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専門クリニックで医療界に新しい流れを創る/LIGARE 血液内科太田クリニック院長“太田 健介”さん

昨年8月に大阪に「日本初の血液内科クリニック」を開設した太田健介さんにインタビューさせていただきました。既存の医療システムが経済論理優先で動くことで、患者さんや働くお医者さんにしわ寄せがきています。太田さんはその問題を大きな視点で捉え、専門クリニックを広げることによって解決しようと奮闘されています。医療制度の現状や専門クリニックにかける思い、その先に見据えるビジョンについて語っていただきました

太田健介さんプロフィール
出身地:大阪
活動地域:大阪・心斎橋
経歴:
1989年 大阪市立大学医学部卒業、医師免許取得
1989年 大阪市立大学附属病院 臨床研修医
1995年 大阪市立大学大学院、医学博士取得
1996年 ドイツ マックスデルブリュック分子医学研究所留学
1997年 大阪市立大学医学部臨床検査医学教室 助手
1999年 大阪市立大学医学部臨床検査医学教室 講師
2006年 大阪府済生会中津病院 血液内科
2018年 LIGARE 血液内科太田クリニック・心斎橋 院長
資格:
医学博士、大阪市立大学医学部臨床教授、日本血液学会認定 血液専門医・指導医、
日本内科学会認定内科医、難病指定
座右の銘:「初心忘るべからず」

■医療システムを変える

記者:太田さんの夢をお聞かせください。

太田健介さん(以下、太田 敬称略):
今やっていることの延長として、新しい医療システムを作っていきたい。
今は病気になったら病院に行って、治療をするために病院に通い、悪くなってきたら入院して最後を迎える、というのが大まかな流れだが、そういうイメージではない形にしていきたいです。

既存の医療システムは大きく①病院②クリニック③在宅医療の3つに分かれていますが、国が今重視しているのはクリニック。

国がイメージするクリニックは〝何でも屋〟です。総合診療といいますが、全身をほどほどに診れるのがクリニック。

それに対して病院というのは診療科に分かれていて、臓器別に診察していきます。
心臓の先生は心臓以外の事を見ない代わりに心臓に関してはめっぽう詳しいと行った具合に。

国が描いているのは、クリニックに来た患者を総合的に診察し、捨て置けない場合は臓器別に専門の知識をもった病院へ紹介し、病院がそこを集中的に治療して、患者をクリニックに戻す、といったイメージです。

逆に言えば、臓器別に重大な障害がある人は、病院に通い続けないといけない。そして、多くの場合は患者さんは最終的にそうなるのです。

原因不明で死ぬということは現代では滅多になく、今は何が死因になっているのか分析できます。そうすると手に負えなくなったら、病院で治療するか、在宅で看取るのどちらかになる。

僕が作ろうとしているのは、専門クリニックです。
特定の臓器を集中的に看るクリニックをつくらなければいけないと思ってます。
病院ではなくクリニックに特殊な疾患の人が通えるようにするシステムを作りたいのです。

たまたま自分のやっていた血液内科というのは特殊領域で、血液内科の専門クリニックというのはほぼ日本にはないので、それを作ってみようと思いました。

「病院は入院治療が必要な患者が通うところ」と位置付けて、通院でできるのは何も病院に通わなくてもいいようにしたい。

記者:国がクリニックを重視しているのはどのような理由からでしょうか?

太田:何でもかんでも病院にかかるというのを防ぐといいますが、本心は病院を減らしたい、という国の狙いがあります。

なぜかというと、病院はお金がかかるからです。

病院は24時間体制で高度な診療設備を備えていますので、多額の人件費や設備費がかかります。軽症患者まで病院に集まると、どうしてもお気軽な入院や検査が増えて医療財政を圧迫するのです。このため、国はクリニックの紹介状なしで大病院を受診すると、選定療養費という数千円〜1万円の追加の費用を患者さんから徴収することを義務付け、お気軽な大病院受診を抑制しています。

こういった患者さんの医療費を軽減させるために、国はクリニックを重視しているのです。

■総合クリニックが増えるデメリット
しかし、クリニックに総合的な機能を持たせてしまったため、専門的な治療を受けたい患者さん達がどこにいけばいいかわからなくなってしまいました。

