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【全日本実業団山口ハーフマラソン2021展望⑧前日男子】

旭化成は主力出場で団体戦の優勝候補筆頭
村山兄弟の久しぶりの並走も見どころに

全日本実業団ハーフマラソンが2月14日、山口市の維新百年記念公園陸上競技場を発着点とする21.0975kmのコースで行われる。
 大会前日にはスタートリストが公表され、男子ではニューイヤー駅伝1~3位チームの出場選手が確定した。3位の旭化成からは村山謙太紘太双子兄弟(27)と市田孝(28)、大六野秀畝(28)と、昨年までのニューイヤー駅伝4連勝を支えた主力が出場する。2位のトヨタ自動車は6区区間2位の青木祐人(23)や太田智樹(23)ら、若手主体の4人が参戦。優勝した富士通は1区区間賞の松枝博輝(27)やリオ五輪3000m障害代表だった塩尻和也(24)らが21.0975kmに臨む。
 選手個々が現状確認や次へのステップと位置づけて臨むことが多い大会だが、各チーム上位3選手の合計順位で団体戦も争われる。駅伝ファンは今後を占う意味で、ちょっと注目したい部分だ。

●村山謙が練習に手応え。最低でも自己新が目標

旭化成勢でも一番の注目は村山謙太だ。
インタビュー記事にあるように

ニューイヤー駅伝の失敗を分析し、再起を期しての出場となる。練習も「この1カ月は自分の求めていた感じの練習ができました」と手応えをもってレースに臨む。
 昨年の今大会は優勝候補筆頭と目されていたが、19位(1時間01分26秒)と不発に終わった。最初の5kmが14分49秒で、上りがあるコースではあるが、村山謙のように最初を速いリズムで入るタイプの選手にとって、遅過ぎる展開だった。
 集団のペースに乗るしかないのだが、今年は自然な入りを心掛け、誰も行かなければ村山謙自身が14分20~30秒でペースメイクをするかもしれない。その入りになれば、菊地賢人(コニカミノルタ・30)が15年に出した1時間00分32秒の大会記録更新も可能なペースで進む。
 村山謙の自己記録は駒大3年時に20歳で出した1時間00分50秒。「そこは最低限突破したい部分はある」と言う。
「今年はしっかりとハーフマラソンで記録を出したいので、昨年以上に強い気持ちで臨みたいと思っています」
 近年はマラソンに取り組んでスタミナがつき、さらに昨年12月には10000mで、27分50秒09と5年ぶりに27分台でも走っている。今の練習の流れでハーフマラソンの自己記録を更新できれば、マラソンでも大幅な自己記録更新を期待できる。

●「強い旭化成を見せたい」と市田孝

 双子の弟の村山紘太は10000mの前日本記録保持者で、リオ五輪には5000mと2種目に出場した。旭化成の選手層が驚異的に厚いからでもあるが、その村山紘がニューイヤー駅伝のメンバーから、今回2年連続で外れてしまった。
 まだ調子が上がってはいないが、城西大4年時に箱根駅伝予選会(当時は20km)に58分26秒で優勝したこともあるし、今大会でも18年に日本人トップとなった。トラック選手と思われているが、本人的には「長い距離に適性がある」と感じている。
 久しぶりの兄弟並走が、それもレース終盤まで見られる可能性がある。
 市田孝はニューイヤー駅伝7区でトップを行く富士通との差を詰めることができず、不甲斐なさを感じている。「どこかで悔しさを晴らさないといけないという思いで練習して来ました。この全日本実業団ハーフマラソンで強い旭化成を見せたい」と意気込んでいる。
 17年ニューイヤー駅伝は4区で、18年は3区で区間賞を取った選手。ハーフマラソンは得意とする距離だが、自己記録は大東大3年時の1時間02分03秒のままだ。「マラソンで結果を残すためにまず、必要なのはハーフマラソンで1時間0分台」と今大会の目標を設定している。同学年の村山兄弟と一緒の集団で走れば、気づいたら1分以上自己記録を更新していた、ということも十分考えられる。
 大六野秀畝は2月末のびわ湖マラソンで「2時間7~8分台」(西村功監督)を目標としている。今大会は「出し切らず、びわ湖につなげる走りをすること」が目的だ。1時間0分台までは望んでいないかもしれないが、日本選手権10000mで優勝したこともあるスピードがどう生かされるか。
 チームとしての戦いは駅伝で終わっているが、主力選手が最も多く出場するのが旭化成である。「全員がしっかり走れば団体戦優勝もあり得る」と西村監督は期待を持つ。チームとしての底力も旭化成は見せるつもりでいる。

