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2019/1/13 風をよむ「揺らぐヨーロッパ」

アメリカの調査会社「ユーラシア・グループ」が発表した2019年「世界の10大リスク」。

その年の政治経済に悪影響を及ぼす事象を予測したものですが、1位にあげられたのは「Bad Seeds=悪い種子」。

リーダー不在、いわゆる「Gゼロ」の時代が到来。長期的で潜在的なリスクが高まり、国際的な枠組みが崩れる中、ポピュリズムやナショナリズムの危険性についても指摘。4位でも「欧州のポピュリズム」が挙げられるなど、ヨーロッパ発のリスクに注目しています。

実際、今、ヨーロッパに目を向けると、多くの国で政治的対立が深刻な混乱を生み出しています。

デモ隊「マクロン辞めろ!マクロン辞めろ!」
激しさを増すマクロン政権への抗議デモは、年が明けた5日も再び行われました。

5日のデモでは、全国各地であわせて、およそ5万人が参加。一部が警察のバイクを燃やすなど暴徒化し、政府庁舎を襲撃しました。

パリ中心部のオペラ座には、フランス革命で断頭台に消えたルイ16世に例えるかのような「マクロン=ルイ16世」の落書きが。まさにフランスは、革命を彷彿とさせるかのような混乱を呈しています。

マクロン大統領「今、経験したことの無いほどの動乱の中で生きています。私たちのヨーロッパの夢は危機に瀕しています」

一方、今年3月に迫ったEU離脱を前に、政治的対立が先鋭化するイギリスでは…

スーブリー議員「ナチス呼ばわりされるのは心外だわ!」
抗議者たち「スーブリーはナチスだ!」「スーブリーはナチスだ!」
スーブリー議員「驚いてます。私たちの国はこうなってしまったんです…」

「ナチスだ」などと暴言を浴びせられているのは、イギリス・保守党のアナ・スーブリー議員です。

スーブリー議員はイギリスのEU離脱に反対の立場を取っていますが、7日、議会前でインタビューに答えている際、離脱を望む人々から罵声を浴びせられたのです。

BBCによると、現在、100人以上の議員が警察に警備強化を訴えるなど、社会全体が不穏な空気に包まれています。

こうした深刻な状況を前に、エリザベス女王はクリスマス恒例のビデオメッセージで、意見の異なる相手に敬意を払う重要性を訴えました。

エリザベス女王「どれほど意見が異なっても、相手を同じ人間として敬うことが理解への第一歩となります…」

片や、ドイツでは政治的対立が襲撃にまでエスカレート。

AfD(ドイツのための選択肢)アレクサンダー・ガウラント共同代表「マグニッツ氏を狙った殺人未遂事件であることは明らかだ。AfDに対する排斥や中傷によってこんなことが起こった!」

右翼政党の政治家が何者かに襲われ、重傷を負う事件が発生したのです―

7日、ドイツのブレーメンで右翼政党「AfD=ドイツのための選択肢」のマグニッツ連邦議会議員が、複数の男に襲われ、重傷を負う事件が発生。

AfDは、難民に寛容なメルケル政権に反対して、難民排斥を訴え、近年、党勢を拡大してきました。

そうした政党の議員が襲われた今回の事件について、AfD側は自分たちと対立する左派のテロリストによる犯行と主張。警察も政治的動機に基づく犯行と見て捜査を進めています。

今、ヨーロッパで広がる、意見の異なる相手に対する誹謗中傷や暴力。 こうした状況を国際政治が専門の五野井さんは…

五野井郁夫・高千穂大学教授(国際政治学)「各国で同時多発的に、政治と政治家に対する暴力というものが噴出しつつある。しかも先進諸国と言われる国々で、政治不信というものがそのまま暴力という形で表出してしまっている、一線を超えてしまっている。これは民主主義の危機だと私は思います」

実際、今、ヨーロッパでは市民達による移民や難民に反対する過激な行動やデモが日常化しています。

さらにこうした「排外主義」の矛先は移民・難民だけにとどまりません。ナチスによるユダヤ人迫害・ホロコーストの悲劇を体験し、深刻な反省をした筈のヨーロッパで「反ユダヤ主義」が再び高まりを見せているのです。

欧州委員会が先月10日公表した調査によれば、ヨーロッパに住むユダヤ人の85%が、反ユダヤ主義が今や最大の社会問題になっていると感じ、38%が移住を検討、34%がユダヤ関係の催しには危険を感じて参加できないと答えたのです。

五野井郁夫・高千穂大学教授(国際政治学) 「今、ヨーロッパで非常に大きな地殻変動が起きつつある。今回、世界の10大リスクという形で、欧州の政治情勢をあげている訳ですけれども、今のEUが抱えている、ポピュリズムそしてナショナリズムの噴出、さらには排外主義といったものが、第一次世界大戦や第二次世界大戦前夜のような、非常に不穏な空気というものを再びかもしつつある」

政治的混乱に揺れるヨーロッパ。今年1年、ヨーロッパは果たしてどこへ向かうのでしょうか―

 

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