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【月次更新】デジタル証券(ST)市場のファクトデータ図解を公開します(24年2月)

こんにちは、プログラマブルな信頼を共創したい、Progmat(プログマ)の齊藤です。

2024年は、年次の解説ではまとめきれないレベルでのST市場急成長が予想されるため、2024年1月より、最新状況を月次でまとめて解説しています。
noteでの解説に加え、一連のスライドについてもお手元で参照できるよう、全公開しています。

ということで、通算18回目の本記事のテーマは「【月次更新】デジタル証券(ST)市場のファクトデータ図解を公開します(24年2月)」です。

※当然ながら、個別案件の投資勧誘等を行うものではありませんので、ご留意ください


サマリ

2024年2月に公開(ローンチ=有価証券届出書提出)されたST案件は、全部で4案件でした。

  • 【不動産ST】ケネディクス・リアルティ・トークンKDX名古屋栄ビル(デジタル名義書換方式)

    • 運用期間30年(2件連続!)

    • AuM69.6億円

    • ケネディクス(KDX) & 東海東京証券 & 三菱UFJ信託銀行 & Progmat(”×東海東京証券”は初の組み合わせ!

  • 【不動産ST】ホテルトークン 悠洛・京都三条(譲渡制限付)

    • アセットマネージャー(AM)兼受託者を務めるりそな銀行の1号案件(=りそな銀行グループのST市場参入 & 初の”AM/受託者一体スキーム”

    • AuM166億円

    • りそな銀行 & 野村證券 & BOOSTRY

  • 【不動産ST】三井物産のデジタル証券~浅草~(譲渡制限付)

    • AuM83.6億円

    • 三井物産デジタル・アセットマネジメント(MDM) & 三井住友信託銀行 & BOOSTRY

  • 【債券ST】株式会社大和証券グループ本社第1回無担保セキュリティトークン社債(社債間限定同順位特約および譲渡制限付)

    • 発行価額10億円

    • 大和証券グループ(本社/証券) & 楽天グループ(証券/Edy) & みずほ銀行 & 三菱UFJ信託銀行 & Progmat(=楽天グループのST市場参入

    • 初の”全額電子マネー(楽天キャッシュ)での利払い”

「ST銘柄一覧」情報はこちら☟(CoinDesk JAPANさん特設サイト)

ファクトデータ図解のスライド全量はこちらで公開していますので、リンクを置いておきます☟


ST市場全体

アクティブ案件(ローンチ後~償還前)の総額は、2,349億円を突破しました。

ST案件規模の推移

現状の成長ドライバーは「不動産ST」であることは変わらず、不動産STのみで今年度の新規ST案件は1,752億円、3月末までの発行見込額を含めて1,885億円を突破する見込みです。(YoY成長率は500%以上

新規ST金額内訳

今月から、「不動産ST市場」に加えて、「債券ST市場」についても章立てして解説していきます。


不動産ST市場

全体傾向

2月の新規案件のうち1件が100億円超、2件が50億円超であり、大型案件化の傾向は不変です。(大型物件でもST案件として組成できるようになると、個人投資家の方にとっての運用対象の幅が拡大する点は過去記事で言及しているとおり)

不動産ST|案件規模推移

1月には初の期間30年の案件が公開されましたが、2月の新規案件でも30年の案件が公開され、運用期間長期化の傾向も不変です。(長期の運用が可能だと、不動産マーケットサイクルのアップサイドを狙える蓋然性が高まり、AMにとっての運用の柔軟性や、発行体にとっての拠出対象不動産の幅が拡大し、結果として投資家にとってもプラスとなる点は過去記事で言及しているとおり)

不動産ST|運用期間推移

1投資家あたりの投資額は必ずしも公開情報ではなく、今回特に更新はありません。(過去記事で言及しているとおり、全体的に少額化しており、上述の「案件大型化」+「期間長期化」と相まって、「より広範な個人投資家が、小口で長期のST運用を開始している」傾向は不変です)

