VRと距離減衰の話

VRゲームのテクニカルオーディオデザインをしているのですが、
気が付いたことがあります。

距離減衰の話なのですが、
これ、ライブラリが用意してくれている
距離の二乗に反比例でエネルギーが弱くなる。というやつ。

これ、単純に音量にかけるとNGな気がします。

例えば、映像的に、見えているものなのに、極端に減衰するように感じます。
逆に原点、マイクの位置にある音は爆音になります。それは望ましくない。
単純に補正をかけると音が小さくなるだけで、聞き取りやすいバランスにするのはとても難しくなる。

これは、映像作品がマイクの指向性のあるようなものの場合、カメラにとらえている音はよく拾い、そうでない場合はあまり拾わない。
もう少し正確にいうと、
センターにとらえている音用マイク(メインのボイスや、効果音)は減衰しないのです。
環境音は別マイクでひろってあとで合わせる。複数マイクを使う(余裕があれば)

例えば、カメラで望遠レンズで、遠方のものをおっかけている時、
ドキュメンタリーで、鳥が羽ばたいている映像を想像してみてください。
音声はどうなっているかというと、カメラの画角内にあるものにフォーカスがあたっていて、 なんなら効果音をつけたしているとかあるかと思います。 
羽音(翼音)は本来遠すぎて聞こえないかもなのですが、イメージとしてはつけたくなる。水辺に着水したら水の音をつけたくなる。もし、対象が虫のような、距離ですぐに減衰してしまうような対象であっても、厳密な距離での減衰をしたら、すぐ聞こえない範囲に移動してしまう。

つまり、ユーザーがどこに注視しているかによって、サウンドのフォーカスデザインが変わります。

もし釣りをしていたら、水面の状態音が聞きたい。
スポーツであれば、たとえば、ゴルフや野球などで、ボールを追いかけている時はどうでしょう? ボールの周辺の音をフォーカスしたら、あまりの速度変化でおかしな音の変化になります。
この場合、環境音のミックスが多めに鳴っている。なんなら、打撃音など、観客席で聞こえるであろう安定した音かと思います。

もしリプレイとかはさまったら、映像はリプレイやスローでも音は、現在の音を維持しつづける。見た目とずれていても良い。(無理に合わせると妙なVJか現代アートみたいになる)

もしドラマで、向かい合う人の演技があり、
カメラが2台あり、スイッチングしていたとして、音声のフォーカスはどこにあるでしょう?
それぞれの顔を表示したいが、それに合わせて、瞬時に音声を切り替えたら、とても不自然です。

もし、上空を飛ぶ飛行機があったとして、
カメラで遠くから近づくものを追いかけ、真上に到達し、
また遠くへ飛び去る というカメラワークだったとき、
音声はどう変化するでしょう?
真上に来た時、カメラは追いかけたまま回転せず、途中で上下が反転します。その瞬間左右も反転しますが、音声は、左右反転したらノイズになります。

といったように、映像作品上でのオーディオはとてもデザインされたもの、聴いていて不快にならないように、あるいは、録音技術的に可能な範囲での臨場感が保たれるようなデザインが行われています。

VRで移動するときの距離減衰

今回のディスクロニアでは移動方法がいくつか存在します。
スムース移動といわれる、
左スティックの傾き量での水平前後左右移動と、右スティックの回転移動。
酔い軽減のための設定として、ステップ移動(釣り竿のような移動先を指定して移動)や回転が暗転して角度が変わります。

この時、物理的に何が起きているかというと、カメラのスイッチングになります。
瞬間移動が発生します。
これを単純にオーディオライブラリの機能である距離減衰や、ドップラー効果を与えたら事故が起こります。
ユーザーは頻繁に音速を超え、回転やテレポートで、衝撃波をだしながら、周りの音を聞くことになるでしょう・・・
いや、そんなことは求めていないはず・・・・

ここは、クロスフェードや定位の操作などさまざまな音の調整が必要になります。

例えば、遠方で鳴っている音に関しては、変化させる必要はほとんどないため、影響は少ない。
一方、話者のような、フォーカスしている音は、とても極端に音量が変化したり、音の位置が変化するといった、不自然な変化になります。

移動速度のリアルvs演出

さらには、移動速度なども空間にたいして、実際の速度で移動したら、非常に遅いため、移動のテンポが悪くなります。
これは、空間に対して、どれくらいの移動量が心地よいか、のデザインのため、サウンドだけの話ではない領分になります。
さらにいうと、空間の広さに対する、スティックやテレポートでの移動量も主観的なものになり、ある程度の慣れが必要です。
これは、同じ操作系でしばらく感覚をつかまないと、
動く歩道で歩いた時みたいな、自分の移動量と実際の移動量の感覚差で、酔いが発生する可能性もでてきます。
空間中の音がワープしたらとても不自然で、移動するのが不快になるかと思います。(気が付かなくてもちくちくとダメージを与えていく系の心地よくない感じになる)

音の種類ってどんだけあるのか?

音の種類はある意味無限にある
そしてそれぞれの相互作用、優先度、時間的変化などさまざまな処理を考える必要があります。
ディスクロニアでおおまかに種類を分けると

- メインのフルボイス (映画的演出)
- ゲーム風のボイス (字幕のみ、汎用的演出)
- モブキャラのボイス (重要度は低いが、情報密度としては必要なボイス)
- 館内放送的ボイス (警告音、アナウンス、環境音的なもの)
- ガヤボイス (にぎやかし)
- BGM (ゲームBGM的なもの、カットシーン演出的なもの、OP,ED)
- ジングル (記号音)
- 環境音 (配置定常音、演出音)
- 効果音 (演出音、心象音)
- インタラクション音(持つ、振る、衝撃音、足音、衣擦れ音)

他にも特殊なケースの場合も多々あります。
これらの相互作用 どれが重要で、どれが重要でない
例えば、伝えたいボイスが聞こえるレベルでの音楽の音量、帯域の操作、定位の操作、環境音の操作など、これまでにないほど細かく調整を入れています。
この作業は、調整期間があれば無限に行えるのではないかという作業量になり、どこまでこだわるかは、調整期間の許す限り行っていました。

ディスクロニアは、とてもシーンが多いため、確認の自分、調整の自分、ミキシングのプログラム調整の自分、など分身が欲しいと思うほど・・
サウンドの仕事は無限にあるなと・・・

さらに見た目の変化や、実際の操作での変化など、刻一刻と状況が変化していくなかで、とてつもなく膨大な作業を求められるのですが、
本当に終盤にならないとサウンドの調整はできないのだなと、つくづく痛感したところでして、
リリースまでのわずかな時間でどれだけこだわれるかのチャレンジでもあります。

ディスクロニアは、すべての素材が最高品質です。とてもサウンド面では贅沢な作りとなっています。

VRではサウンドがとても近い(スピーカーが耳元に常にある状態)であるため、ここは妥協できない部分になります。

心地よい、長時間いてもつかれない空間のサウンドデザインとして、できる限りのことをする必要があります。

参考にしてもらえれば幸いです。

そして、明日発売します。 
ぜひ体験して感想いいね(Tweetなど #ディスクロ つけて)をもらえたら幸いです。
(おかしなところとかあったらこっそりDMもらえるとありがたき)

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