ホームスクール運動と公教育への影響/ホームスクール組織のメリットとデメリット
【ホームスクール研究】
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ホームスクーリング・センター 木蔭です。
2023年8月に次のページを更新しました。
この記事は、ぜひ次のホームスクール研究noteとあわせてお読みください。言葉の共通理解の手助けとなります。同じ言葉でも米国で意味するところと日本で意味するところは異なる部分があることが確かめられました。日本のホームスクールを語るうえで前提をそろえることは非常に重要なことです。
今回、取り上げるのはこの論文です。
『アメリカのホームスクール運動のインパクト
Impact of the Homeschooling Movement in the United States』
長嶺宏作(帝京科学大学) 2019年
論文の見出しと目次をリンクさせています。記事の大見出しは、論文の目次の通りです。小見出しの節でkokageの見解からの要約と考察をすすめていきます。抜粋や箇条書きなどに変換しての引用は引用文のカッコ内におさめます。
Ⅰ はじめに
全就学人口に対してホームスクール、チャータースクール、私立学校の生徒数は10%ということのようです。(米国における”私立学校”とは日本とは異なります。日本では私立学校とは国公立学校と同様に学習指導要領という主軸があります。米国の私立学校は政府の提供するカリキュラムに縛られない私的教育なのです。これは親の教育権に関係します。※参照 『【ホームスクール研究】ホームスクールと制度:米国の歴史と法から日本の現状を見る』から「訴訟という手段を取る形式的手続き」)
日本の就学人口の動向/不登校調査からの考察
令和4年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査からは次のことが報告に記されています。
調査報告は「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」となっており、解決すべき課題と対象が表題通りに明確です。課題の前提は「学校教育における問題行動と生徒指導上の課題」を取り上げている調査であることは忘れてはいけません。課題の前提に「こどもの教育のすべて」「こどもを取り巻く環境」とは異なる観点を持つ、ということです。
さて、ではわたしたちは別の観点でこれらの数字を見てみましょう。
「長期欠席者」の内訳は上の表の通りで、①病気、②経済的理由、③不登校、④新型コロナウィルスの感染回避(R2以降)、その他です。
調査によると①病気75,597人、②経済的理由39人、③不登校299,048人、④新型コロナウィルスの感染回避23,600人、⑤その他62,307人となっています。
長期欠席者の合計は46万648人です。
小中校在籍生徒数のおよそ4.9%です。
続いて、「長期欠席」をどのように分類して計上しているのかについて、曖昧になっているところはないか、漏れはないか、非常に気になるところですよね。
具体的には次のような基準があります。これを基本理解として持っていれば、印象や都合の良い想像だけで語ることは少なくなります。より具体的にこどもたちが置かれている状況に理解を示すことができるでしょう。それでもまだ「すべてのこどもを取り巻く環境」がいかなるものなのかについて知られていないであろう状況が存在していることを忘れることはできません。知っていること以上に、想像以上に、課題は多様に存在しているはずです。
ここまで読むと判明することですが、ホームスクールやオルタナティブスクールに通うこどもたちは、不登校の受け皿とは別に、学校教育ではないオルタナティブな教育を選んだとみなされていて、不登校にはカウントされません。その自由意志は尊重されています。しかし公的な支援や補助は約束されてはいませんし、不登校とは一線を画されて認識されていることは良くも悪くも影響があり、都合の良い解釈が展開されていくことには間違いないでしょう。
高等学校の進学率は現在97%を超えているそうです。
長期欠席者数の割合は、高等学校在籍生徒数の4.1%です。
現状、日本の教育機関において、こどもの多様な学びの機会の提供は、主に不登校児童生徒を対象にした不登校支援に限られています。不登校支援の枠におさまる観点でとらえられたこどもたちの居場所、学びの機会のある場所は次の通りです。そして調査は数年前から指導の結果も報告されるようになりました。学校内外での指導の結果、復学したかどうか、の数です。
ホームスクールおよびオルタナティブスクール、フリースクールは、平成18年(2006年)に改正された教育基本法の第十条(家庭教育) 「父母その他の保護者は、子の教育について第一義的責任を有するものであって、生活のために必要な習慣を身に付けさせるとともに、自立心を育成し、心身の調和のとれた発達を図るよう努めるものとする。」の理念のもとに理解され、国も助けてくれると信じて親たちが選んできた道でした。
その道は、不登校のその先にもあるものでしたが、広く、多様な道とつながっています。
Ⅱ ホームスクールの実態
1.ホームスクールの諸形態
公教育への問いは社会の在り方への問い
