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医者の教育とは? ハワイの病院を見学してみて。

先日ハワイのクイーンズメディカルセンターでホスピタリストとして働く野木真将先生(ブログ)のシャドイングををさせて頂いたのでまとめました。

<こんな人に読んでほしい>

 - 臨床医、医学生
 - 医療システムに興味ある人

<アジェンダ>

 - 概要 見学のきっかけ・目的
 - 当日の学び ~教育に重きをおいた医療システム~
 - まとめ

1.概要 見学のきっかけ・目的

日付:2019年11月某日
場所:クイーンズメディカル医療センター

見学のきっかけ:
勉強会で野木先生とお会いし、ホスピタリストという働き方について、教育システムについて学ぶことがあるとお聞きした。また友人の結婚式でハワイに行く機会があったので、調整していただいた。

見学に際してききたいと感じていたこと:
教育はどのように行われているのか(例えば滅茶苦茶やる気ない研修医の教育とかどうしているのか)、電子カルテなどがいいときいているがどのようなものであるのか、患者の経過をみていくときアメリカではどのようにしているのだろう?など。

事前の準備とかクイーンズメディカル医療センターのパラメータとかは割愛します。

2. 当日の学び ~教育に重きをおいた医療システム~

 当日は朝8時にメインホールで野木先生と集合し、カフェで見学にあたって何をみたいか?を目的にお話しました。今日の目的ってなんだっけ?というあたりを明確にしぼんやり見学しないようにする配慮がありがたいです。
その後、病棟の回診と研修医・医学生とのディスカッションを見学しました。
 ディスカッションは、2~3人でコーヒー飲みながら円卓をはさんで患者についてのミーティングといった感じのものです。野木先生は単にホスピタリストというのみならず、指導医でもあるので研修医・医学生が下につくのです。
point! 
<指導医は誰もが勝手になるわけではなく、そのための勉強を行い大学から認定されないとできません。なので指導するモチベーションのない医師が指導医になることはありません>


 このディスカッションがすごく濃密です。指導医1名・研修医1名・医学生1名で担当患者10~15名ほど(入院患者が落ち着いていた時期のようです)について1時間かけて行われます。これが毎日午前と午後に行われます。
 午前は継続している入院している患者について・午後は新規の入院患者を含めて変化のあった患者などについてです。SOAPに基づいてプレゼンテーションがなされますが、例えばSについては患者本人の発言だけでなく過去のカルテや患者家族からも聴取したほうが望ましいか検討したり、AやPについてはどういったガイドラインやエビデンスなどの根拠をもってそう考えるのか、ということをきっちり話し合います。
point!
<ホスピタリストは外来や手術はなく病棟管理に集中している。指導医は外来や手術に行って相談できない、ということがないのです。教育をすること・受ける事が重視されている。>

point!
<教育に関して、研修医や医学生はどのように評価されるか?ということがはっきりしており、それは評価される本人たちにも明示されます。一例としてはRIMEモデルを挙げておられました。
• Reporter :症状や検査の値など報告できる。
• Interpreter :値を解釈できる、疾患を想起した報告ができる
• Manager :挙げられたプロブレムをマネージできる。
• Educator :上記について教えることできる。
これが医学生であればReporterなどステージに応じて求められるものが変わる。もっと細かくみたい人はこちらにも>

カンファレンス以外の時間には、患者回診や電子カルテチェック・記載を行います。指導医であれば、基本的に電子カルテの記載は研修医や医学生が行うので、チェックすることが仕事になります。
電子カルテはEpicが使われていました。見た範囲では
・患者のこれまでの記録について他病院(Epic導入病院であれば)含め、参照できる
・スマートフォン上でカルテを開き、情報の参照のみならず処方や指示だしができる
・各種テンプレが使いやすそう
といったポイントがあげられそうです。
なにかこう使っているこっちの頭がバグってしまうくらいの革命的なアイデアや機能はないが、必要なものをしっかりそろえて順当に進化できた電子カルテだな、と感じました。
point!
<ちなみに退院時はホスピタリストは予約などとりません。かかりつけ医の外来にもどります。退院時の患者への指導書類が印刷されますが、こちらに「かかりつけ医予約をとるように」「食事は~~に気を付けるように」などの指導ががっつり書かれます。色使いなどキレイで、患者教育がしやすそうな書類であると感じました。よくも悪くも患者の自己責任なのですが、教育の患者の教育にも配慮している様子が伺えました。>

point!
<退院時に患者に渡される書類には、行われたすべての処置、関わった医師が記載され、後日患者あてに医師がどうであったかのアンケートが送られます。これにより医者が評価されます。患者満足度がひとつのゴールとして設定されています。>


