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愛犬チイサイノと寝ると、まっとうな生活を送ることができる

父が溺愛していた愛犬チイサイノ(日本スピッツ)は、毎晩父の部屋で寝ていた。父が他界してからは、母の部屋で寝るようになった。だけどひと月ほど経つと、チイサイノは母の部屋から出て、また父の部屋で寝るようになった。

時々夜中に、ワン……ワン……と父を探すようにベッドに向かって鳴いている。

神経質だったチイサイノは、父が戻ってこないことでさらに神経質になってしまった。母が出かけようとすれば、必死に引きとめる。いつも以上に甘えたり、家中追いかけたり、引っ切り無しに吠えたり。

私が座椅子に座っているときは寄ってきて、なでて、と背中を向けて座ったり、座椅子の陰で熟睡したりする。今までチイサイノがそういうことをする相手は、父だけだった。座椅子を使っていたのは父だけだったし、なつかれていたのも父だけだった。私も座椅子を使うようになると、チイサイノは時々、私をじっと見つめるようになった。

父が他界してからしばらくして、チイサイノは私と母になつくようになった。多分、父がもう戻ってこないことを受け入れたのだと思う。あの小さい頭で、そういうことをちゃんと感じ、考えているのかと思うと切ない。

  *

私の愛犬であるオオキイノ(ゴールデンレトリバー)に申し訳ないと思いつつ、この冬からチイサイノを私の部屋で寝かせることにした。

父と母の部屋は並んでいるから、チイサイノは行き来してしまう。だったら行き来できない私の部屋で寝かせたらどうかと試したところ、これが大成功。夜中に徘徊しなくなった。

チイサイノの寝床用に大きめの座布団をあてがったところ、これがまず気に入られた。私の寝床は父の整体用マットレスに布団を敷いたものなのだが、これも気に入られる。父と母はベッドなので、チイサイノはいつも畳で寝ていた。ベッドの上だと落ち着かないのだろう。

私の部屋では、マットレスからはみ出た敷布団の上で寝るのが好きらしい。マットレスのへりに寄りかかれるのがいいようだ。同じところで寝続けると暑いのか、夜中に座布団とマットレスとを行き来している。

近頃はニャンコのように私の布団の上に乗り、足元で眠っている。しあわせの重みである。

チイサイノは私の部屋での寝心地をえらく気に入ったようで、寝る時間が近づくと自主的にオシッコを済ませ、私のところに来て、連れてってと言わんばかりにじっと見つめてくる。とてもかわいいのだが、さすがに8時では早寝がすぎる。

かくしてチイサイノと一緒に寝る生活が、ふた月ほど続いている。チイサイノは落ち着いて熟睡できるようになった。

  *

それに加え、私の方にもいくつか影響が出ている。

まず消灯時間が早くなった。チイサイノに気をつかって、すぐに照明やテレビを消すようになったのだ。しかし数日経つとそれも慣れ、こっそりテレビをつけるようになる。すると寝ていたチイサイノがむくっと体を起こし、私をにらんでくる。

「はいスンマセン!」
慌ててテレビを消すと、チイサイノは背中を向けて丸まり、盛大にため息をついて、また眠りに就く。入院中のような強制消灯である。

消灯が早いと私が眠くなるのも早まり、結果、以前より1~2時間ほど早く寝落ちするようになった。

それから、起きる時間も早まった。早寝するから早起きになった……というより、チイサイノがトイレに行きたくなって私を起こすのだ。

トイレを済ませて二度寝をしても、母が起きて階下でガタゴト始めると、チイサイノが母に会いたがって吠え始める。おかげで私も一緒に起きるようになった。

あと、掃除のこと。チイサイノの毛がよく飛ぶので、部屋の掃除の間隔がものすごく早まった。

掃除をするときに物を動かすのが面倒だと思い始め、今度は片づけに着手。家具を減らし、部屋がスッキリ。掃除も楽になった。

それとシーツの洗濯も早くなった。シーツがよれ始めると、チイサイノが穴掘りを始めるから。お風呂から上がって部屋に戻ると、ぐっちゃぐちゃにされたシーツの上でチイサイノが寝そべり、私を出迎える。洗濯してパリッとしたシーツだと、穴掘りはされない。

何はともあれ、父にしかなつかなかったチイサイノが、私と母にも心を開くようになったことにはホッとしている。心のよりどころは、多い方がきっといい。

私のことはルームメイトとでも思うようになったのか、かなり慣れてくれたようだ。今では茶の間にいるときも私のそばで寝るようになったし、物音を立ててもガバッと起きなくなった。

チイサイノの情緒不安定はだいぶ落ち着き、私も私で、チイサイノと寝るようになってからとてもまっとうな生活を送れるようになった。

免疫異常の私にとって、睡眠を増やすことは、ステロイドを増やすよりも大切なこと。

朝の早すぎる時間に起こされるのは少々困るが、私を早めに寝かそうとしてくれるチイサイノには、感謝すべきであろう。


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