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【全文】元祖「孤独担当相」 英の現職に聞いた孤独対策

世界で初めて2018年に「孤独担当相」が誕生したイギリス。現在の孤独担当相ダイアナ・バラン氏がJNNのインタビューで「政府としてどう孤独に対応してきたか」を語りました。
取材:ロンドン支局 秌場記者

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そもそもなぜ孤独担当相というポストが設立されたのでしょうか?NGO・市民社会ではなく政府の閣外相が必要だったのでは?(秌場記者)

 良い質問ですね。政府は孤独に対処するために重要な役割を担うことができるからだと思います。ただあなたの質問が示唆するように、政府だけでは対処できません。なので私達のアプローチは主にNGOや市民団体、そして企業などと協力しておこなうというものです。もちろんメディアも重要な役割があります。孤独とは何か、そして人々がどうしたらより上手く対処できるかを説明することができますから。(バランさん)

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 担当相としての日々の業務はどんなものですか?(秌場記者)

 地方・地域の団体・組織とたくさん話しています。それぞれがどんな活動をしているのか、また、その地域のコミュニティのニーズは何なのかをきちんと理解するためにです。当然、そうしたニーズはこのパンデミックで変わりました。人々が家にいることを強制されたからです。そうした中で私はなるべく現実世界で起きていることを把握するよう勤めています。
 同時に私たちのチームはここ一年、孤独を減らすために活動する地域の市民団体、支援団体に多くの資金を提供してきましたが、それら予算をどう配分するかについての意思決定をしてきました。
 また官民の団体のネットワークをまとめて、パンデミックの教訓は何なのか、今後、何か別のやり方がありうるのか、などを戦略的に考えることもしています。(バランさん)

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 孤独は個人の健康にどんな影響を与えるのでしょうか?(秌場記者)

 重大な影響を与える可能性があります。誰もが人生の中で孤独を感じる時はあるでしょう、短期間の孤独は大きな影響を与えません。しかし、慢性的な孤独・・・頼れる人が誰もいない、誰とも繋がりがないと感じるような慢性的な孤独は、タバコを1日15本吸うのと同じだけの影響を心身に与えると推定されています。精神の健康と身体の健康には強い繋がりがあることは周知の通りで、孤独は明らかに個人の健康に重要な影響を与えるのです。(バランさん)

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 孤独といえば高齢者に関連すると考えがちですが、必ずしもそうではありませんね?(秌場記者)

 その通りです、実は、年齢別に見れば、孤独を感じると答える人の割合が最も多いのは若者たちです。そしてここ一年は世界中の若者たちにとってかなり難しい一年でした。また、人生に訪れる様々な転機も孤独の原因となりえます。例えば、初めて子どもが生まれた際、仕事に行かない期間ができることで孤立していると感じることもあるでしょうし、退職したり、失職した時もそうですが、それまでの社会的なつながりが断ち切られ、孤独を感じることがあります。(バランさん)

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 日本でも、家族と暮らしていても孤独を感じる人がいます。若いお母さんたちも含めて。担当相として、こうした人たちにどんな支援ができますか?(秌場記者)

 まずは、“あなたたちが悪いのではない”と伝えようとすることですね。孤独にはスティグマや「恥」の感覚が多くつきまとっていると思います。
 ただ皮肉なことに新型コロナのパンデミックの結果、ほとんどの人がどこかで孤独を感じ、それゆえ「あなたが悪いのではない」と言いやすくなった、という気がします。実際、多くの人々がこの孤独の問題に今、純粋に関心を持っています。孤独であることに対するスティグマを軽減した後は、孤独を感じている人たちに支援を提供していきます。一つのやり方は、電話あるいは(メール、SNSなど)デジタルな手段を通じて話し相手になることですが、中にはプライドが高く、そんなサービスは必要ない、という人もいるでしょう。ただそういう人たちでも、料理や絵、歌、スポーツだったら楽しめるかもしれません。地域でのこうした活動はとても重要で、政府としても多くの資金提供をして、孤独な人たちがコミュニティ内で繋がりが築けるよう支援しています。(バランさん)

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 今回のパンデミックから新たなタイプの孤独が生まれていると思われますか?それともパンデミックはこれまでもずっと存在してきた孤独を白日の下に晒したということなんでしょうか?(秌場記者)

 それはとても難しい質問ですね、答えが分かるには数年かかるかもしれません。私が思うに、両方とも正しいでしょうね。
 以前から存在してきた孤独が露わになった面もある一方で、パンデミック前は孤独でなかった人も孤独に陥っています。仕事仲間でもいらっしゃるでしょう?例えば一人暮らしで在宅勤務という状況で体験する隔離感は、仕事場に出勤していた時とはかなり違う体験ですよね。(バランさん)

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パンデミックの中で、孤独対応の現場で働いている人たちからはどんな声が聞こえてきますか?(秌場記者)

 二つあります。自分が孤独だと感じる、という声、あるいは、知り合いが孤独を感じているのではと心配する声は間違いなく急増しています。同時に、(孤独な人を)支援したい、ボランティアをしたい、という申し出も同じように急増しています。みんな人として、何か役に立ちたい、と思うのでしょう。孤独というのは非常に大きな問題ですが、我々一人一人が行動する事で変化を起こすことができる問題でもあるのです。電話をかけたり、手紙やメールを書いたり、あなたの事を心配していますよとメッセージを送ったりすることは誰でもできることです。なので、両方ですね。問題も増えていますが、支援したいという声も溢れるように出てきています。(バランさん)

