ペットを連れて歩く女性は都心部ではよく見る。
人間より嗅覚の優れた動物でありながら、排気ガスが舞うこの都心部を歩くときにどういう気持ちなのだろうと気になったりするが、
夜間のライトも、同じように厄介なのではないかと思う。
人間の顔の高さには当たらないがちょうど犬の高さに行くようになっている。
実際のところどうなのだろう。
話さないから気持ちは分からないが、眩しいはず。

そんな本当の気持ちの分からない犬の中にも
分かりやすく嫌なことは嫌だと表現する子もいることを知った。

23時を回った頃、その場所は活気あふれる繁華街。
飲み屋や何のお店か分からないような店舗も連なる通り沿いは、酔っぱらったサラリーマンがスーツ姿を崩し、つまみが効かなくなったかのような大音量で話している。
それをみて「うちどおっスカ？」と仕事に勤しむスーツ姿の男や
その横で壁にもたれ、片足を曲げながらスマホをいじるスーツ姿の男。
その人の動きを避けながらとろとろと進む空車のタクシー。

この通りを、ペットを連れて散歩している女性が目に写った。
大して気に留めることはなかったが、
なぜかその場所で動かず止まっている。

ゆったりとした車の流れと共に近づくと、白い毛で顔の周りを覆ったフワフワの犬が力を抜き地面にぐでんと伏せている。
それを、飼い主がリードでポンポンと「行くよ」と合図をしても動かない。もう一度「い、く、よ！」とリードを少し強めに引くが立ち上がらない。
それを見かねた飼い主が無理やり引っ張ろうとしても動かない。

「あ～もう」と飼い主の女性が面倒な表情を見せた後、リードを真上に引っ張ると、
ワンちゃんは立ち上がるのではなく、前脚も後脚もだらんと力を抜いたまま持ち上げられた。
そのリードを降ろすと、再び地面に伏せる。

上下しても、まったくその犬は力を入れず、
リードの動きに身を任せている。
「もう、アルキタクナイ」
という気持ちがわかり易く見て取れた。

リードの先に真っ白の雑巾を付けて上げ下げしているようにしか見えない様子に、思わず笑ってしまった。