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電気自動車の使い方から生活が見える、Vehicle To Home(V2H)リサーチの舞台裏【前編】

こんにちは。
トヨタコネクティッド株式会社 エクスペリエンスデザイン部 デザインリサーチグループのイノウエです。

トヨタコネクティッドでは2023年11月から2024年4月にかけて、V2H (Vehicle to Home)スタンドと、トヨタホームが開発した非常時給電システム「クルマde給電」の利用者を対象に導入のきっかけや普段の使い方について調査を行いました。

本記事ではプロジェクトの紹介に加えて、リサーチャー視点に寄せてリサーチをどのように進めていったのかを前編の【アンケート・インタビュー編】、後編の【分析・ワークショップ編】の2本立てでご紹介します。


V2Hとは

まず、そもそもV2Hって何ぞや?のところから簡単にご紹介します。

V2H (Vehicle to Home)スタンドは、電気自動車(BEV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)のバッテリーを充電するだけでなく、貯めた電力を自宅でも使えるようにする機器のこと。

たとえば、深夜電気料金で車のバッテリーを充電して日中に家の電気として使ったり、太陽光パネルがあれば日中に発電した電気をEVに充電しておいて、パネルが発電しない時間帯に家の電気として使うといったことも可能です。 停電が発生したときも、車から家に給電することで電気を日常に近い状態で使うことができて災害の備えにもなるので、V2Hにとって電気自動車はまさに走る蓄電池。

ちなみに冒頭にちらっと書いてある「クルマde給電」はトヨタホームが開発した非常時給電システムで、停電時のみハイブリッド車も含む対応車から家に給電することができます。 V2Hと比べて機能を災害対策に絞っていて、よりコンパクトなイメージでしょうか。

V2Hはもともと国内シェアトップのニチコンが2011年の東日本大震災を受けて災害時にEVの電力を使えるように2012年に世界に先駆けて開発したもの。最近では太陽光パネルで発電した電気の有効活用など、エネルギーの自給自足の点でも注目されています。

V2Hシステム(出典:トヨタホーム ウェブサイトより)

2023年3月時点での出荷数はニチコンのみで18000基と発表*しています。出荷台数の増加しており、さらに、他メーカーの新規参入が続いているので、市場自体は好調と言えそうですが、日本の戸建て住宅の総数やEV車所有人口を考えるとまだまだV2Hは普及途上です。

サービスなどを検討する上で、現状すでにV2Hを自宅に導入している人がどのように利用して暮らしているのか、実態把握の難しさが課題となっていました。 そこで、実態を把握して調査結果を今後の商品やサービス開発に活かすべく、本調査を始めたというわけです。


* 経済産業省 第40回 総合資源エネルギー調査会 省エネルギー・新エネルギー分科会 省エネルギー小委員会 資料3「ニチコンの蓄電システム、V2Hシステムの紹介とVPPへの取り組み状況 〜ニチコンが目指すカーボンニュートラルへの貢献〜」参照。

調査対象の設定

定量調査(Webアンケート)

デスクリサーチや複数人への簡易インタビューを行って概況を把握した上で、Webアンケート調査を実施しました。
調査対象によって得られる情報が変わってくるので、特にどんなユーザー層の生活実態を知る必要があるのかを具体化して条件設定し、調査に協力してもらう必要があります。

今回はトヨタホームに調査協力いただき、トヨタホームで住宅を購入し、V2Hスタンドまたはクルマde給電を導入しているユーザーに最初から対象を絞った上でアンケートを依頼。
また、クルマde給電についてはV2Hと比べて設置数が多いため、「入居が23年2月以前(入居後、冬と夏を一回以上経験)」を条件として追加しました。
1年以上利用経験がある対象者に絞り込むことで、ある程度操作や機能を把握しているユーザーの声が集まりやすくしました。

定性調査(インタビュー)

インタビュー対象者の選定については、Webアンケート調査がインタビュー対象者のスクリーニングも兼ねていたので、アンケートの設問で「追加調査に関心がある」と回答したユーザーの中から行いました。

リサーチメンバーの「このユーザーに話を聞いてみたい」という意見も取り入れつつ、日常の使い方を詳しく聞けそうな利用頻度が高いユーザーを中心にリクルーティング。
実際に停電時の非常電源として利用したことがあるユーザーに絞ってインタビューできればよかったのですが、条件に当てはまるユーザーがアンケート有効回答数の2%のみ。そしてインタビューに承諾している方はさらに少なく…。条件に合う人になかなか出会えないのが調査の難しいところ。

