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舞台挨拶レポート『坑道の記憶 炭坑絵師・山本作兵衛』(福岡限定公開)大村由紀子プロデューサー「ローカルで撮っているものもテーマの中に普遍性があるものが観客の心に響く」

福岡での開催初日となる4月28日(金)、『坑道の記憶 炭坑絵師・山本作兵衛』の上映後に、映画の構成も務めた 大村由紀子プロデューサーが登壇し舞台挨拶を行いました。

本作は、炭鉱での労働や生活をつづった絵や日記など1000点以上を残し、そのうち697点が日本初となるユネスコの「世界記憶遺産」に登録された絵師・山本作兵衛(1892~1984)のドキュメンタリー。

2014年の劇場公開時以来、9年ぶりに映画館のスクリーンで本作を観たという大村プロデューサーは、「取材をしてから10年経つと(映画に写っている人の中にも)鬼籍に入られた方が沢山いる。ドキュメンタリーはその時代を切り取るものだと思うが、2013年当時に切り取った景色がそのまま記録に、映画になっちゃったなあという印象です」と感慨深げ。映画に登場する、釧路の石炭列車もいまはもう廃線になったことを挙げながら、「今はもう観られない景色」に思いを馳せた。
 
 本テーマを描いたきっかけについて聞かれた大村プロデューサーは、山本作兵衛の描いた絵が日本ではじめて「世界記憶遺産」(当時の呼称)に登録されたことや、その作品が国宝などではなく民間人が描いたものであったことなどを挙げ、福岡の宝として発信をしないといけないと思ったと語る。
 
本作を制作したRKB毎日放送は1958年の開局であり、社内には同時代以降、近代化され始めてからの炭坑取材のアーカイブがあったと言い、「テレビではなく映画にすることでまた多くの人に観ていただけると思い、RKB初のドキュメンタリー映画制作に至った」明かした。
 
さらに、福岡以外のエリアで劇場公開した際の観客の反応についての質問には、「当時、東京支局にいたが福岡以外ではあまり知られていなかった。ただ、炭坑があった土地地では郷愁を持って観てもらえた」と言い、北海道では『俺も働いとったよ』など熱をもった声も聞かれたという。
 
自身が制作するドキュメンタリーの中で通底するテーマについて聞かれると、RKB伝説のドキュメンタリスト・木村栄文の名前を挙げ、自身も関わったレトロスペクティブ全国巡回上映を振り返りながら、「ローカルで撮っているものであってもテーマの中に普遍性があるものが観客の心に響く」と語り、自身の制作においては、地元・福岡ならではのテーマを扱うことで見えてくる「戦争と捕虜の強制労働」についての最新作の制作状況を明かしながら、炭坑と近代化のなかでのエネルギー転換といったテーマの普遍性も訴えた。
 
テレビ局が制作する映画の面白さを聞かれると、テレビ局が映画を作る取り組みを先進的に行う東海テレビの阿武野勝彦プロデューサーの「テレビのドキュメンタリーは洗練されている」という言葉を紹介。多くの人に届ける役割や時間やCMなどさまざまな制約の中で「キュッと締まって」いくテレビドキュメンタリーの特徴を挙げながら、そういった制約のない映画との構成や音楽、演出の違いを語り、そこから飛び出した映画は(他の映画とは)またちょっと違う形で面白いものが出来るんじゃないのかなとは思います、と力を込めた。

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