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副作用の問題にどう向き合うか?

こんにちは。
なんと、noteを始めて10回目になりました!
 
今回、記念すべき10回目のnoteを開いてくださった皆様、
ありがとうございます!
ぜひ、最後までお楽しみくださいね。
 
今回は副作用のお話です。
 
2008年に本格的にスタートした、
聖心のプレミアムPRP皮膚再生療法
 
順調なスタートのように思われたこの治療に、
ある問題が浮上します。
 
さて、どんな問題が起こったのでしょうか。

治療部位が膨らみすぎる問題

FGFを添加したPRPによるプレミアムPRP皮膚再生療法は、
高い美容効果を実感できることで、
多くの方に喜んでいただき、順調に症例を重ねてきました。
 
しかし、ここである問題が立ちはだかることになります。

プレミアムPRP皮膚再生療法は、
加齢が気になる部位に注射し線維芽細胞に働きかけて、
自らのコラーゲンやエラスチン、一部ヒアルロン酸を再生します。
それと同時に、脂肪幹細胞にも働きかけて脂肪を再生するという
再生医療のひとつです。

聖心美容クリニックでは、
FGF添加PRPを開発し、きちんと動物実験も行って、
その効果や安全性を確認していた先生のプロトコールで
治療を進めていました。

しかし、患者さんの3~4%に、
想定より治療部位が膨らみ過ぎてしまう合併症が
生じるようになったのです。

この治療はPRPにbasic-FGF(線維芽細胞成長因子)を
少量混ぜることで、細胞の力でコラーゲンなどを
作っていくアプローチです。
 
そのため、期待通りの効果が出る反面、
予想より組織が増え過ぎてしまうことがあるのが原因でした。

そこで、僕たち聖心のドクターは、
薬剤の濃度や投与量、顔に注入する深さなどを、
それぞれが考え、お互いディスカッションしながら、
当初のプロトコールから4年間かけて改良していきました。

努力の甲斐あってか、膨らみ過ぎの症例は少しずつ減少。
ようやく、聖心のスタンダードといえる治療法が
確立してきたのです。

否定的な意見が増え攻撃されるように

しかし、問題は続きます。
 
プレミアムPRP皮膚再生療法は、
聖心が独占して行っているものではなく
他院でも行っています。

僕たちは経験上、薬剤をコントロールすれば、
合併症はかなり抑えられることが分かってきていましたが、
それがまだ分かっていないクリニックもありました。

また、聖心の治療で治療部位が膨らみ過ぎた患者さんたちが
他のクリニックに行き、
逆に、他のクリニックで膨らみ過ぎた患者さんたちが、
聖心に来ることもありました。

こうして、治療部位が膨らみ過ぎた患者さんたちが発信する
ネガティブな情報により「FGFは悪いもの」といった風潮になり、
業界全体でも「この治療は慎重にやるべきだ」「やらないほうがいい」
といった意見が出るようになったのです。

そんなとき
ある大学の先生がFGFだけを注射する治療を始めました。
しかし、FGF単体の治療は結果が悪く、
ますます「FGFはダメだ!」と言われ、
バッシングに拍車がかかることになりました。

世界に問いかけてみよう!

万能な治療など、世の中にはありません。
治療法にはメリット(主作用)だけでなく
デメリット(副作用)もあるものであり、
そのバランスが重要です。

当時の時点で、聖心のプレミアムPRP治療による
「膨らみ過ぎ」は1%未満まで抑えられています。
ですから、慎重に投与すれば良い、
というのが僕の考えです。

しかし、
業界では批判的な意見が多かったのが現実です。
 
プレミアムPRPはとても良い治療法です。
合併症があるのも確かですが、
僕たちは4年間かけて薬剤を改良し
問題を解消するための工夫もしています。
 
そういったことをすべて含めて、
日本の学会の中だけでディスカッションするのではなく、
世界に問いかけてみよう!
論文を書こう!
 
僕の頭の中で杉町アラートが鳴りました。

ドクターたちの協力を得て論文を書く

2013年、
僕たちはプレミアムPRP皮膚再生療法についての
医学論文を書き始めることにしました。

聖心がこの治療を始めて4年が経過していたため、
症例は1万を超えるほど蓄積されていました。

そこで、聖心のドクターやスタッフの協力のもと、
各院で数百症例ずつピックアップして
データをExcelに入力してもらい、
僕がデータを解析して論文化することにしたのです。
 
届いたデータは部位数3,000例以上。
ボリュームはありますが、
論文を書くうえで症例数が多いのは有利です。
 
それに、僕は九州大学の医療情報部で、
乳がん患者20万例のデータ解析をした経験がありますから、
3,000例は何とかできる数字だと思いました。
 

入力ミス発覚

「論文はまだ?」「いつできるの?」
と期待されるなか、一生懸命、データ解析を進めていた僕ですが、
予想以上に時間がかかってしまいました。
 
というのも、基礎統計を出すとき
おかしな数字が出るので確認したところ、
入力ミスがあることがわかったのです。
 
たとえば年齢の列で、
「60(歳)」が「600(歳)」になっているなどの
単純なタイピングミスでした。
 
忙しいドクターに何百例もお願いしたのですから
無理もありません。
 
当然、診療の合間を縫ってデータを入力してくれたドクターに
見直しを依頼することなどできるわけがなく、
結局、僕が各院のデータを全部見直すことにしました。
 
そんなこんなで
患者さんの情報の確認に1年近くかかってしまいましたが、
データ解析をしながら論文の作成も進め、ついに完成したのです。

―――――――――――

今回も最後までお読みいただき、ありがとうございます。
 
時間はかかりましたが、
僕としては納得のできる論文になりました。
そしていよいよ初投稿。
 
選んだのは、
世界の形成外科領域ではトップのジャーナルである
PRS(Plastic and Reconstructive Surgery)です。
PRSへの論文掲載は難関で、外国人医師の論文掲載率は、
20~25%という狭き門。
 
さて、僕の論文は無事、アクセプトされるのでしょうか?

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