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小説「感染」感想

高嶋哲夫氏の小説「感染」は、2010年に出版された感染症のパンデミックを描いた小説である。2020年の新型コロナウイルス感染症の流行と酷似した内容が話題となり、再び注目を集めている。 本作は、中国で発生した毒性インフルエンザが、わずか数週間で世界中に蔓延していく様を描いている。致死率は60%にも上り、感染者は激しい咳や呼吸困難、そして嘔吐や下痢などの症状を呈する。感染拡大を防ぐため、各国は国境を閉鎖し、ロックダウンを実施する。しかし、ウイルスの猛威はとどまることなく、世界は

    • 小説「六人の嘘つきな大学生」感想

      浅倉秋成の小説「六人の嘘つきな大学生」は、2021年に刊行されたミステリー作品である。就職活動中の6人の大学生が、最終面接の場で「告発文」を受け取る。告発文には、一人一人が「人殺し」であるという内容が書かれていた。6人は、告発文の真偽を確かめるため、協力して真犯人を追い始める。 この作品は、まず、その巧妙な伏線回収で読者を驚かせる。告発文の真偽は、物語の冒頭から最後まで読者の興味を惹きつけ、ついにはどんでん返しの結末へとつながっていく。また、登場人物の嘘と真実が交錯するスト

      • 小説「スモールワールド」感想

        一穂ミチさんの短編集「スモールワールド」は、2023年に刊行された作品である。6つの短編から構成されており、それぞれが独立した物語となっている。 まず、第一話「ネオンテトラ」は、幼い頃に両親を亡くし、施設で育った笙一が、高校時代に出会った少女・千夏との関係を描いた物語である。笙一は、千夏の優しさに惹かれていくが、千夏には秘密があった。 第二話「魔王の帰還」は、ある小さな村に伝わる魔王伝説をモチーフとした物語である。村の青年・悠斗は、魔王の復活を信じ、村を守ろうとする。

        • 小説「コンビニ人間」感想

          村田沙耶香の小説「コンビニ人間」は、2016年に文藝春秋から刊行された、第155回芥川龍之介賞受賞作である。36歳の未婚女性、古倉恵子が大学卒業後も就職せず、コンビニのアルバイトを続ける18年間の日常を、彼女の視点から描いた作品である。 本作は、恵子のユニークな視点と、ユーモアとペーソスを交えた文体で、多くの読者を魅了した。また、社会における「普通」の価値観を問い直す、現代社会への鋭い批評性も高く評価された。 以下に、本作の感想を述べる。 まず、恵子の視点は、本作の魅力

        小説「感染」感想

          小説「同志少女よ敵を撃て」感想

          逢坂冬馬の小説「同志少女よ敵を撃て」は、2021年に刊行されたデビュー作であり、第11回アガサ・クリスティー賞、第166回直木三十五賞候補、第26回本屋大賞、第9回高校生直木賞を受賞した作品である。 本作は、1942年、ソビエト連邦を舞台に、ドイツ軍の侵攻から村を守るため、母親を殺され、戦争に巻き込まれていく少女セラフィマの物語である。 セラフィマは、モスクワ近郊の農村で、母親と二人で暮らしていた。ある日、村にドイツ軍が侵攻し、母親を殺されたセラフィマは、赤軍の女性兵士イ

          小説「同志少女よ敵を撃て」感想

          小説「ロビンソン・クルーソー」感想

          ダニエル・デフォーの『ロビンソン・クルーソー』は、1719年に刊行された、一人の男が28年間無人島で生き延びる物語である。この作品は、冒険小説、サバイバル小説、そして成長小説の要素を兼ね備えており、世界中で愛読されてきた古典的名作である。 物語は、若き船乗りであるロビンソン・クルーソーが、海難事故で無人島に漂着するところから始まる。ロビンソンは、最初は絶望し、脱出を試みようとするが、次第に現実を受け入れて、無人島での生活を模索していく。彼は、島の豊かな自然を利用し、家や畑を

          小説「ロビンソン・クルーソー」感想

          小説「この日をつかめ」感想

          ソール・ベローの小説「この日をつかめ」は、1956年に発表された短編小説である。主人公のウィルヘルム・ブラントンは、44歳の無職の男である。大学を中退して映画俳優を目指したが、芽が出ず、その後もさまざまな職業を転々とする。結婚して子供をもうけたものの、離婚し、今は父親の住むホテルに居候している。 そんなウィルヘルムの一日を追った物語である。 前半 ウィルヘルムは、朝、ホテルの部屋で目を覚ます。部屋は散らかっており、彼自身もだらしない格好をしている。彼は、昨日の夜、タムキ

          小説「この日をつかめ」感想

          小説「人形の家」感想

          ヘンリック・イプセンの戯曲「人形の家」は、1879年に発表された女性解放運動の代表作として知られる作品です。主人公のノラは、夫ヘルメルの支配下で、人形のように扱われている妻です。しかし、夫の命を救うために借金をした際に、偽造罪に問われることになり、そのことがきっかけで、ノラは自分の置かれた状況に疑問を持ち、自立の道を歩み始めます。 この作品は、当時の女性の地位や結婚観を鋭く批判し、大きな反響を呼びました。また、女性解放運動の象徴として、多くの女性に勇気を与えました。 私は