患者自身も自分のことについて説明をききたがるので、ベッドサイドでもしっかり経過について説明します。「うんうん、よくなってますよ~」みたいなことはなくて、「入院日と比較して肝酵素がこれくらい下がって・・・・」みたいな説明をされていました。

看護師の方についても話を伺いましたが、こちらの看護師は部署異動がない!ようです。なので、一つの専門科で自分の知識と経験を深めることができ、それが看護師の満足度にもつながっていそうです。看護師の離職率が低く、枠が空かず、看護師免許をもっていてもなかなか就職できないようです。准看護師としてはいってからチャンスをみて看護師になる方もいるようです。

ちなみに「例えば滅茶苦茶やる気ない研修医の教育とかどうしているのか」ということについて聞きましたが、「そもそもやる気のない医学生や研修医を指導することにならない。あるいは本当にまずいのであれば、その評価をされることで医学生は卒業できないし、研修医は研修を修了できない」とのことでした。米国は他国からも医師になりたい人材がくるので、日本のように売り手市場ではありません。指導者・同僚・患者から常にフィードバックをもらうシステムがあり、それにより評価が明確です。評価が悪い医師は雇ってもらえないですし、患者も集まりません。
(医療行為自体の質については、指導医・同僚・被指導医から評価されます)

3. まとめ

教育・フィードバックがしっかり行われる→医療の質が保たれる
ということを軸にしっかりシステムが作られていると感じました。

-教育に関して-
自分のステージにあわせて学ぶポイントが明瞭にされ、やる気のある指導医からリッチに指導を受けられるので明確に羨ましいと感じました。
 日本ではどうしてもやる気のない指導医は一定いますし、さらに我々は教育学を大学で学ぶわけではないので、教育はおおむね適当だと感じます。
 ただ、嘆いていてもしょうがないし、システムごと急に変えることはできないです(変えられるよ!ってひとは変えていってくださいお願いします笑)。ひとつひとつやれることをやっていくしかないのでしょう。
 例えば指導される方で、「どういう順序で、どこを目指して教えたらいいんだ?」という時などは、教育の指針としてRIMEモデルのようなモデルを参考にされるのもいいかもしれません。
 逆に、「ろくな指導してくれない!自分がどこまでできているかわからない!」という方は、自分がどこまでできているかの指標にしてみてもいいかもしれません。
 日本の医学生は欧米の医学生と比べると手技などできることが少ないとは言いますが、ReporterやInterpreterとして認められるように頑張ることから初めてもいいのではないでしょうか。

-フィードバックに関して-
患者満足度・同僚など周りの医師からの医療の質の評価がしっかり得られ、いい医療をしていれば評価されます
これってすごいことだと思いませんか?
いい医療てのはもちろん患者の満足度やアウトカム全部含めて。
なんとなく手術たくさんやっていればいい病院とか、たくさん売り上げだしていればいいとかそういうことでなくて、医療の質が評価されているんです。いい医療を提供できる医者がきちんと評価されてるんです。
 いい医療を提供できる医者であるモチベーションになりますよね。
(なんで技術があるのにあの人は評価されないんだろう、とか逆になんであの人は評価されるんだろう・・・みたいな医者のもやもやが一定解消されるのもありそうです)
 
 もちろん、すべてがいいわけでなくて保険の問題があるとか日本にはない問題があったりもします。また今回はホスピタリストについてしか見学できていないので「実際外来の教育とかどうしてんの?」とか「手術とかどうやって学んでんの?」みたいな部分とかまではみれていません。
 弊社の大木くんのnote「こんなに違う、日米の医療現場」もよくまとまってますのでよろしければご参照ください。


Ubie株式会社 白石 達也(@dr_white1103)
ユビーAI問診症状検索エンジン「ユビー」US版)というプロダクトを作っているUbie株式会社で働いています。
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