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白い家

白い家

いつも通学路の途中で見かける白い家がある。木に囲まれ、その全体像は見えない。水蒸気の朝、何気ない会話が繰り広げられる。公園で何して遊ぶとか、誰々が好きとか。好きな人いるのかと聞かれて、不快になる。赤いランドセルの肩で背負っている部分をよだれが溢れるくらい噛み締め、口をつぐんだ。そんな胸の内のこと、この土を覆う黒い壁の上で言葉にするほど、私は落ちぶれていない。集団はそのまま歩みを進める。その中を漂う

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木も淫夢が好き

木も淫夢が好き

木を舐めている女を目にした。彼女は丘の上で、何かを浸透させるようにぺったりと手のひらを木に置き、沿わせた身体をゆっくり上下させながら舐め上げる。何度舐めたのだろうか、木の皮は一部だけ腐ったように濡れているのがわかる。あれはこの村で最も神聖な木である。この村の住人の誰かが死んだ時は必ずあの木の周りに埋めるのだ。あの丘は死人によって膨らみ、あの木は雲を超える高さにまで、それを養分として成長した。この村

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自動筆記15 臓器との荷揚げ

自動筆記15 臓器との荷揚げ

関節の間に風が通るのと、筋肉とか神経とか身体のこと、皿の上にある物を食べるだけの自意識に、ふわりと眉間にナイフを刺される。真水が降って大地に衝突して音、屋根がある部屋、音。理解と呼べるような理解はないけれど、そういうことか、と呟ける。全て知ってて、深い所から見て楽しんでることが、白い壁に指の腹を当てるとわかる。扉や橋、誰にも見えない空間に、自由に振る舞える表現に染まった身体がたっぷりあって、すごい

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自動筆記14 溢れ返ったアー威

自動筆記14 溢れ返ったアー威

取り返しのつかない記憶を、全部雨にしてわからないくらいに海にして、誰も気にかけなくなり、地球を愛せる蟻の歩幅まで。ラクダのこぶに溜まった水に、コンビニのライトが当たってるみたいなこと、分別の板が分厚くなって、全部空に合わせて雲がかからない。道を選ぶほどに深い深い見えない所で繋がってる知らない世界。蓋をするよりも、思い出せないほどに目が寄る方が、ずっと中心、結果のない恋がある。コンクリートの粒や、ク

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ショートショート再開しよう

ショートショート再開しよう

ろうそくに火を灯して、締め切ったカーテンが私の物質的な表現を背にしているように感じる。鼻に痛みほどの暖かみ、目に眩しい僅かな炙り、頬を削ぐように部屋の立体の深みに逃げる気体は、後頭部を板に跳ね返る記憶と混ざり合いながら、胸の奥に来世として落ちる。目を閉じれば、まつ毛の風で火が揺れ視界が暗明になる。顔の表皮の中央に星があり、頭それ自体も星のように思った。その幻想に、息を吹くと火が消え、そのカーテンは

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自動筆記13 グナの諦めない部屋

自動筆記13 グナの諦めない部屋

風に靡く洗濯物に、山奥にいる昔の私の匂いを感じてうっとりして、瞑想は絶え間なく、遠距離で延長されて、何も必要としなかった。本当は手放していいはずの全てを、小指だけでもと可愛らしい持ち方をする。むしろ、このためにどちらにも振り切ることのない旅がある。文章を書く時の骨と肉の間に風が入るような、この感覚欲しさに書くことの、その躁、これはクリアで、現実が1ミリになる。やっぱりキリンは可愛くて、どんなに咲い

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死を飼い慣らす

死を飼い慣らす

自己への執着を剥がせば剥がすほど、本当の自分が見えてくると、二分法で本質を考慮させないように、湖があった。理由のように、生きてるものは皆存在していて、何もかもが心のように思った。睡眠のような意識の沈み込みが、至る所で、目が足りないくらいに、何もかもが、それがとても寂しく、音が全くなかった。僕は、逃げどころの無さに、寿命の間もがくこと、それだけだった。切腹をする覚悟が石として転がっている。土にも風に