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          小説「竪琴」感想

          トルーマン・カポーティの小説「草の竪琴」を読んだ感想を述べる。 この小説は、アメリカ南部の田舎町に住む少年、ジェイソン・ファーガソンの成長物語である。ジェイソンは、音楽好きの母親と、厳格な父親のもとで育つ。彼は、母親の死後、父親の厳しい教育に耐えかねて、家出をしてしまう。 家出先で、ジェイソンは、ドリーと名乗る若い女性と出会う。ドリーは、ジェイソンに音楽を教え、彼の心を癒してくれる。ジェイソンは、ドリーと過ごす日々の中で、本当の自分を見つけていく。 この小説は、音楽と自

          小説「竪琴」感想

          小説「クリスマスキャロル」感想

          チャールズ・ディケンズの「クリスマスキャロル」は、1843年に発表された中編小説であり、世界中で最も愛されているクリスマスの物語のひとつである。 物語は、クリスマスの夜、守銭奴のスクルージが過去・現在・未来の精霊に導かれ、自身の人生を振り返ることによって改心していく様子を描いている。 スクルージは、金儲けにのみ情熱を注ぎ、周囲の人々を冷たくあしらう、孤独で意地悪な男である。彼はクリスマスを「くだらない行事」と罵り、従業員には給料を払わず、甥のチャーリーにはクリスマスプレゼント

          小説「クリスマスキャロル」感想

          小説「蠅の王」感想

          ウィリアム・ゴールディングの小説「蠅の王」は、1954年に発表された、無人島に漂流した少年たちが、文明から離れた状況の中で、徐々に野蛮化していく様を描いた作品である。 本作は、少年たちの群像劇として読むことができる。前半は、少年たちが協力して島での生活を営む様子が描かれている。しかし、後半になると、少年たちは次第に争いを始め、やがて一人の少年が殺害されてしまう。この一連の出来事は、少年たちの内面にある野蛮性が、文明から離れた状況によって引き出されたものであると解釈することが

          小説「蠅の王」感想

          小説「アドルフ」感想

          18世紀末から19世紀初頭のフランスの作家コンスタンの唯一の小説である「アドルフ」は、1806年に執筆され、1816年に出版された。恋愛小説でありながら、人間心理の細やかな描写と、政治への関心が織り交ぜられた作品として、19世紀フランス文学の代表作のひとつに数えられている。 主人公のアドルフは、裕福な家庭に生まれた青年。幼い頃から母親に溺愛され、過保護に育てられた。そのため、アドルフは独立心や自立心が強くなく、常に誰かに頼りたがる性格であった。 そんなアドルフが、ある日、

          小説「アドルフ」感想

          小説「オイディプス王」感想

          ソポクレスの古典悲劇「オイディプス王」は、ギリシア神話のテーバイ王オイディプスの悲劇を描いた作品である。テーバイに不幸が続く原因を探るため、オイディプスは盲目の予言者テイレシアスに相談する。テイレシアスは、オイディプスがテーバイの災いを招く犯人であると告げる。オイディプスは真相を確かめるために自らの過去を探り始めるが、やがて自分がテバイの王と王妃の殺害犯であり、また自分の母親と結婚していることを知り、自らの手で両目を抉り抜く。 この作品は、ギリシア悲劇の三大悲劇の一つに数え

          小説「オイディプス王」感想

          小説「父と子」感想

          イワン・ツルゲーネフの長編小説「父と子」は、1862年に発表されたロシア文学の古典作品である。ニヒリストの代表的な人物として知られるユージン・バザロフと、彼の父であるニコライ・キルサノフを主人公に、時代の変化とそれに伴う世代間の対立を描いた作品である。 物語は、ニコライが息子のバザロフを訪ねるためにペテルブルクから故郷の田舎町に戻るところから始まる。バザロフは、医学を学ぶためにペテルブルクに出て、そこでニヒリストの思想に傾倒していた。彼は、すべての権威や価値観を否定し、唯物

          小説「父と子」感想

          小説「オネーギン」感想

          アレクサンドル・プーシキンの小説「オネーギン」は、1825年に発表されたロシア文学の古典作品です。主人公のウラジーミル・オネーギンは、貴族でありながら退屈な生活を送る青年です。ある日、彼は田舎に住むタチアーナと恋に落ちますが、自分の性格のゆえに彼女を傷つけてしまいます。その後、オネーギンはタチアーナの妹であるオルガと結婚しますが、幸せをつかむことはできません。 この小説は、ロシア貴族社会の退廃と、オネーギンのような若者の内面の葛藤を描いた作品です。オネーギンは、知性と教養を

          小説「オネーギン」感想

          小説「アクロイド殺人事件」の感想

          アガサ・クリスティの「アクロイド殺人事件」は、1926年に発表された長編推理小説である。エルキュール・ポアロシリーズの3作目にあたる。 本作は、英国の海沿いの町にある邸宅で、資産家のロジャー・アクロイドが殺害されるところから始まる。アクロイドは、かつて愛人と駆け落ちした妻を殺害した容疑者だったが、無罪を主張して生きていた。そんな彼が、なぜ殺害されたのか。 事件の捜査は、地元の警察が担当するが、容疑者を特定することができず、迷宮入りの状態に陥る。そんな中、ポアロが事件の調査

          小説「アクロイド殺人事件」の感想