1投資家あたり投資額

発行体別分析

2月は、既存のKDX&MDMで1件ずつ件数が増えたほか、りそな銀行(as AM)の新規参入で1件プラスとなっています。

不動産ST|発行体別|新規件数

上述のとおり、既存のKDX&MDMでの組成額が増えたほか、りそな銀行(as AM)も1号案件から大規模な組成(166億円)となり、FY23の新規組成規模としては一気にKDX&MDMに次ぐ3番目のポジションとなっています。

不動産ST|発行体別|新規組成額

KDXが案件大型化で先行している状況や、DREAMやMDM等発行体を問わず全体的に大型化している傾向はこれまでと同様ですが、2月に新規参入したりそな銀行(as AM)の初号案件規模は大型化で先行しているKDX平均規模をいきなり超過しており、”最初から大型案件での参入も可能”という顕著なメルクマークになったといえます。

不動産ST|発行体別|平均案件規模

KDXが運用長期化で先行している状況は1月までと不変ですが、1月の30年案件に続き2月も30年案件をローンチしたことで、平均期間は更に伸長しています。

不動産ST|発行体別|平均運用期間

2月は、りそな銀行が”AM兼受託者”として1件信託組成し、KDXで三菱UFJ信託銀行に1件、MDMで三井住友信託銀行に1件、新たな信託組成を委託しています。

不動産ST|発行体別|受託態勢

2月は、りそな銀行が野村證券に1件、KDXが東海東京証券に1件、新たなST案件販売を委託し、MDMが自社で1件、新たなST案件販売を実施しています。
特に東海東京証券については、これまでトーセイ案件しか取扱実績がありませんでしたが、今回の案件で初めてKDXとの協業が開始され、KDXとしてはST取引実績のある証券会社(販路)が更に拡大しています。

不動産ST|発行体別|販売態勢

受託者別分析

2月は、りそな銀行(as 受託者)、三菱UFJ信託銀行、三井住友信託銀行がそれぞれ1件ずつ、新規受託しています。

不動産ST|受託者別|受託件数

2月は、りそな銀行(as 受託者)が+166億円、三菱UFJ信託銀行が+69.6億円、三井住友信託銀行が+83.6億円、新規受託しています。

不動産ST|受託者別|受託金額

仲介者別分析

2月は、野村證券が1件、東海東京証券が1件、MDMが1件、新規で取扱しています。

不動産ST|仲介者別|取扱件数

2月は、野村證券が単独で+166億円、東海東京証券が単独で+69.6億円、MDMが単独で+83.6億円、新規で取扱しています。
特に東海東京証券、MDM(as 仲介者)はいずれも各社過去最大規模の販売を実施しています。

不動産ST|仲介者別|取扱金額


債券ST市場

全体傾向

まず、デジタル債/債券STを発行する主体として、大別すると3つの潮流にまとめることが可能です。

  1. 事業会社が発行する「個人向け債券」

  2. 証券会社自身(のグループ会社含む)が発行する「個人向け債券」

  3. STとして発行する「グリーンボンド」

1点目は、応援投資やファンマーケティング高度化等を企図し、事業会社が発行するもので、わかりやすくイメージしやすいかと思います。

2点目は、業者自身による試行が主目的ではありますが、この段階を経ることで証券会社内の態勢が整備でき、顧客(第三者である事業会社等)によるデジタル債/債券STの引受/販売に対応することが可能になります。

3点目は、グリーンボンド自体は振替債としても発行が可能であるところ、グリーン性指標に関するデータをSTプラットフォーム上にも記録することで、データの透明性向上を図る取り組みです。

発行体別分析

  • 「事業会社×個人向け」は、丸井がFY2022からリピートしているのみで、裾野拡大はこれから。(スパークス債は既に償還済みで残高ゼロ)

  • 「証券会社自身×個人向け」は、FY2021のSBI証券の”1号案件”に続く動きはなかなか無かった(不動産デジタル証券/STが先行していた)が、FY2023から岡三証券(グループ)・大和証券(グループ)と続いている

  • 「グリーンボンド」は、FY2022に発行を行った日本取引所グループも、続くFY2023に発行を行った日立製作所も、グリーン性指標を可視化するウェブサイト「グリーン・トラッキング・ハブ」の開発/提供会社自身であり、関連事業者以外の第三者が発行する裾野拡大はこれから。(日本取引所グループ債は既に償還済みで残高ゼロ)

