寡婦控除扉絵

一晩で10万回再生超え・・・「未婚の母はなぜ差別されるのか」

先月、自民・公明の与党が今年度の税制改正大綱を正式に決定しました。この中で未婚のひとり親への支援策として「寡婦控除」を新たに適用し、所得500万円以下を対象に最大で35万円の所得控除を受けられるようにしました。同じ一人親でも、結婚を「していた」「していない」で大きな差がでていたこれまでの制度。長年の懸案事項とも言われていた問題が、一気に解決に向かった背景には何があったのでしょうか?

予想を超える反響

私が財務省担当の記者として、税制改正の取材をするにあたり、一番不公平だと思ったのが「寡婦控除」という制度でした。

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この制度が「戦争遺族に対する救済措置」を主な目的として創設されたことは知っていました。しかし、それから60年以上の時が経った今、ひとり親の子供に焦点を当てたときに親の結婚歴の有無で”差”ができてしまうのは時代に合っていないのではないかー。

今回取材を受けてくださったAさんは派遣社員で月の給料は20万前後

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家賃を払えば手元に残るお金は半分程度となり、保険料や光熱費、携帯料金なども支払わなければなりません。もう少し家賃の低いマンションを借りようにも、未婚のひとり親というだけで、契約ができない家もあるということでした。Aさんはカメラでの撮影をするにあたり、顔を隠しての取材でしたが、その大きな理由の一つが、一部の親族を含めた周りの人に、未婚で出産したことを未だに打ち明けられていない、ということでした。「出産という喜ばしい出来事を大切な人に伝えることもできない」これが今の日本における未婚の母親の立場です。

こうした内容を盛り込んだ3分半のVTRを夕方と夜のニュースで放送しました。当日の視聴率は微増という結果でしたが、翌週、facebookに動画を掲載したとたん、再生回数がぐんぐんのび、動画アップから30分で3000件、2時間で7万回超え、翌日には10万回再生を超えていました。税制という、ある意味では“固いニュース”でしたが、反響の大きさに驚きました。


どこまでが自己責任なのか

SNSなどでニュースが拡散されることは取材した記者としてはうれしいかぎりです。今回の取材では、プライバシーの問題もあり、当事者を探すのにとても苦労しました。Aさんも忙しい毎日の中、取材に応じてくれたのは「同じ境遇の人が少しでも暮らしやすくなって欲しい」という思いがあったからで、報われたような気持ちになります。

しかし、ネット上のコメントには気になるものもありました。「未婚の母親は全てを覚悟して出産したのではないか」 という意見や「子供を産むなら両親がいた方がいい」 という改正に否定的な意見です。もちろん、こうした意見も尊重されるべきであり、与党の議員の取材でも、否定的な声は少なからず聞こえてきました。

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現代では、人々のライフスタイルは急激に、多種多様に変化しています。
ひとり親の子供、外国で育った子供、親が外国人の子供・・・。どの子供にも、平等に笑って暮らせる権利があるはずです。今回の取材を通して、国民の生活に直結する「税制」は時代に合わせて変化させていくことが求められていると感じます。

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小川記者縮小

小川 慎 記者

2012年入社。社会部で気象庁や千葉支局などを歴任後、経済部に異動。
自動車担当で日産のゴーン問題などの取材を経て、現在財務省担当。