京都で見た夢のはなし

サトシ:8月2日

前回のシマの日記を読んでいて、なるほどと思った。いま住んでいる街に飽きてきたら、「もうすぐこの街を離れる」と自分に思い込ませればいいのかと。そうすれば、一人じゃ入りにくいなと思っていた近所の小さなバーにだって入れるかもしれないし、隣の家の人とも、もっと話ができるかもしれない。
「もうすぐ離れるから」という気持ちが勇気を呼び覚まし、行動を促してくれることはある。いつでも会えるから、と思っている人ほど意外と会えなかったりする。そして会えなくなったあとで、なんでもっと会っておかなかったんだろうと後悔したりする。人は変わるし、それを取り巻く状況も変わっていく。
最近ある友人と話してるとき、唐突に「人が生きてるって、いいよね」と言われた。だって、生きてれば会えるから。好きな人、生きててくれてありがとうって思うよね、と。あまりにも衝撃的で、僕はうまく言葉を返せなかった。「ああ、いいこと言うねえ」とか、そんなことを口にした気がするけど、よく覚えていない。そのせりふが体にずっと残っている。考えたこともなかったから。でもこれからはできるだけ伝えていきたいと思った。僕のすべての友人・知人・これから会う人たち、みんな生きててくれてありがとう。

それはそれとして、僕はもう4年ほど東京都三鷹市から住所を変えていない。これまで葛飾、小平、浅草、高松、松本に住んできたけれど、実家のある葛飾をのぞけば、歴代の居住地の中で4年は最長である(念のため、制作の一環で住んできた場所は含めていない。それも合わせると数百箇所になってしまうから)。
いまいるところは家賃も安いし、とても広いので、資材や道具もたくさん置ける。居心地がいいので出ていく予定はないのだけど、もうひとつくらい拠点がほしいなと思っている。そして、実は10年以上前から京都に一度住んでみたいなと思っている。
先日仕事の一環で京都に行ってきて、やっぱりいい街だなと思った。それほど大きな街ではないけど、いろいろな顔がある。大学生の頃に、シマとその友人のKくんと三人で、何時間も飲んで歩いた思い出もある。あれが人生初の「はしご酒」だった。ああいうことが堂々とできる世の中に、はやく戻ってほしい。
その京都で、ある夢を見た、というのが今回の日記の本題である。目覚めてすぐに、今年最高クラスの夢を見たと思ったので、ここに書き残しておきたい。

僕は1泊1200円のドミトリーで寝ていた。いつの間にか夢に突入しており、いま自分が寝ているドミトリーの入口から、8年前に別れた昔の彼女が入ってきた。夢の中では一緒に泊まっているようだった。
二人で話していると、全く知らない高校生くらいの若い男の集団が、いやに親密な態度で近づいてきた。若干の悪意を帯びた目つきで、ドミトリーの入口にわらわらと集まってきた。
リーダー格らしき、丸坊主の男が僕に話しかけてきて、それに答えているうちに、別の男が彼女のバッグから財布を引き抜いた。彼女は「それはだめ!」と叫んで取り返そうとした。僕も、それはだめだ!と財布を取り戻そうとしたが、別の男たちに体を抑え込まれ、財布は持っていかれてしまった。僕の財布も同じように盗られた。
抑えられている手を振りほどいて、僕はリーダー格の男の肩を掴んだ。顔を突き合わせて、財布を返すように説得しようとした。相手の目を見据えて、自分がいまなにをやってるか、わかってるのか?と。顔と顔は30センチも離れていない。僕は男に逃げられても後で思い出せるように、顔をよく見て特徴を覚えようとした。彼はジャージを着ていて、その胸元には彼が通っている高校の名前が刺繍されていた。特殊な名前だったので、ネットで調べればすぐにわかると思った。
僕は男に名前を聞いたが、教えてくれなかった。
「そんなの教えられないですよ。つかまっちゃうじゃないですか」
僕は説得を続けた。なぜこんなことをするんだ。なにが不満なんだ?
男は僕から目を逸らし、こう言った。
「政治もふざけた状況だし、不満ばっかりですよ」
僕は必死で、声はかすれていた。
「俺も政治家は嫌いだよ。でも、こういうことをやったらだめだ」
男の目は、少し潤んできていた。
「こんなことをやっても、お前が困るだけで世の中は何も変わらない。俺はこのあと、警察に行く。お前の特徴を話す。そしてお前はつかまる。それで終わり。それでいいのか」
彼はその言葉を聞くと、隣りにいる別の男に目配せをして、軽くうなずいた。
「すいませんでした」
すぐに財布がふたつとも返ってきた。そして他の男たちはぞろぞろと出て行った。
リーダー格の彼は僕の目を見て、力強くこう言った。
「おれ、やりますよ!選挙に立候補しますよ!」
僕はなぜか、ものすごく嬉しくなって、「やっちまえよ!俺はお前に投票するよ!名前はなんていうんだ?」と聞いた。彼はこう言った
「外山恒一です」
気がつけば、若かりしころの外山恒一がそこにいた。僕は「え!まじでー?」と叫んだ。同時に後ろのほうからなぜか、夢のエンディングを告げるかのような音楽が流れはじめたところで目が覚めた。

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