便りになります。

村上慧と島浩の公開交換日記

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村上慧と島浩の公開交換日記

最近の記事

最後の晩餐

お開きになったあとに、そのまま帰宅するのも呆気ないなと思い一人で飲み直すことがある。 せっかく飲酒しているのだからもう少し酔っぱらわないと勿体ない。という貧乏性が故の悪癖である。 昨夜もそのような習癖で飲み屋のカウンターに一人流れついていた。 左隣には、自分よりひと回りほど年上に見える男性が座っており、マスターとの 会話の内容から「麺好き」ということが伺えた。 男性は、その日の昼に食べたつけ麺の特徴などを嬉々と話しており、そこから派生して今まで食べた麺のTOP3を発表していた

    • 結び目の妖怪

       昔あるところに、夜な夜な民家に現れては、あらゆる結び目を人外の力で締めあげ、ほどけなくしてしまう妖怪がいました。その仕事は非常に丁寧で、とにかく結び目っぽいものはぜんぶ被害にあいました。  翌朝出すつもりで玄関先に置いておいたゴミ袋の口などは、やられても大した問題になりませんでしたが、お弁当を包んだ風呂敷などは、ハサミで風呂敷ごと切らなければ昼御飯にありつけませんでしたし、米袋やコーヒー袋の結び目がやられると、その袋はもう使い物になりませんでしたし、軽く結んで上着のポケット

      • 銀歯

        区から歯科検診の案内が届き検診へ。 検診の結果、虫歯が発見され通院することとなった。 年末年始を挟んでしまうと休診日との兼ね合いも面倒だし、なんとか年内に全ての治療を終わらせたいと考えた。 歯医者へ通院するのは非常に面倒くさいが、様々な専門器具に囲まれた環境下で口を開き、とにかく無抵抗な状態で歯科医や歯科衛生士にされるがままにされる。この「観念するしかない感じ」というか「完全にあちら側に分がある感じ」に身を置く緊張感のようなものが嫌いではない。 そしてひとつずつ工程が着実に

        • ありったけの夢をかき集め 探しものを捜しにゆくのさ

          「小さなガラス瓶に入れた、直径1cmくらいの、乾燥したみかんの皮の切れ端を、船便でドイツに送りたいのですが、郵便局に行ったら『どうしても植物扱いになってしまうので、いちどこの電話番号にご自身で電話をしていただいて、そもそも送れるのか、送れるとしたらどのような書類が必要なのかを確認していただけますか』と言われたので、電話をしています。どのようにすればいいのでしょうか」 と、『横浜植物防疫所業務部輸出検疫担当』に電話をかけ、 「それはどういった意図で送るものなんですか?」 と聞か

          古札

          妻の実家に帰省するや否や義妹からお守りを渡される。 願をかけたお守りのプレゼントかと思いきやそうではないらしい。 職場のロッカーの片付けをしている際に出てきた持ち主不明の古いお守りで、捨てるとバチが当たりそうだから返納してほしいと言うのだ。 よく見るとお守りはボロボロで、擦れているが「浅草寺」と書かれている。 大変に厄介かつ面倒なことを頼まれてしまった。 大変に厄介かつ面倒なことに他ならない。 東京に戻り、義妹から預かったお守りはひとまずテレビ台の上に置くことにした。 箱の

          このあいだ、人に誘われて山に登ってきた。渓流の岩に座ってカップラーメンを食べた。川の水を温泉と混ぜた天然の露天風呂に入ったりした。 めちゃ楽しかったし、すごく疲れたし、疲れたことで元気がでた。 元気を出すためには体を疲れさせるのがいいのかもしれない。 山道を歩いているときに思った。 山道の地面は傾斜があるし、石とか木のねっこで、でこぼこしている。足首はそれに対応するためにいろいろと角度を変える。膝は曲がったり伸びたりする。腕も前後左右にぶんぶん振られる。足の裏は危険を察知す

          夢のまた夢カード

          人が見た夢の話ほど興味のないものはない。という人もいるが、自分はどちらかと言えば人が見た夢の話を聞きたい派だし、自分の見た夢の話も人にしたい派だ。 しかし、そうでない人がいるという事も知っているので話をする相手は慎重に選ぶようにしている。 事のついでに、夢の話の良いと思っている所を発表したいと思う。 夢の話の、無責任であるところが良いと思っている。展開がしっかりしていようがいまいがに関わらず、見てしまった事が全てなのであるからありのまま話せば成立する。場面が切り替わること、登

          夢のまた夢カード

          京都で見た夢のはなし

          前回のシマの日記を読んでいて、なるほどと思った。いま住んでいる街に飽きてきたら、「もうすぐこの街を離れる」と自分に思い込ませればいいのかと。そうすれば、一人じゃ入りにくいなと思っていた近所の小さなバーにだって入れるかもしれないし、隣の家の人とも、もっと話ができるかもしれない。 「もうすぐ離れるから」という気持ちが勇気を呼び覚まし、行動を促してくれることはある。いつでも会えるから、と思っている人ほど意外と会えなかったりする。そして会えなくなったあとで、なんでもっと会っておかなか

