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情熱大陸「姫野和樹の強さの奥」 

ラグビーのドキュメンタリーは意外と難しい。
鍛え上げられた肉体が激しくぶつかりあうラグビーは、圧倒的であり魅力的だ。屈強な男たちは、歴戦の兵士のように逞しく笑う。
彼らの強さの奥にあるものは何なのか。そこに辿り着くのは簡単ではない。

言わずと知れた日本代表のスター選手。本場ニュージーランドのリーグで新人王に輝いて、姫野和樹は古巣に戻ってきた。200キロのバーベルを上げ、居残り練習に励む。「自分はパッションの塊だ」と笑う姫野の姿は、惚れ惚れするほど格好いい。
「スーパーヒーローの素顔」を見せられるのなら、ちょっと難しいかもな。そんな気持ちも抱いた。

ラグビー教室で教える姿。中学時代の思い出を語る人間味のある恩師。パーツは悪くない。しかし、番組にはなかなか方向性が生まれてこない。

番組が始まって10分。物語は急展開を見せる。

「貧しくて、自分。よくお金のことで苦労しましたね。給食費払えずに先生に催促されるとか、ざらにありましたし、県選抜も行かなかった。お金が無かったから。2,3万の合宿費も払う余裕がないって言うんで」
「絶対にラグビーで這いあがろうと思ってました」

唐突に語られる貧困の過去。そして、賞味期限切れのパンをもらっていたという駄菓子屋のおばちゃんとの交流が描かれると、その話はそこで終わり、またリーグ戦の話に戻る。そこをもう少し掘り下げてほしいのに、なぜかそれほど行かない。それは大人の配慮なのか、本人の希望なのか。この番組には、そういう所がある。

しかし姫野を見つめる僕らの目線は、それまでと同じではない。曇りのない様に見えた瞳の奥にわずかな揺らぎが感じられる。

プロ一年目でいきなりキャプテンを任された時の話を涙ぐみながら語る姿。最初から強い人間ではなく、強くあろうとしてきた人間であること。

そして語られるポリシー。

「結果を出した人が一流ではなく、失敗してもすぐに立ち上がって、行動できる人間が一流なんだ」

ジャッカル。相手からボールを奪い取る男である姫野は、もしかしたら何かを奪われていた男だったのかもしれない。何かを得たいという強い思いが、彼を特別な存在にしたのかもしれない。そんなことを想像した。

幼い頃に遊んだ公園でのラストシーン。
かつての自分に会いに来るというのだという。
「幼い自分に、いま何と伝えたいか?」
そんな問い自体はありふれたもの。

しかし、それに答える姫野の泣き笑いのような表情が深く印象に残った。

「お前は強くなったよ。まだまだ強くなれる」


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