Webアンケートから見えたこと

Webアンケートでは、導入経緯や利用状況・満足度、停電時利用経験、また関連機器としてHEMS利用状況について調査をしました。

HEMS(Home Energy Management System)
家庭内のエネルギーが、いつ、どこで、どれだけ使用されているか「見える化」し、家の機器を効率よく「コントロール」するシステム。

導入時の期待については「災害時や停電の備え」が一番多く、「電気代の削減」などエネルギーの自家消費・自給自足的な側面は優先度が下がる結果となりました。 大半のユーザーが停電時の利用経験がないので、まだ製品に対して期待通りだったかの評価が下されていない状況と言えます。

一方で、停電時の利用経験がないユーザーも含めて8割がV2Hを導入して満足に感じており、加えてHEMS利用の有無で満足度に大きな差があることも分かりました。

また、V2H対応車と戸建て住宅、V2Hスタンドそれぞれの購入タイミングや、自身のライフスタイルにどのように合わせていけるかが利用頻度や効率の良い使い方に繋がり、巡り巡って満足度に影響している様子が伺えました。

上記からインタビュー調査は、災害や停電時以外のどういった点が満足につながっているのか、HEMSをどのように利用しているのかを主題として設定しました。

インタビュー内容の記録とメンバーへの共有

インタビューは、訪問を中心に一部オンラインのハイブリッド形式で行いました。 訪問でのインタビューは3人体制で行っていたので、現場にいないリサーチャーにできる限り情報共有をすること、そしてまた1ヶ月間のインタビュー調査を経ても内容を忘れずきちんと分析作業ができるようにする必要がありました。
ここでは実際に行った記録の方法をいくつか紹介したいと思います。

行動パターンシートの作成

太陽光パネルで発電した電気を車に給電しているのか、それとも深夜電力で電気自動車を充電・日中車から家に放電して自給自足をしているかなど、1日のV2Hや車に関する行動を記入するシートをフォーマット化し、インタビュー終了後に対象者ごとに作成しました。

発話録とは別に整理しておくことで、どういった特徴のあるユーザーだったかをすぐに共有・思い出すことができ、ほかユーザーとの比較もしやすいので分析の時にも役立ちました。

行動パターンシート例

要点記載シートを使ったデブリーフィング

インタビュー終了後に参加者全員でデブリーフィングを行い、インタビューを振り返って印象的だったこと、気づいたことなどをメンバーで共有しました。

こちらもどんな対象者だったか一目見れば思い出せるよう、要点記載シートをあらかじめ作成しておき、その内容に議題としながらモデレーターがデブリーフィングを進行、話した内容をシートに記録していく…といった手順で行いました。

デブリーフィング内容をまとめたシート。
どのような人物か、V2Hの導入経緯、製品の満足・不満足にまつわるエピソード、操作や機能の理解具合、そのほか特徴的なエピソードなど。

要点記載シートに沿って進行したことで、偏りや漏れなく振り返りができ、また項目がある程度揃っているので、分析時の対象者間の比較にそのまま使うこともできました。

一方でシートの内容を議題としつつも、あくまで思考の取っ掛かりとして、基本的には発散的に、多少根拠が足りない考察や視点も含めて自由に話したことで、凝り固まった内容になりすぎなかった点もインサイトを発見する上で重要だと感じました。

疑問と情報は現場にある

ここまで調査の中のリサーチャーの手元を中心にご紹介してきましたが、改めて調査を振り返ると現場に赴く調査の重要性を強く感じた調査だったなと思います。

リモートワークの普及・オンラインWeb会議ツールの発展に伴い、これまで自分が携わった活動ではオンラインインタビューで実施する調査が多かったのですが、ユーザーが実際に暮らす場所で普段の生活を垣間見ることで、家の中での家族の様子や会話の中には現れない操作の様子など、V2Hに関わる多くのことを五感で得ることができました。

そして、それらの現地でしか得られない情報をきっかけに湧いた疑問を、すぐにインタビューに取り込めるので、オンラインインタビュー以上にインタビュー内容を調整して行きやすい。

また、あるメンバーは早めに現地に行き、生活圏を実際に歩いてその街に暮らす人はどのような暮らしになるのかも含めて考察していました。情報が大量にある場所に行くだけでなく、どうやってその情報をキャッチできるか?も工夫の1つと言えそうです。

アンケート・インタビュー編はここまでとなります。
次の記事でインタビューで得た情報の分析やワークショップの様子を書いていきたいと思います。

プロジェクト紹介・調査結果レポートはこちら↓


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