知らない町の知らない食堂。 #旅する日本語
ぼくは旅をしている。
行きたい場所で素敵なモノを買い付けて、日本で販売し旅費を稼ぐのだ。
バトナムハノイに初めて訪れた冬。
バイクを借りて陶器製造が盛んな隣町に訪れた。
知らない町。
知らな景色。
旅の始まりは、そんな「知らない」と出逢うところから。
好奇心のみで飛び込む景色は、出逢いがおこるまでが途方もなく心細い。
昼の少し前。
宛てもなくバイクをゆっくりと走らせる。
「カンっ。カンっ。」
と、鉄の鍋を振る音が耳に心地よく流れてきた。
煉瓦が積み上げられた食堂に看板はない。
道に面した厨房で大きな鍋で米を炒めている若いお母さんの姿が見えた。
なんでだろう。
その景色がとてもとても美しかったのだ。
一度は通り越し、しばらくして意を決してバイクを反転させる。
向かうはさっきの知らない食堂だ。
なんてことない暮らしの景色。
知らない。に、出逢う旅。
なによりも美しい営みが、そこにはあったのだ。
2019年9月7日
写真とテキスト:たつみかずき
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