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俺の音楽変歴 〜悶々たる青春編①〜

【前回までのあらすじ】
幼少時よりバイオリンとピアノのレッスンに通ったものの、まるで上達せず中学で辞めた俺。寝ても覚めてもAMラジオばかり聴いていた俺は、シンガーソングライターになろうと心に決めた。

シンガーソングライターになろう

イノセントな夢を胸に、母に高校の入学祝いとしてTakamineの黒のエレアコ(アコースティックギター)を買ってもらった。色や仕様にこだわりはなくて、店員に推められるがままだった。憧れのギタリストもいなかった。

ギターを習うことにした。

タウンページで見つけた吉祥寺の教室に通うことにした。サイトウ先生は口ひげを生やしたダンディーな男性で、見た目通りの情熱的なクラシックギターを弾いた。

クラシックギター教室だった。

エレアコを買ったのにサイトウ先生の演奏に魅せられてクラシックギターを習うことになり結局クラシックギターも買った。ギターなんてどれも一緒だろう。フタを開けてみたらフルートと篠笛くらい全く違う楽器だった。それでも週1でレッスンに通った。俺には珍しく家でも練習した。練習曲ですら弾いててカッコよくて痺れた。

高1の8月から近所のファミレスでキッチンのバイトを始めた。ギターの月謝はそこから払った。

部活で音楽をやろうとも思ったがブラバンも軽音もとにかくやかましくて無理だった。音楽的にどうこう以前に音量的に耐えられなかった。今後の音楽人生のためにも鼓膜を粗末に扱いたくなかった。

それでもバンドを組んでみたい気持ちは消えず、ある日軽音の部室を覗いたら、先輩らしき男子が二人いた。ひとりは小太りで顔は皮脂でテカっていて、もうひとりは痩せぎすで狐目で背が低かった。

どうやら二人は軽音部では浮いた存在、いやむしろ沈殿した存在らしく、他の連中が爆音でLUNA SEAに明け暮れているなか、狐目は12弦ギターでひたすらホテル・カリフォルニアのイントロを爪弾いていた。陰気な人が陰気な曲を弾いていると感じた。

恐る恐る入って行った俺は歓待された。チャゲアスが好きだと言い小太りのギターに合わせて歌ったら大絶賛されたが肝心のギターがいまひとつで弾き方もくねくねしてて気持ち悪かった。

よかったらこれ聴いてみて

小太りに1枚のCDを手渡された。小太り以上に気味の悪い男がジャケットには写っていた。そのまま突き返そうと思ったがさすがに失礼かと思い持ち帰りせっかくなので聴いた。

Is this the real life?
Is this just fantasy?
Caught in a landslide
No escape from reality

その音楽は、明らかに今まで聴いたどの音楽とも違っていた。

目まぐるしい曲調の変化も生々しい歌声もなぜか世界と調和していて、何よりもサウンドが尖っているのに優しかった。曲が終わっても、俺は口を半開きのままで虚空を見つめていた。

QUEENだった。

バンドを組む予定もないのにQUEENのバンドスコアを買いに走った。ギターは弾けないので手っ取り早くフレディになれるDon't Stop Me Nowをピアノで弾いて歌った。止めるどころか、俺のバンドは何も動き出していなかったが。

I am a sex machine, ready to reload
Like an atom bomb about to
Oh, oh, oh, oh, oh explode

俺は童貞でセックスマシーンには程遠かったけれど、OhOh言いながら爆発しそうなのは一緒だった。歌詞の意味なんて何一つ理解しないままフレディになりきって朗々と高らかに歌った。Is this the real life? Is this just fantasy?

バンドを組むのは諦めた。

ギターも指がぷよぷよでFも押さえられないままで、発表会で禁じられた遊びを弾いたのを最後にレッスンも辞めた。サイトウ先生は少し寂しそうにアルハンブラの思い出を弾いた。

なんの手違いか、俺は放送委員だった。

ある日早めに登校して体育館の朝礼で使うマイクを用意していると、ある女子と目が合った。同じ学年の放送委員のタマキさんだった。

その瞬間から恋の蝋燭がちろちろと燃え始めたことに、その時の俺はまだ気づいていなかった。

悶々たる青春編②につづく】

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