またクリニックの先生達にどうやって専門的な知識を身につけさせればいいかという大問題もあります。

大病院に務める人は少々過酷で安い給料でも、自分の存在価値を高めるためにエキスパートな知識を身につけたいという人が頑張って勤め、一方でクリニックを開業する先生は、お金をたくさん稼ぎたいという人が多い傾向があります。

そうするとクリニックというのは病院に比べると一段レベルが落ちてしまう。
患者に向き合う姿勢もなあなあになり、面倒くさい状況になったら患者を病院に丸投げする。病院はクリニックから患者をいただき、できるだけ紹介してもらったクリニックにその患者を返す、という関係が出来上がっています。

■国が在宅医療を薦める理由
また、国はひたすら医療費を減らしたい。なるだけ高齢者が病院に戻らないようにしたい。そこで在宅医療があります。

1番医療費を軽くする方法は人件費を減らすことです。家族に面倒を見て貰えば人件費を減らせます。

2人に1人がガンになり、最先端の治療を必要としている時代で、在宅医療を薦めることは、「諦めなはれ」と言っているようなものです。
「病院完結型から地域完結型」「在宅ケア」などといって聞こえはいいですが、要は入院患者の数を減らしたいのです。
国が予算を削減してこの動きにさらに拍車がかかってる状況があります。

大局的な見方をすれば、医療機関はコストパフォーマンスで動いているところがあります。
0歳の子供が5歳になるまでに、国は殆どコストがかかりません。
一方、80歳の病人を5年生き延びさせようと思えば、最先端の治療を投入したり、また年金を払わなければならないなど膨大な費用がかかります。

経済成長も鈍化し、国はなけなしのお金をどこに費やすか考えるようになりました。国民にも非難されず、医療費も軽減できるということで国が思いついたのが在宅医療制度だったのです。

■医療の進化が引き起こす問題
現在ガン患者はものすごい勢いで増えていますが、重要なのはガンの罹患率に対して死亡率が減っているという事実です。
医療の進化により延命することが多くなり、ガンに罹患したまま生きてる患者が増えているのです。

ここで2つの問題が起きます。
1つは患者数の増加が医師数の増加を上回り、医師の負担が重くなっていること。
もう1つは高齢者問題を引き起こし、医療・社会保障費はどんどん増えて若者を圧迫するという事態です。いわゆる2025年問題ですね。

国は高度急性期と急性期病院の数を2025年までに24万床減し、2013年の約2/3にする政策を打ち立てています。
病院数を減らしクリニックへ向かわせるようにし、最終的には在宅医療を増やす流れを作りたいわけですね。

■生死の概念をどう捉えるか?
記者:全部、経済論理で動いているというわけですね?
太田:見方によってはね。
このような国のやり方に全面的に反対というわけではありませんが、ダメでしょ!とは言いたい。

蔑ろにされている患者さんを思えばもちろんのこと、経済的に締め上げて病院の数を減らせば、そこで働いていたスタッフも働き口がなくてあぶれてしまう。

ただ在宅医療に可能性を感じている部分もあります。
動機は悪でも結果は善になることもあるからです。

それは「死ぬ」ということをどう捉えるかによって変わると思います。
そして「死ぬ 」という概念を考える上で、現代科学の枠組みでは無理だと思います。
ずっと興味を持っていたのは仏陀がどう考えていたか。
現代科学では輪廻転成は死の恐怖を逃れるための絵空事のように言われるが、いろんな事例を研究する中で「もっと本質的なことが隠れているのではないか?」と考えるようにななりました。

記者:死ぬということを逆説的に捉えるということでしょうか?
太田:コペルニクスが地動説をとなえ大きなパラダイムシフトが起きましたが、次のコペルニクス的転換は「死が不幸」という見方から「死が幸せになる」というような見方になることだと思ってます。

地動説につながった道具として望遠鏡がありましたが、死生観が裏返るようなキーとなる道具はなにか?その見方の変化に関心がりました。

今やっている専門医療を「死が幸せになる」というイメージに近づけていくには、まずは患者さんに寄り添う必要があると思っています。
医療システムが崩壊しつつある現状で、避難所をつくらなければならないし、心の側面に向かっていくにも段階的アプローチが必要と感じています。

