にそのVTuberを何がなんでも応援し続けようなどと思ってはいない。
 例外として、アイドル部のリスナーなどはまさにアイドル部が生きがいであるという者も少なくないと思われるが、それにしてもそこまでの想いを持っている者は多数派ではないように思う。あるいは、あにまーれの因幡はねるのリスナーなどにも熱狂的なファンが多いように見えるが、全く同様だろう。

 だが、VTuber側には必要以上に「ファン」を大事にしようという者が見受けられるのである。はっきり言ってしまえば、実際には「ファン」でも「アンチ」でもない「中間層」がリスナーの大多数を占めているのにである。まずここに大きな意識の差が現れている。

 すべてのファンの要望に応えることなどできない

 しかしながら「俺達・私たちのファンはどんなときでも味方であり支持者である」と信じ込みたいVTuberもいるだろう。それならば百歩譲ってそういうことでもいい。しかし、だとしてもファンの要望に応えることは容易ではない。

 何故なら当然だが、同じファンだとしてもVTuberに対して求めているものは十人十色だからである。雑談配信を多くして欲しい者もいれば、ゲーム配信を多くして欲しい者もいる。あるいは配信ではなく、動画での活動をメインにするべきだと考える者もいるだろう。それ以外にも多くの考えを持っているファンが存在する。思考・思想がバラバラであるすべてのファンの要望に応えることなど不可能なのである。

 もちろんVTuberの中にはTwitterのアンケート機能などを使い多数決を取って、配信の内容を決めているという者もいるだろう。一見すると、それが一番ファンの要望を叶えているようにも思われる。しかし、同時に少数派の意見を持つファンの要望を切り捨てていることを忘れてはならない。ファンのためを思ってやっているつもりが、同時にファンを無視していることにもなっているのである。

 無論そういう切り捨てが発生することが悪いことだとは思わないが、「ファンのためを思う」などと一言で言っても、実際にそれを実行するのは容易ではないということである。
 一方で、確かにリスナーから求められた立ち回りをよく理解して人気を得ているVTuberはいる。先に挙げた因幡はねるや、白上フブキ、笹木咲などはそういう技術を身に付けたタイプのVTuberだろう。本記事では詳細に説明しないが、彼女らの配信を見れば勉強になることは多いと思うので、向上心の強いVTuberにはおすすめしたい。とは言え、やはりリスナーを十分に観察し、適切な返しを行うことは精神を疲弊させる行為であり、これを真似することも容易ではないだろう。

 自分が思うままに活動していればそれでいい

 それならば、どうすればいいのか。単純なことだ。自分がやりたいことをやりたいようにやればいいのである。「でも、そんな風にしてたらファンが満足しないんじゃ?」と思うかもしれないが、「ファン」だろうとファンだろうと「中間層」であろうと、配信者がやりたいことをやって楽しそうにしているのを観て、良くない気分になるわけがないのである。やりたいことをやっていれば必ず良い気分にさせられるとまでは言わないが、まずは自分が楽しむことを第一に考えるべきという話である。

 そもそもの話だが、VTuberのトップ層を見てみればいい。正直に言って、そのほとんどがファンのことを第一に考えてなどいないだろう。まずは自分のやりたいことをやって、その次にファンが望むことを考えているのである。「ファンのためになることをやること」と「ファンが望むことをやること」は別である。

 もちろん登録者数や再生数といった数字を伸ばしたいという話であれば、そんなに単純ではないが、ファンのためになることをしたいのであれば、まずは自分がやりたいことを一生懸命にやるべきだろう。そこまで難しく考える話ではないのだ。

 要望の気持ちが強いリスナーを厄介と責めることについて

 ところで、これ以降は少々本筋と離れるが、「〇〇とコラボをして欲しい」といった要望の声をあげるリスナーについて、大きな話題になっていることに触れておきたい。

 今話題になっているのは「みれロア問題」と呼ばれている、郡道美玲と夢月ロアの百合営業に関することだ。まず言っておかなければならないが、私は郡道美玲にも夢月ロアにもさほど興味はなく、彼女らが頻繁にコラボしていることも今回の件で知ったくらいの認識である。本来ならば、そのような状態で良し悪しを語るべきではないが、「みれロアのコラボがまた見たい」と要望しているリスナーが「厄介リスナー」などと言われていることに関しては懸念せざるを得ないことがある。

