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男子100mは準決勝で標準記録突破のサニブラウンがV候補筆頭

【日本選手権2日目プレビュー】
男子100mは準決勝で標準記録突破のサニブラウンがV候補筆頭
3種目で代表入りを狙う田中は女子1500mの代表入りが有力

7月の世界陸上オレゴン代表選考会を兼ねた第106回日本選手権。大会2日目は6月10日、大阪市のヤンマースタジアム長居で行われる。世界陸上標準記録突破選手が登場するのは男子100m決勝(20:30)と女子1500m決勝(19:55)。男子100mは初日の準決勝で10秒04(+0.8)と標準記録の10秒05を突破したサニブラウン・アブデル・ハキーム(タンブルウィードTC・23)が優勝候補筆頭に躍り出た。女子1500mは昨年の東京五輪8位入賞の田中希実(豊田自動織機・22)が予選1組を1位通過。2人とも3位以内に入れば世界陸上代表に内定する

●男子100mは小池、栁田も標準記録突破なるか

サニブラウンが準決勝3組を1位通過。10秒04(+0.8)と標準記録を破り、2位の伊藤孝太郎(東京ガスエコモ)に0.24秒の大差をつけた。ヤンマースタジアム長居10回目の日本人10秒10未満のパフォーマンスでもあった。
「余裕はありましたが、反応が遅すぎました。もう少し修正しないと」
 ピストル音が鳴ってから動き出すまでのリアクションタイムがデータとして出るが、サニブラウンは0.159秒。準決勝を走った23人の中で3番目に遅かった。
 だが、反応が遅かっただけで出遅れたわけではない。比較的大きなストライドで出るためゆったりしているようには見えるが、これは昨年優勝の多田修平(住友電工)や、日本記録保持者の山縣亮太(セイコー)らが素早いピッチで飛び出すのを見慣れているせいもある。準決勝のサニブラウンは、20~30mでははっきりとリードしていた。
 19年に9秒97の日本新(当時)を出したサニブラウン。決勝では3年ぶりの9秒台も期待してしまうが、「タイムに固執しないで走りをどんどん引き上げて、小さなミスをなくせばタイムは出る」と、自身の目指す走りに集中する。その結果、3位以内に入って世界陸上代表に内定するのは間違いないだろう。
 準決勝の他の組はどうだったのか。
 1組は小池祐貴(住友電工・27)が10秒13(+0.5)で1位通過。スタータでリードした坂井隆一郎(大阪ガス)を、後半で抜き去ったが、「最後に伸びきらなかった部分があった」という。実際、終盤では坂井との差は開いていない。
「やりたいことは出せたと思いますが、タイムがついてきませんでした。気持ちの部分ですかね。比較的集中できたと思いますが、準決勝ベースの気持ちの上がり方だったかもしれません。決勝は勝手に上がるので大丈夫です」
 2組1位通過は栁田大輝(東洋大1年)で10秒16(±0)。予選はスタートで出遅れ、東田旺洋(栃木県スポーツ協会)に大きく先行され、後半で追い上げたが2位通過になった。しかし準決勝は再度東田と同じ組になり、今度はスタートから先行できた。サニブラウンと同様、大きなストライドで速くは見えないが、序盤から前に出ていた。
「予選は飲み込まれてしまったのか、自分らしいスタートができませんでした。準決勝ではそこだけに集中しました。修正できて良かったです。準決勝だけの選手と思われないよう、決勝で10秒05を出します」
 決勝で風など条件に恵まれれば、小池と栁田にも標準記録を破るチャンスがある。

●女子1500mは卜部も世界ランキングで代表圏内

800m、1500m、5000mで世界陸上代表入りを狙う田中の、最初の種目が1500m。
 1日目の予選1組はスタート直後に飛び出して1周目を66秒6(筆者計測。途中計時は以下同)で通過し、後続を20m近く引き離した。2周目は72秒0にペースダウンし、3周目は69秒3と少しペースアップ。ラスト1周は64秒2、ラスト200 mは30秒7と、まずまずのスピードに上げてフィニッシュした。
「後ろについてラストだけ頑張る走り方もありましたが、タイムや通過することより自分の体と向き合って走りました。後ろのことを気にしてしまって、1人で走る感覚を楽しむことを取り戻せていません。しかし、後ろの勢いを感じて焦っていた割には脚が動いてくれました。自分が一番余裕を持ってゴールできたと思います。コンディションは悪くないので、あとは気持ちだけです」
 田中のタイムは4分15秒19。自分の体調や気持ちと向き合った田中が、2日目の1500m決勝でどんな走りをして、3日目の800 m予選につながていくか。レースパターンの判断に注目したい。
 2組では田中の練習パートナーでもある後藤夢(豊田自動織機)が4分16秒78で1位通過。東京五輪代表だった卜部蘭(積水化学・26)が4分16秒93で2位通過した。
 田中は標準記録(4分04秒20)を破っているので、決勝で3位以内に入れば世界陸上オレゴン代表に内定する。卜部もRoad to Oregon(標準記録突破者に1国3人までの世界ランキング上位者を加えたリスト)で41位と、出場枠45人以内につけている。標準記録突破ができなかった場合は、日本選手権は順位得点が高いので、優勝して得点を伸ばしたい。
 後藤もRoad to Oregonリストで現在54位。あきらめず、できる限りの頑張りをしたい。

●男子400mハードル予選は黒川以外の選手が標準記録突破に挑む

大会2日目には男子400mハードルの予選が行われる(18:35)。3組には標準記録(48秒90)を突破している黒川和樹(法大3年・20)が登場する。
 代表入りのためには決勝で3位以内に入ることが条件で、記録を狙う必要はない。前半は決勝と同じリズムで飛ばすと思われるが、予選通過を確信したタイミングで力を抜くのではないか。
 注目したいのは同じ3組に出場する陰山彩大(日大4年)で、5月の関東インカレでは優勝した黒川を終盤で追い込み、49秒31をマークした。1日目の男女400 m予選では、自己新を出す選手も多くいた。2日目で風向きが変わったら同じにはならないが、ヤンマースタジアム長居は周回種目に有利な風が吹くことが多い。予選でも標準記録突破のチャンスがあると判断できれば、果敢に狙いに行くべきだろう。
 1組目の豊田将樹(富士通)と出口晴翔(順大3年)、安部孝駿(ヤマダホールディングス)、2組目の山内大夢(東邦銀行)と岸本鷹幸(富士通)、3組目の松下祐樹(ミズノ)ら、U20も含め代表経験のある選手たちが多い。彼らも同様に、気象条件が良ければ予選から標準記録突破の可能性に懸けてくるはずだ。

TEXT by 寺田辰朗
写真提供:フォート・キシモト

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