          京都で見た夢のはなし

          たぶん引っ越さない

          最近引越しを考えていて就寝前にスマホのお部屋さがしアプリで、だらだらと物件を眺めることが習慣化している。 引越し理由は幾つかあり、新居に求める条件も様々だが、最も重要視しているポイントが「広さ」である。 希望の広さと予算にはまる物件はなかなか見つからず、広さも予算もクリアするには、今住んでる街を離れなければならないという事がわかった。 住み慣れた街を離れる事が現実味を帯びてくると、街での思い出が一気に押し寄せて、スマホをスクロールする指はだんだんと遅くなり、目を瞑り感慨に浸り

          たぶん引っ越さない

          街の大事な桜が抜かれた跡地に「seed」という会社がなにかをやろうとしている

          アトリエの近所に広いコインパーキングがあって、その敷地と道路の境界あたりに、大きな桜の木が二本、通行人を見下ろすように生えていた。毎年春には、軽く圧倒されるくらいに桜の花が咲いて、通りすがりに住人たちは写真を撮っていたし、桜に面した道路に立って反対側を見ると、屋根の向こうに大きな銀杏の木も生えていて、コンクリートと砂利に覆われている住宅街のなかで、その二種類の樹は、四季の巡りを感じさせる大事な存在だった。まちの樹。みんなの樹だった。先月、コインパーキングが取り壊され、更地にす

          街の大事な桜が抜かれた跡地に「seed」という会社がなにかをやろうとしている

          ポイントカード

          ポイントカード。持つ派と持たない派がいる。 持たない派の意見としては、財布にカード類を増やしたくない、 作成時の登録の手続きが面倒、持ち運ぶ手間に対してポイントの還元率や特典が魅力的でない、 そのようなものが多いだろう。 最近では、カードでは持たない派だったけどアプリに移行してからは貯めるようになった。という人もいるだろうか。 私も基本的には持たない派だ。 財布がかさばるのがとにかくイヤで、少しでも膨らんでくると不要な領収書を取り除いたり、一時的に財布に入れておいた二軍カー

          ポイントカード

          自分の尾びれを追いかけて延々と回転するマグロ

          釣具屋が潰れてコンビニになった、という話なら全国にいくらでもありそうだけど、コンビニが潰れて釣具屋になった、という例はなかなか珍しいのではないか。ぼくは聞いたことがない。釣具屋はいつだって潰れる側の存在だと思っていた。コンビニがもう飽和状態ということなのか、あるいはコロナで釣り人の人口が増えてひそかにブームが来ているのか、とか色々と勘ぐってしまう。 そういえば少し前、うちの近所でもセブンイレブンが潰れたのだった。建物が空っぽになりテナント募集の紙が貼られたかと思ったら、そこ

          自分の尾びれを追いかけて延々と回転するマグロ

          地元

          シマ:5月20日 同じ小中学校だった地元(九州)の友達から東京に遊びに来るという知らせを受け、東京にいる同郷の友人ら数名と渋谷の居酒屋に集まることになった。座敷に通される途中に見覚えある顔があり、それが同じ小学校のひとつ上の学年の女の先輩だった。 そんな偶然もあるのかと思った。 食事の終盤には、その先輩も同じ卓に混ざり「あそこの畦道には今は家が建っている。」とか「あそこの道とあそこの道が繋がった。」とか「コンビニが潰れて釣具屋になっている。」とか、そういう話をした。

          絶対比率

          サトシ:5月16日 先日たまたま耳にした都市伝説のような噂話だが、カレーの「ルー」と「ご飯」の絶対比率の持ち主というものがこの世には存在するらしい。多くの人は提供された皿の上で、相対的にそれを組み立てる、ご飯とルーの帳尻を合わせながら食べ進めていると思われるが、生まれつきの、まるで絶対音感のような「絶対比率」の持ち主が少数ながら存在し、彼らは学校の給食で配膳されるカレーが、自分が持つ比率と違うことがたまらなく嫌だという。

          フルーツ宅配便

          シマ:6月5日 この交換日記を始めた頃にスイカを配る話を書いた。妻の実家のスイカ農家から沢山送られてくるスイカを捌くという話だ。 今年もスイカが送られてきた。送ってくれるお義母さんはあっけらかんとした性格の人で、 お義母さん「スイカ送ったよ。」 妻「いくつ?」 お義母さん「わからん。箱に入るしこ(入っただけ)。」 といった具合だ。 宅配業者から受け取った段ボールは、何かの全集でも入っているのではないかと思わせる重さで、腰に疾患のある人であれば一撃間違いなし。 段ボールを開け

          フルーツ宅配便

          世界が眩しくて、目を開けていられなかった

          サトシ:4月16日  先週の土曜日、金沢21世紀美術館から村上に電話がかかってきて、 1.鳥越アズーリという台東区のコミュニティラジオから美術館に電話がかかってきた 2.井筒和幸監督が番組の中で村上さんの新聞記事を紹介し、興味を持っているらしい 3.明日、井筒監督の番組に出演してほしいと言っている。電話番号を伝えて良いか?  という内容を伝えられた。村上は 「え、井筒さんと話すんですか。すげえな。はい。伝えて大丈夫です」  と答えて電話を切った。すぐに「鳥越アズーリ」から電

          世界が眩しくて、目を開けていられなかった