避難所とは国の推奨する総合内科のクリニックではなく、専門のクリニックです。
24万床減らされる病院の受け皿になるクリニック。

■専門クリニックの成功モデルを創る
専門クリニックを成功させて、真似する人たちを増やしたいのです。
「このやり方で専門クリニックが運営できるんだ!」ということを示すことができれば、有志の先生達が立って自然にシステム化されていく。

記者:専門クリニックが増えることで、医療費軽減につながるのでしょうか?
太田:はい。その道の専門医が散らばることで、病気の早期発見や症状悪化の際の処置がスムーズになり、入院患者が減ります。

また、病院は常に24時間営業だから体力的に辛いところがあります。家庭との両立が難しい女医さんや高齢のスペシャルな技術をもった医者などがドロップアウトしてしまうのです。それを見た若い医師にも影響出てくる。

9時から17時までの営業時間の専門クリニックが増えれば、病院で勤めていたスペシャルな技術を持っている高齢のお医者さんの受け皿にもなります。そういう将来的な受け皿があることがわかっていれば、若い医師も安心して病院で自分の専門性を磨くことができます。

患者さんのニーズ、働く医者のニーズ、国の政策、全てにマッチするのが専門クリニックだと思います。

記者:専門クリニックは現在増えてきてるのでしょうか?

太田:糖尿病専門のクリニックなど徐々には増えてきていますが、がん領域は乳がんなどの一部を除けばまだまだです。

血液のガン治療は抗がん剤をたくさん投与する最悪級のガン治療になります。これ以上大変なところはないので、私のところで血液内科専門クリニックとして成功することができたら他のがん領域でも「いける!」と後に続く人がもっと出てくるはずです。
だから日本初なんです。

これは絶対必要なシステムだと自信があるので、いろんな角度から賛同者が増えて欲しい。
よく周りから「(ビジネスモデルとして)真似されますよ。」とか言われるんですけど、私はそれを望んでいます(笑)。別に独占したいわけではなく、どんどん共有したい。私は人の役に立てればいいんです。

この仕組みが広がった頃には、心の問題に着手していきたいですね。
やっぱり物事の観方をどんどん変えていかなきゃいけないと思っています。
AIとかが来ているのに今のままだったら、未来の子供達に何も残せない。

専門クリックも大きな夢ではありますが、やりたいことの中の一部なんです。

■“つながり”に込められた思い
記者:病院、クリニック、在宅の連携が重要になってきますね。
太田:「リガーレ」というのは実は「繋ぐ」という意味なんです。
まさに〝つながり〟がこれから大切になると思い、ロゴにつけたんです。
それぞれの医療機関の橋渡し役になっていきたい。

記者:つながりを大切にしようと思ったきっかけがあったのでしょうか?

太田:以前勤めていた病院で、定年まで働いて終わったら「サヨナラ、あとは勝手に頑張って」となる医療業界の現状を見ました。これは社会問題だと思ったし、もっとできることがあると感じたのがきっかけですね。

いつも自慢しているのが、私のクリニックのスタッフの殆どは別のスタッフや賛同してくれる医師の紹介で集まってくれたというところです。同じ波長の人が共鳴してくれて、人が人を呼ぶ形で繋がっていってくれてる。

このクリニックは一昨年の3月に話が上がって、去年の5月にオープンできている。これほど超スピードで展開できているのは、共鳴してくれる人たちの協力があったからです。人と人との関係によって、自然に走っていってる感じがしています。

お金だって人の協力を得る権利だと思っています。
人とのつながりがなければ、何も始まりません。

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LIGARE 血液内科太田クリニックHP
https://ligare-clinic.com

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【編集後記】
記者を担当しました大槻、川名です。
太田さんはお医者さんを目指されたきっかけの一つとして「ブラックジャックに憧れたから。人間くさいところが好きなんです。」と仰っていました。医療業界の矛盾に真っ向から向き合う太田さんの姿がブラックジャックと重なって見えました。命と真剣に向き合い、人の繋がりを大切にされる人間くささのあるとても魅力的な先生でした。太田さんの今後の更なるご活躍を期待しております。

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この記事はリライズ・ニュースマガジン“美しい時代を創る人達”にも掲載されています。
http://rerise-news.com

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