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自動筆記12 ゼロポイントの魂崇拝

自動筆記12 ゼロポイントの魂崇拝

途方もない無気力で、それは発泡スチロールが柔らかくて擦れる音も高貴なくらいに異様で、どこからも、自我が迫ってくることに、もう焦ることもなく、有り余るほどの可能性を全部閉ざして愛さえあればよかったし、木になった。無気力と言葉にされた感覚は、どちらにせよ完璧なタイミングで完璧な姿でそこにあった。そのことさえ理解しているというクジラでの、無気力でもあった。抗えなかった、という敗北でも勝利でもあるような、

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自動筆記11 多摩川沿いでの革命

自動筆記11 多摩川沿いでの革命

アーモンドが切られているから、小魚が砂糖と胡麻で固められているかのように、壁や天井は思ったが、それを指でつまんだり掻き集めたりビニールボールの中にいるような食べっぷりには、何も彷彿とさせなかった。体系化された有酸素運動が、粒子を整列させながら、糸や花のように満ち足りていたし、見る者が独存しているときの対象が無限の祝福や悦びが溜まり溜まりの笑い声が意識を向けるどこからも、内側からも放たれていた。だか

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自動筆記10 創造プラクティス予言かわ

自動筆記10 創造プラクティス予言かわ

降り注がれている溶岩を受け容れた動勢によって、あなたは大きなくじゃくを前にするでしょう。頭の回りを飛んでいる朝に、扉がいくつもありあまるほどに立ち並んで、閉める動作に時間をかけられない忙しない夏が、口角に火薬を偲ばせるでしょう。クジラやパソコンに着いた本当の色が見え、存在を尊び体験に身を埋めて見える空がとても綺麗に脳裏に映るでしょう。内臓が洗車され、権利が次々と朽ちて、大いなる出来事の中で個人的な

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自動筆記9 庭師の庭シャワー

自動筆記9 庭師の庭シャワー

傘をいくつもいくつも刺してもしっくり来ない夏が続いた。上とアザラシ、下と空気、右と全部の言葉。細胞分裂が進む外で、鉛のような雲の動きに属せない言語空間の点と点に、かかるはずもない橋をかける。隙間を縫うように1番身動きできないありがたい所へと跳ね進みながら、知らない自分で笑っている。浮遊感だけが取り残され、ランニングマシンに乗ってるみたいに理解できてしまう体験が乾いて、汗が空に落ち、プールの塩素の匂

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自動筆記8 ニューロンの体重

自動筆記8 ニューロンの体重

電車みたいな海苔巻きに乗り、いつもみたく感覚はとぐろをまき、海の中や森の中、いたるところに僕はいた。この意識の中にぽつりとあること、遠隔された歌が、せっせと歩いている音。細胞が雲みたいに、ふぁーと外へ行きながら、形を保ち、ありがたい匂い。あり得ないことは、刹那に起きてて、見向きせずに生きている。常識に守られて、思っている以上に着込んでいる。それでも寒いと思っていて、全て脱いで仕舞えば暖かいことを知

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自動筆記7 暇という芸術

自動筆記7 暇という芸術

水面と中にあるもの、目、歪んで見える。いつもだ。いつもだから意識が内側に向く。矢を一つ一つ丁寧に抜き取り逆方向へ投げていく。見る時見られている、食べる時食べられている、笑う時笑われている。カモメが鳴きそうな静寂が、海の上に産まれる。かき混ぜられるように動く海に白泡が、伝えを宿している。降り注ぐような外から、大切なことだけが芽のように内側に生える。中で花が咲き、外が土。土を触るように歩き、情報を体験

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自動筆記6 飢餓の幸福感

自動筆記6 飢餓の幸福感

目立たないもの、目立つもの、視力、透視された遠隔操作。細胞ひとつひとつを裁縫して、石に大きなタトゥーを彫る。井戸を覗き、よりリアルに世界が迫ってくる。生きていることが、より鮮明にわかる。玉葱の中心で待ってるあなたに、思い出を届けたい。首を絞めるような固定費に、持続可能な空、いつか終わるはずの今が、この炭素が尽きるまでは続くだろう。ビタミンに意味があるのか、と言われ、意味とはビタミンだと答えた。太宰

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