 まず声を大にして言いたいのは、「クリエイター側の人間に対して要望を送ること」は、漫画、アニメ、ゲーム、映画、小説、あるいはその他のネットコンテンツなどにおいて、ごく一般的に行われている行為であるということである。私としては下記の記事の引用部分に関して大いに同意したい。

Vtuberはコンテンツです。いくら配信者に近づこうとも、キャラクターを介している以上2次元コンテンツの域を出ません。好きなコンテンツの続編を望むことの何がおかしいのでしょう。

 尤も「VTuberはコンテンツではない」と認識している者にとっては納得しかねることかもしれないが、これはたとえば女性声優同士の百合営業に起き変えても同じことだろう。これまで仲良しアピールをしてきた二人がいて、最近交流が少ない風に見えたとき「最近、〇〇ちゃんとは遊んでないの?(また遊んで欲しいな)」と訊く。それが厄介と言われなければならないほど悪いことなのだろうか。

 尤も時と場合と程度を弁えて訊かなければならないのは当然のことだろう。配信界隈で言えば、配信中の全く関係ないタイミングで「〇〇とまたコラボして欲しい」などと言うことは、伝書鳩行為(広義には配信内容とは無関係な話題を持ち出すこと)の一種であり、マナー違反であることは疑いようがない。もちろんその点に関する批判はするべきである。

 とは言え、烈火の如く怒り出すような行為ではないし、配信者に注意されたらやめようねという程度の話である。そして、先述した通りVTuber界隈に限らず、「自分が好きなものの続きを望むこと」はごく普通のファン心理であるし、郡道美玲もそんなことに怒りを感じている様子ではない。にもかかわらず、郡道美玲のためだと思ってリスナーに怒り出す、そうした行為こそが厄介になってはいないだろうか。

 単純に言い換えれば、今回の件は「休載中になっている連載漫画について再開を要望された原作者が、作画担当者との作風の違いから再開するメリットがないと判断しているが、仲違いをしているわけではないと説明した」というような話である。何故これがユーザー側が悪いなどという風になっているのか理解できない。ユーザーもクリエイターもごく普通の受け答えをしているだけで別に誰も悪くないだろう。

 それでもあえてリスナーを悪く言うのであれば、先述した通り「伝書鳩行為が悪い」のである。また、郡道美玲の言い方もファンにショックを与えるには十分なものだとは思う。一般に百合営業とは「確かに仲がいいのだろうけど、多少盛ってる部分もあるだろうと認識しつつ、二人の関係性を尊いと楽しむもの」であるが、やはり「メリット」などという現実的な言葉で夢から覚めさせられればショックを受けるし、むしろ受けないのならば、それこそファンではない。ここに関しては、もう少し言いようがなかったものかとは思わなくもない。

 ただ、「クリエイターに要望を送ること」と「クリエイターがその要望に関して回答すること」、この2点そのものが責められるようなことはあってはならないと思う。マシュマロやDM、あるいは配信だとしても質問に答える趣旨の内容である場合などに要望を送ることは悪いことではないし、それが悪いこととされる界隈など息苦しいにもほどがある。

 悪いのは要望を送ることではなく伝書鳩行為である。この点に関しては適切な問題の切り分けを行っていただきたい。また、以前の記事【伝書鳩(配信中の伝言行為)は何故基本NGなのか? VTuberの事例に学ぶ】も参照していただきたい。

 そして、結局のところ要望を送られたからといって、必ずしもそれに応えなければならないわけではないし、別にスルーして自分のやりたいようにやってもいいのである。VTuber側に関してはあまり気負い過ぎずに気楽に活動して欲しいと思う。

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