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●「これからを担う」メンバーが出場するトヨタ自動車

 ニューイヤー駅伝2位のトヨタ自動車勢では、青木祐人が唯一の駅伝出場選手。ルーキーながら6区間2位と好走したが、12月の日本選手権10000mでは27分58秒63と、長距離選手が憧れる数字である27分台もマークした。
 その日本選手権のレースぶりを、佐藤敏信監督は高く評価している。日本記録の27分18秒75の生まれたレースで、青木は5000mを13分41秒で通過した先頭集団に食らいついていた。青木自身は13分45秒前後だったが、5000mの自己記録を上回る速さにも怖じ気づかなかった。
「青木はニューイヤー駅伝の後、疲労も出て練習ができなかった期間もありましたが、ここに来て良くなってきました。6区でも区間賞の鈴木健吾選手(富士通・25)を前半は追い上げました。優勝は難しいかもしれませんが、先頭集団で勝負して入賞してほしい」(佐藤監督)
 早川翼(30)は現役ラストランとなるびわ湖マラソンへつなげるための出場だが、青木と同じルーキーの太田智樹、2年目の山藤篤司(23)と、「トヨタ自動車のこれからを担う選手たち」と佐藤監督が期待するメンバーで臨む。

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●マルチランナー・パターンになってきた塩尻

 富士通のニューイヤー駅伝優勝メンバーでは、1区区間賞の松枝博輝と5区区間3位の塩尻和也が出場する。松枝については展望記事の第6回でスピードランナーとして面白い存在であることに触れたが、塩尻は“マルチランナー”としてかなり期待できそうだ。
 本職の3000m障害で16年リオ五輪、18年アジア大会、19年世界陸上ドーハと代表入りしたが、10000mに注力した17年には27分47秒87と日本トップレベルのタイムで走っている。ハーフマラソンでも順大4年時に箱根駅伝予選会で日本人トップの2位(1時間01分22秒)と好走し、箱根駅伝2区では区間日本人歴代最高タイムを更新した。
「学生の頃からいろんな種目に出ていて、全てが今の自分の糧になっています。今回のハーフマラソンも五輪を目指す種目とは違うんですけど、レースの中でスタミナが必要な部分を経験して4月以降のトラックシーズンに生かせれば」
 19年9月のレース中にケガをしてブランクが生じたが、昨年7月に5000mでレースに復帰。塩尻の言葉を裏付けるように、9月に3000m障害、10月に10000m、11月に東日本実業団駅伝で12.6kmの7区、12月に3000m障害、そしてニューイヤー駅伝で15.8kmの5区と、距離の異なる多種目に出場してきた。
 富士通の高橋健一駅伝監督の見方も、塩尻への期待を大きくする。
「今回のハーフマラソンは2週間後のクロスカントリーとセットで考えています。クロスカントリーから4月以降のトラックのスピードにつなげていく。ニューイヤー駅伝後も調子を崩さず練習してきましたし、どんな種目も器用に走る塩尻の良いところが出てきました」
 東日本実業団駅伝のアンカーでも勝敗を決する走りを見せたが、2人の並走から抜け出す想定内の展開だった。全日本実業団ハーフマラソンで大きな集団を従えて走ったとき、箱根駅伝2区以来の“ロードの塩尻”のすごみを感じることができる。

 男子のレース展開は予想がかなり難しい。前回優勝のジェームズ・ルンガル(中央発條・28)ら強力な外国人選手が先行するのか、日本選手と同じ集団をハイペースで引っ張るのか。
 日本人選手に限れば村山謙と塩尻の、ニューイヤー駅伝5区で対決した2人が中心になって集団を牽引する可能性は高い。村山謙は極めて速い入りをするタイプだが、塩尻も村山謙の追い上げを許さなかった。
 前回日本人トップの古賀淳紫(安川電機・24)以下、1時間0分台で走った鈴木大貴(YKK・26)、中村高洋(京セラ鹿児島・37)、野中優志(大阪ガス・25)、堀合大輔(ヤクルト・24)らの中で、積極的に走る選手が現れる可能性ももちろんある。
 高久龍(ヤクルト・27)、藤川拓也(中国電力・28)、岡本直己(中国電力・36)、河合代二(トーエネック・29)らは、2週間後のびわ湖マラソンに向けての調整レース。河合を除けばハイペースで押し切るレースは想像しにくいが、勝負どころでは積極的な走りもできる。
 村山謙が希望しているように最初の5kmを14分20~30秒で入り、5km以降を去年と同じペースで進めば1時間00分32秒の大会記録を更新できる。15km以降で思い切った飛び出しをする選手が現れ、その選手を何人かが追う展開になれば、20kmまでの5kmを13分台で走破する超高速バトルが見られるかもしれない。

TEXT by 寺田辰朗 写真提供:フォート・キシモト

明日午後2時 TBS系列




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