「嘘をつくな」と言う者は、偽善者

嘘をつく同僚


 ある同僚はよく嘘をつく。私が知っている最初の嘘は、職場のPCに飲み物を落としてしまい故障させたにもかかわらず、無関係である振りをして自分が気づいたときにはすでに壊れていたと言ったのである。この嘘は状況証拠から上司が彼を説得し発覚、その後も自分の失敗を隠すために事実と別のことをいう。本人がしたにもかかわらず、「最初からこうなっていました」などと噓をつく。いずれのうそもすぐばれるような嘘である。

嘘に気づき告発するもの


 この同僚を説得した上司は、説得できたことを誇りに感じているようであった。その後の彼への当たりがきつくなっているように感じる。実際に配置転換を命じられことになった。また、別の嘘を発見した者も彼自身と対話することなく、周囲へ告発し、彼の行いが大勢の人に晒された。おそらくどちらのも彼の性格を変えようとしている。そして、配置転換や彼の行いを大勢の人に晒すことで罰を与え、組織の秩序を維持しようとしているのかもしれない。しかし私はこの上司や告発した者の方が恐ろしく感じた。芸能人のスキャンダルをインターネット上で叩くものと同じ真理だなと思ったのである。ヒーローが悪者をやっつけるかのような優越感を気持ちよく感じ、快楽のために行っているように見えたのである。彼のためを思うのなら一対一で伝えればいいのであって、周囲に告発する必要などないのである。

人は嘘をつく


 ある研究では、性別にかかわらず10分以上続く社会的交流の5分の1でうそをつくことが分かっている。性別の違いもある。女性は他者を傷つけないような利他的なうそをつくことが多く、男性は自分自身についてうそをつくことが多いそうである。誰しもが日常的に嘘をつき、話を合わせることでコミュニケーションを円滑にしている。だから「嘘はよくない」など誰もが言えるこの道徳的なセリフは現代人のコミュニケーションにおいて全く当てはまらないのである。しかし、組織において嘘が増えていくことは決して望ましいことではないし、信用を失う嘘は自分自身を苦しめることになり、ほかの誰かを傷つけかねない。

どんな人が嘘をつく


 先述の彼は劣等感から嘘をつくのではないだろうかと思う。彼は決して仕事ができるタイプではないものの努力をしているようにも見えないから成長しているように見えない。そんな彼に嘘をつくなと言ったところで何も響かないだろう。そもそも彼の嘘は自分を大きく見せるような嘘ではなく、失敗を隠すために嘘をついている。だから彼は嘘がつかなくて済むように失敗をしないような行動をとるだろう。「嘘をつくな」と言うことは、チャレンジすることを否定することにつながるのではないだろうか。

心理的安全性


 嘘をつく者を変えることなどできない。そもそも人間は嘘をつくことでコミュニケーションを円滑にしているのだからいつ誰が彼のように保身のための嘘をつく立場になるかわからない。では、組織での嘘を減らすにはどうしたらいいのだろうか。それは従業員がどれほど安心して働けるかにかかっている。組織が失敗を許容してくれないと感じれば、嘘をつく者や失敗を隠す者は後をたたず、チャレンジする者もいなくなるでしょう。近年盛んに言われている「心理的安全性」こそがキーワードではないでしょうか。だれしもが私はここに居ていいんだと思えるような組織を作れなければ、彼のような人は今後もでてくるでしょう。彼は決して特異な人ではないのです。個人の性格を変えることより組織の意識改革の方が簡単ではないだろうか。


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