読書記録「コンサルティングの極意」

ATカーニーの岸田さんの「コンサルティングの極意」を読んだ。
副題がTrusted Advisorで、これは多くのファームで目指すべきとされているコンサルタント像である。

「聞く力」、「献身力」、「先見力」、「突破力」、「巻き込み力」、「共創力」、「好奇心」、「歴史観」、「忘れる力」、「恋愛力」がコンサルタントとして重要な力、と言っている。MECE感や構造化的にコンサルタント的には突っ込みが入りそうだが(笑)、それぞれ重要な力だと説得力はある。

まずは「聞く力」、相手を理解しつつ、その姿勢を相手にもわかってもらう。それがクライアントファーストという「献身」につながる。「社長にはなれなかったけどありがとう」というエピソードには感銘を受ける。

「先見力」でクライアントを導くことも重要だ。セゾングループの堤清二さんのエピソードが興味深い。プラザ合意の重要度をいち早く理解し、「プラザ合意の影響は?」と幹部に問うたそうだ。そして幹部は「冬に水着が売れます」と答えたそうで、こちらも面白い。また80年代の後半に「ネットワークの社会が来る」と言っていたそうだ。こちらも先見の明がある。これができた理由として、岸田氏は、「社会はかくあるべし」というビジョンがあったからだという。なるほどと思う。岸田氏は「歴史と常識」に照らしてかんがえるべき、という。良い言葉だ。
(バブルに乗り、セゾングループが破綻したのは、堤さんへの忖度があったからだというが、それも先見力でなんとかできなかったのか)
2000年のダボス会議で、「エンロンがリーダーシップにおいて優れた会社だ、と言ってしまった」失敗談も興味深い。リーダーシップを表すスコアは、トップ→現場に行くに従い、通常低くなるが、エンロンでは、現場が高くなり、結果、スコアが高くなった。この原因は、投機目的で従業員が集まっていた、ということだったが、それは見抜けなかった。
後講釈だが、歴史に学ぶ、ということなのだろう。

「突破力」、「巻き込み力」、「共創力」は変革を起こすためには重要だ。
突き詰めて考えた後に、セレンディピティは訪れる。力士も、場所前は極限まで稽古する。この繰り返しで人は成長する。

今のファームに入るときに、大事なものは「好奇心」だと言われた。自国の文化に関心を持つ、相手に関心を持つ。その通りだと思う。銀座のママの話が面白い。エグゼクティブがたくさん訪れるが、その会社の株を買い、関心を持ち、仮説をもって接するそうだ。また、羽振りを見るため、お客が身に付けているものを見る。自分からは話はしないが、相手を見る。別の本で「愛と想像力が大事」とあったが、これを働かせるのは重要。
「京都の芸妓さんを目指せ」。自分の価値は分かってますよね、と言えるくらいの領域。

「歴史観」は重要だ。トヨタのレクサスブランドをグローバルに展開する際の話が極めて面白い。ヨーロッパ人にとってブランドとは、まさに時間の結晶だ。ヨーロッパ人は「ヒトラーがポーランドに侵略する前のレースの勝者がプレミアムブランドの最後のシートを持っている」という。車は単なる移動手段でなく、「馬」の代わり。BMWは顧客の声を聴かない。なぜなら自分たちが一番車のことをわかっているから。トヨタとホンダは、ハイブリッド車を作ったため、一目置かれている。でも、F1レースでカネがなくなったからと言って参加を辞めるのはNG。車の発展の歴史に寄与しないといけない。
ヨーロッパは面白い。資本主義のマスには勝てないかもしれないけれども。

ストレスマネジメントとしての「忘れる力」も重要。そして、MECE感は薄れるが、クライアントとの「恋愛力」で、恋人のような関係を築けと締められる。

具体のHow論ではないが、血肉のある仕事の仕方として、語り口・具体例は面白く、コンサルタント・コンサルティングに興味がある方は一読をお勧めします。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?