1点差の9回1死満塁。代打西丸に感じた国学院大・鳥山監督の“打力以上”の意図

10月4日東都大学野球1部中央大学と国学院大学の1回戦。4回までに5点を奪われた国学大は7回、8回で4点を返し1点差に迫ると、9回も3四球で1死満塁と攻め立てた。

ここで国学大・鳥山泰孝監督が動いた。2打数無安打の森田涼雅に代えて西丸泰史を代打で起用したのだ。

西丸は主将も務める左打ちの好打者。昨春には打率.417を記録し、満票で指名打者部門のベストナインを受賞した。だが、今季はここまで12打数1安打で打率.083。2試合連続でスタメンを外れていた。

一般論として、1点リードされた9回1死満塁で代打起用される選手は打力を期待される。ヒットを打って逆転してほしい、最低限犠牲フライで同点に追いつきたいという具合だ。

だが、私はそこに打力以上の意図を感じた。

8月に取材させていただいた際、鳥山監督に優勝するために必要なものを質問すると、こう話してくれた。
「最終的には自分に自信のあるやつを1人でも多くラインナップに並べられるかどうかだと思う。例えばベンチにひっこめられたときに『俺が試合に出ないで誰が出るんだ』という心理状態になっているか。いざ出たときにその場でうろたえたり、力みまくったりしないか。根拠のない自信でもいいので、それぐらいふてぶてしくやれるやつじゃないと山は越えていけないのかなと感じている」

その“自分に自信があるやつ”の具体的として名前が挙がった1人が西丸だった。
「『俺が引っ張っていく。俺がチームの中心だ』と思ってくれている」

鳥山監督は西丸に絶対の信頼を置いている。今春の立正大戦では、ケガでプレーができない西丸を選手としてベンチ入りさせた。
「このチームは西丸なしでは考えられないチームなので、プレーできなくても外すことはできない。それがキャプテンだ」

“『俺が試合に出ないで誰が出るんだ』という心理状態”は積極的な姿勢であると同時に、どんな結果になってもその結果を自分自身が引き受ける覚悟を持つという意味でもある。1点差の9回1死満塁は同点、逆転の好機である一方、併殺で試合が終わってしまう場面だ。だからこそ、鳥山監督は勝敗を背負える責任感を持つ西丸を代打に起用したのではないだろうか。

西丸は4球目、真ん中付近にきた140㌔の直球を打って一ゴロ。自身はアウトになったが、その間に三走貞光広登が生還し、同点に追いついた。

国学大はその後10回に勝ち越し、そのまま勝利。明日も勝利すると、首位に浮上する。

取材時に印象的だった鳥山監督の言葉がある。
「勝ち負けを俺が背負うんだというぐらいの責任感を持つことが、勝負を楽しむ、野球を楽しむということだと思う。そこから逃げちゃうと勝負が苦しいだけのものになってしまう」

データだけを考慮すれば、他の選択肢もあったのかもしれない。だが、“あの場面は西丸しかいない”。そんな鳥山監督の信頼と意図を感じた代打起用だった。

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