債券ST|発行体別|新規発行件数

金額面で目立つのは、日立製作所発行の「グリーンボンド」ですが、あくまで機関投資家向けのため、投資家数でいうと「2社」であり、発行口数=トークンの発行数としても同様でしょう。

「事業会社×個人向け」はどうでしょうか?
個人向けのため少額から購入可能であり、発行口数=トークン発行数は拡大しやすい傾向にありますが、FY2022に約13億円規模(丸井+スパークス)だったところがFY2023は約2億円規模(丸井のみ)となっており、絶対額がまだ限定的であることは否めません。

ポジティブ材料は「証券会社自身×個人向け」の伸びです。
2案件合計で30億円規模、「個人向け」昨年度対比で2倍超の成長と、デジタル債/債券STを購入した(する)投資家層が着実に拡がっているのも事実です。

債券ST|発行体別|新規発行額

まず「事業会社×個人向け」における販売態勢です。
丸井の3案件は「自己募集」であり、発行会社である丸井と投資家(ユーザー/ファン)が直接繋がっているため、仲介者としての証券会社は介在しませんが、ファイナンシャルアドバイザー(FA)として野村證券が支援しています。
スパークスの1案件については、野村證券が引受を行い、販売をLINE証券を行っていましたが、LINE証券はその後事業再編(証券サービスは野村證券へ移管)が発表されていることから、野村證券としてまとめています。

次に「グリーンボンド」における販売態勢です。
発行体名は異なるものの「グリーン・トラック・ハブ」の開発/提供会社自身であることに変わりなく、いずれも野村證券が仲介者を務めており、「日本取引所G・日立製作所・野村證券」という座組みは不変です。

ということで、デジタル債/債券STは野村證券が市場創出に向けて尽力してきた、というのは間違いありません。

こうした市場創出の動きに続く形で、岡三証券グループ案件では岡三証券に加えてみずほ証券が、大和証券グループ案件では大和証券に加えて楽天証券が、それぞれ協業する仲介者として加わっており、野村證券以外の証券会社の裾野が広がってきています。

債券ST|発行体別|販売態勢

仲介者別分析

前述の傾向は、年度別の各仲介者取扱件数でみるとより顕著です。

「自己募集」もFAは野村證券であることを踏まえると、実質的にはFY2022の全案件が野村證券によるものでしたが、FY2023に入り証券会社が4社参入したことで、発行体や投資家にとっての選択肢が拡大してきました。

個人向けデジタル債/債券STを取扱可能な証券会社が6社まで増えてきているため、各社における”2号案件以降”の取扱い拡大により、FY2024以降での市場規模拡大に期待が持てる状態といえます。

債券ST|仲介者別|取扱件数


プラットフォーム

2月は、Progmatで+2件(不動産ST+1件、債券ST+1件)、BOOSTRYで+2件(不動産ST+2件)、新規ST案件の取扱が増加しました。Progmat上の公募債券STは2件目となり、債券STでも取扱件数が最大となりました。

プラットフォーム|アセットタイプ別取扱件数

2月は、債券STを契機に楽天証券が、不動産STを契機に東海東京証券が、新たにProgmatの利用者となり、より万遍なく参加者の偏りの少ないネットワークになってきています。
特に東海東京証券は、これまでADDXやHashDasHを利用した案件が先行しており、1つの変化点といえます。

BOOSTRYは、2月に野村證券で+1件、MDMで+1件、利用件数が伸長しました。野村證券の利用が過半である点は不変ですが、MDM×BOOSTRYの組み合わせは初となっています。

プラットフォーム|仲介者別利用件数


おわりに

淡々とファクトをまとめているので、スライド中心にサラッと読めたのではないかと思います。
翌月以降も動きがある限り継続しますので、毎月はじめに現状をクイックにおさえる一助になりましたら、幸いです!

テキストではなく音声でのやさしい(?)解説は、CoinDesk JAPANさんの「CoinDesk JAPAN Talk」(月次のRWA回)で語りますので、聴いていただければと思います。(リアタイだけでなく、アーカイブ録音も公開されます!)

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