日本でも似通った歩みがあります。しかし日本で注目されがちな点は「出席扱いになる」ことであったり、「独学でも学校で学ぶ基礎的な学習を身に着けること」に偏りがちで、学校復帰からは逃れたものの、社会的自立を目指して、「いつか社会に適応する」ことを目標に置くことには違和感を示しません。その「社会」とは何か、誰が、誰に、どのように期待しているものかについての問いかけは常にされているでしょうか。公教育への問いは、社会の在り方への問いです。
2.ホームスクーラーの社会的属性
教育の課題は、《教育》の土壌だけにあらず
「学校に行けない」状況になるのに、収入の差が影響するでしょうか。むしろ「学校に行けない」の先で受ける影響の要因は、両親の働き方のいろいろです。選択肢はさまざまですが、いずれも、余裕や選択の幅や安心があっての決定とはいえないことが多いことでしょう。悩みに悩んで、優先順位を決めたり、周囲の援助を求めるなどしてどうにかして環境を整えようと懸命に走り回ります。それはおおくが偶然とか、たまたまということもあり、誰もが同じようにして、同じ結果を得ることができるとはいえないのが現状です。それは教育制度だけの課題ではないことは明白です。
ひとり親、共働き、キャリア、地理的条件、健康、求める生活の質(QOL)、ウェルビーイングのおのおののハードル、家族の状況、社会の状況、あらゆる側面が絡み合います。教育の問題、教育委制度の問題、親の問題でもなければ、もちろん子の問題でもないわけです。
3.ホームスクールを選択した理由
ひとりの人間として
アンスクーリングな我が家において、こどもたちと共に過ごすことは、常に「親であるあたりまえ」「母であるあたりまえ」「こどもであるあたりまえ」が問い直される日々でした。それらは果たして日本の伝統がもたらしす縛られた文化の継承なのかといえば実は疑問に思います。情報化社会である現代だからこそ、それまで民衆の間に根付いていた根本的な”教え”の本質的な部分が、意図的に曲げられて”教育している”ととらえる方が事実のような気がします。
多様な文化の垣根を越えて共通する《なにか》に響いた人たちの営みのなかに、ホームスクールはあります。
そういった点で、この論文に書かれていることは、非常に共感を覚えます。
よい学校、よい教育、よい学び?
夢を描くようにこどもたちに「よい学校」を語ることをおとなたちは期待します。そんな場面で、私はいつもどこかしらチクリとするなにかを感じるのです。それらは、どうしても校舎、教室、黒板、先生、ずらりと並ぶ机と椅子、壁…といった「学校」という世界観からは決してはなれていないことを突き付けてきます。(だってそういう解答があって、それに正解した回答を期待しているんでしょ)と言われているような気さえします。
本当に、多様な学びは、こどもたちにつながっているのでしょうか。
公教育という日本の社会規範、社会行動、社会文化を支えている役目が、教育機会として必要なときに必要な者に提供される福祉的意義は高いものとして、その一方で、どんな社会で生きたいのかを問い、未来を描き、創造していくことにはどう向き合っていけるのか。公教育制度はそれを寛容に受け容れ、支えていけるのか。
守破離の道を進んでいくこどもたちを見送り、見守る覚悟ができるのか。支援とはなにか、に通じることでもあるでしょう。
手の届く範囲でできること
”それがあたりまえになるには”。
わたしはいつも思うのです。それがあたりまえになるには、誰か特別な人が、大きな声をあげて、誰もが賛同し、全員が一斉に行動を起こすことじゃない、と。
それは、人の成長と同じで、「いつのまにかの魔法」なのだ、と。だから、とても平凡なものだと常々、思うのです。
筋が通った、信念を持った行動と態度であることです。その本質的な部分は、かならず、共鳴する誰かがいます。
Ⅲ ホームスクール運動の社会的・政治的背景
1.二つの社会運動
2.2つのホームスクール支援団体
この節は、ホームページ『ホームスクーリング・センター木蔭』の「日本のホームスクールの歴史」から、「もっと詳しく!日本のホームスクール」で時系列に書き並べてみました。この論文の内容を加えて、新たに更新した形です。
「ふたつの社会運動」「ふたつのホームスクール支援団体」の経緯を確認してください。その意義は、英米のホームスクールの歴史が、日本のホームスクールの認識に大きく影響を与えていることがわかることです。ふたつの社会運動、ふたつのホームスクール支援団体の軌跡は、日本のホームスクール運動にも確実に影響を与え、双方が存在しています。メディアであかるみにされるのはその一方だということにも気づく人もいるでしょう。
そのうえで、日本には日本のホームスクールの歩みがあることを自覚し、どの方向へと帆を向けるのかをひとりひとりが考える機会になることを願っています。
Ⅳ ホームスクール支援団体のネットワーク
ホームスクール支援組織のメリットとデメリット
日本でもホームスクール家庭がつながるネットワークや支援団体の組織的なつながりは期待されていることでしょう。まず、米国におけるホームスクール運動からそのメリットとデメリットを見てみます。
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