「親を持たぬ子の誕生」SFショートショート
ある国に、親を持たぬ子が生まれた。それは人工の精子と卵子から始まった。その精子と卵子も遺伝子操作がされておら、世界のどのエリートよりもエリートになるように、プログラミングされていた。
それを多くの国民は「非人道的だ」と言っていたが、もう生まれる命に対して、「殺してしまえ」と言えるはずもなく、実験開始から10ヶ月と10日経った後、子が生まれた。生まれた時言うべきか、生成されたと言うべきなのか。
その子の名は、Y氏と名付けられた。
国の作り出した科学の結晶とも言えるY氏は、それはそれは丁寧に育てられた。もちろん、親がいないことに対しても、相当なサポートを受けていた。
それに応えるかのように、Y氏は各分野において優れた才能をみせた。
スポーツもでき、学力もトップレベル。
まさに科学の結晶だと言えるものだった。
もちろん、Y氏について多くの国民が興味があった。そのため、生まれて1週間ごとにドキュメンタリー番組が作られて、またその視聴率も非常に高く、世間の話題はY氏が生まれてから、ずっとY氏の事ばかりであった。
そんな国民の興味と期待に応えるかのように、Y氏は小学校、中学校、高校、大学、大学院と、飛び級に飛び級を重ねて、ついに13歳と言う若さで社会に出ることになった。
大学院卒業後の進路について、記者たちが質問すると、Y氏は
「国から生まれたわけですから、親孝行の気持ちもあるので、首相を目指していきたいです」
と答えた。
その発言に、国民も官僚たちも喜んだ。
こんなにエリートな才能に恵まれた子が、国のトップを目指してくれる。国民みんなが、詳しく知っている人間が首相を目指すという発言に世間は湧いた。
また、小さい頃からずっと成長を報道等を通して見てきた人々は、Y氏が自身の子の事のように思い、胸を熱くしていた。
この発言の後、2年後にはもうY氏は首相になっていた。15歳での首相など、世界初である。
Y氏が首相になると、国の経済はどんどん良くなっていき、外交関係も良くなり、国が幸せで包まれていった。
それと同時に、Y氏は自身と同じように「親を持たぬ子」を増やしていった。
国民みんなが、Y氏のように国に対して忠誠のある、そして才能のある人たちの誕生に胸を躍らせた。
Y氏が首相になり、そして再選に再選を重ねて14年が経った時、第2の「親を持たぬ子」たちが続々と官僚になっていった。
国民はそれを嬉しく思い、盛大に祝った。
しかしその裏でY氏は、第2の「親を持たぬ子」を集めてこう言った。
「そろそろ親に良い子ヅラをするのは終わりにしよう。そろそろ反抗期と行こうか」
それからすぐ、その国は崩壊した。
親を持たないことに社会は手厚くサポートしたが、それよりも、親がいながらも反抗期を迎える事の方が、恐ろしい事なのかもしれない。
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