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短編・中編小説

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オリジナルの短編・中編小説。続き物です。一話完結小説については、マガジン『一話完結小説/創作日記』を。長編小説はマガジン『【小説】太陽のヴェーダ』をご覧ください。
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記事一覧

【小説】東京ヒートウォール 第6話(終):首都陥落

(第1話はこちら) 葛西の臨海公園へ到着。 夜で視界が悪い中、急いで朝美の姿を探す。 あれから朝美の着信はない。 いよいよバッテリーが空っぽになったのだろうか。 ――ふと、誰かに呼ばれたような気がした。夕子は咄嗟にあたりを見まわした。 「お姉ちゃーーーーんっ!」 目を見開く。 泣きながらこちらへ駆けてくるその姿、子供の頃とちっとも変わらない。 言葉が上手く出ない。 ずっとこの時を待っていたのに。 自慢のストレートヘアを振り乱し、両手を大きく振って駆けてくる。私のたっ

【小説】東京ヒートウォール 第5話:主役、脇役

(第1話はこちら) 憑き物が落ちたように笑みを浮かべる一真につられ、夕子も街を眺める。ヒートウォールの方角から吹く高温の空気が、肌をなでていく。 この距離でこのくらいなのだから、あそこにいる人たちはどれほどの熱波を浴びて―― いや、と夕子は想像を止めた。 灼熱の気流にのまれた人たちがどうなったかを、知っていたから。 「当時の東京も、ヒートアイランド現象に相当参っていたんだ。なんとかしろって声も、担当者を相当苦しめた」 「だったらなんで、わざわざビルを増やして悪化させるよ

【小説】東京ヒートウォール 第4話:メリット、デメリット

(第1話はこちら) ヒートウォールの足元にかなり近づいた。車の窓越しでも、気流の咆哮が伝わってくる。車内冷房の稼動音も苦しそうだ。 ほどなくして車が停まったのは、故障のせいではない。 「通行止めか。そりゃそうだな。これ以上近付いたら車も溶けそうだ」 無数の赤いライトが点滅している。 一真は再び車を動かし、迂回を始めた。 「一旦離れて、どっかで作戦会議でもするか。避難指示が出てるから、泊まるとこはないだろうけど」 作戦…… ヒートウォールに近付くにつれ、夕子の口数は少な

【小説】東京ヒートウォール 第3話:ケンカ

(第1話はこちら) フロントガラス越しに見る風景は、もう日が沈む準備をしている。 状況は何一つ変わらない。 ヒートウォールをこの目で見たというのに、一真は相変わらず無表情で、無関心そうで、ゲームオタクだ。 「アイテムが足りないのか。それとも他の誰かを仲間にしないと先へ進めないのか。なんにしても情報不足だな。街へ行って誰かに話を聞くか……」 「一真さん、そのゲームに例えるのやめてもらえませんか?」 人の妹が行方不明だというのに。 不愉快でならない。 「ゲームでも現実で

【小説】東京ヒートウォール 第2話:東京へ

(第1話はこちら) サイフが入ったショルダーバッグを引っつかんで、夕子は上り新幹線に飛び乗った。 ――朝美と連絡が取れない。 「回線が混み合っている」ならわかる。でも朝美のケータイにかけると、「電源が入っていない」とか、「電源の届かない地域にいる」とアナウンスされるのだ。 ケータイのチャットアプリの画面に「どこにいるの? 無事なの? 連絡ちょうだい」という言葉を叩き込む。――朝美からの反応はない。 移動の間に車内モニターやケータイのネットを駆使して、できる限り情報を

【小説】東京ヒートウォール 第1話:発生

■あらすじ 21××年―― 増え続けた超高層ビル群は、城壁の如く都心を包囲。都市部の気温は、気象庁の予想をはるかに上回る早さで、上昇を続けた。 夕子の妹、朝美が 岩手から東京へ出かけたその日、代々木で火災が発生。大規模化したそれは、超高層ビル群を核とし、天を衝くほどの灼熱の気流となった。「ヒートウォール」の発生である。 連絡が取れなくなった朝美を探しに夕子は東京をめざし、ゲームオタクの青年、一真と出会う。 「えっ? 東京? 今から? 何しに?」 妹の朝美から突然「ちょっ