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 デジタル技術のことに少し触れられました。そうした技術のおかげで我々は今、高度に繋がった世界に住んでいますが、それは孤独感を防ぐのに十分ではないのでしょうか?あるいはそれが別の形の孤独を生み出しているのでしょうか?(秌場記者)

 その人がテクノロジーを使いこなせるかどうかで違うと思います。我々はみな、現実世界での人間同士の触れ合いが必要なのは間違いありませんが、高齢者の中には、テクノロジーを使うことでストレスを感じてしまい、そのことで人と繋がって話す楽しさが減ってしまう人もいるでしょう。
 ただ同時にテクノロジーによって全国、そして世界中の人と繋がることができて、普通だったら遠く離れていて参加できないような活動にもオンラインで参加することもできます。なので、一概には言えないと思います。(バランさん)

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 孤独がポピュリズムを煽る、という議論がありますが、どうお考えですか?(秌場記者)

 ポピュリズムは様々な要因が絡み合う複雑な問題だと考えます。私としては孤独の問題に対処し、繋がりの感覚を築く事に集中したいと思っていて、もちろん、それには様々なグループの人々を理解することも必要でしょう。ただポピュリズムはそれよりももっと複雑な問題だと思います。(バランさん)

 「孤独」(loneliness)と「isolation」が混同されることもありますが、ご自身の見解ではこの二つの違いは何でしょうか?(秌場記者)

 私の理解では「isolation」は、誰とも会わず、一人でいることで、それで満足している人もいれば、孤独を感じる人もいます。一方で「孤独」は、周りに人がいても感じることがあります、つまり自分が必要としている人間関係、繋がりが欠如している状態です。先ほどの質問でも仰ったように、家族や他人と一緒に暮らしていても、人間として必要な人間関係、繋がっているという感覚を得られないこともあるでしょう。それが「孤独」です。(バランさん)

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 孤独担当相の仕事で最も難しい部分はどういったところになりますか?(秌場記者)

 そうですね・・・おかしなことにパンデミック前であれば、その問いに対する私の答えは「人々が孤独の問題をちゃんと考えて、真剣に受け止めるようにすること」だったでしょう。しかし今やそれはガラっと変わりました。現在、我々の取り組みは世界中から注目されていますし、国内でも非常に関心が高いです。以前ならば(最も難しい部分は)「孤独の問題に関心を持ってもらうこと」でしたが、今では違います。
 ということで、現在最も難しい部分はどこかと言うと、今、政府内では全ての省庁・部局がコロナ対応で非常にひっ迫しています。孤独問題への対応には3つ4つの省庁にまたがるものもあって、そういうタイプの仕事は政府においては常に難しいものですが、現在はそれがより大変になっています。でもこのパンデミックを何とか切り抜けて、2021年、そしてそれ以降に、そうした活動をする時間ができることを願っています。(バランさん)

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「孤独」は極めて主観的な感覚ですが、公的に対応しようとする場合には何らかの「ものさし」が必要になると思います。イギリス政府は「孤独」の深刻さを測る指標が何かあるのでしょうか?(秌場記者)

 メンタルヘルスと同じで、我々は「孤独」の度合いを測定する際に使う「ものさし」をいくつか持っています。イギリス国家統計局も孤独のレベルの推移を見るための調査を行っています。「ときどき孤独を感じる」程度から「いつも孤独を感じる」という慢性的な孤独まで目盛りがあり、当然ですが慢性的な人たちが最も心配される人たちです。(バランさん)

 その「ものさし」は現場の人たちを話すことで決めて行ったんですか?(秌場記者)

 そうです、その通りです。(バランさん)

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 このパンデミックで人々は孤独についてより話すようになった、孤独について話してもいいんだと感じるようになった、そうお考えですか?(秌場記者)

 誰もが(孤独について話すのが)大丈夫になった、と言うと、それは言い過ぎだと思います、まだ話すのが難しい人もいますから。ただ「孤独は恥だ」とか、「自分が孤独なのは自分の何かが悪いせいだ」というような感覚が減っていればいいなと思います。この一年は、どれだけ多くの人が孤独を感じているのか、それが明らかになった年でしたからね。(バランさん)

 最後の質問です、日本政府は、孤独担当大臣を任命したことはお聞き及びだと思いますが。(秌場記者)

 聞きました。とても楽しみですね。(バランさん)

 日本の大臣、そして担当部局にアドバイスはありますか?(秌場記者)

 まずは幅広い人々と話し、彼らの孤独体験や、彼らがどうすれば良いと考えているのかに耳を傾けることだと思います。
 私は全てを中央集権的に決めようとするのではなく、何が必要か、何が役に立つかについては地域の人たちの判断を信頼する、ということを学んできました。
 政府は中央から資金面などで支援できますが、人々と話し、彼らに耳を傾けることから始めるのが最善の道だと思います。(バランさん)

 ありがとうございました。(秌場記者)

 どういたしまして。お会いできて良かったです。(バランさん)

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