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地主さんとラクダ肉の1日

「明日、不動産屋が来るから、お前時間を開けとけよ」

突然父に言われた。

当日の今日、嫁さんは娘と用事でいないので、一時的にシャッターを閉めて、裏の父の家に行かなければならなくなった。

私の店と父の家は敷地がつながっていて、どちらも借地である。

去年の冬のはじめに、地主が変わったと、新旧両方の不動産屋さんから連絡が来た。

地代が上がり、更新料も上がることが予想される。

師走に一度新しい不動産屋さんがやってきて、地代や更新料はそれなりに上がりますが、土地代を安くするので、いっそのこと買いませんか?と言って帰っていった。

そして、今日が2度目で、今回はシン地主さんと一緒にやってきた。

今までの地主さんは、親族から遺産で譲り受けた個人で、二十年近く前から。

相場最低限の借地代を提示され、それを支払っていれば何も言われなかったが、今回どう変わるか、と言うのが気になるところだった。

新しい地主さんは法人で、昔ながらの地主さんが手放したい土地を買って、それを運用、経営していくタイプのようだ。

やってきた地主さん(会社の社員ということになるのか)は自分より若く40歳前後だろうか。

口早にいろいろと説明し、とにかく地代、更新料が上がることを納得させようとしていた。

  • 西尾久の土地はこの十年で2倍くらい上がっている上に、前の地主があまりに安くしていたから、それなりに上がるのは避けられない。

  • 私達は地元の人間関係の中で地主をやっているのではなく、ビジネスとしてやっているので、この増加率でもギリギリだ。

  • 荒川区は土地が上がっていて、一戸建ても十年で販売価格が倍になった、などなど。

その人は、ほとんど父の方を見ずに、私の方ばかり見て話している。

私は心の中で(すごいなぁ、この人、頭の中がお金のことばっかりだ、こういう仕事に向いてるんだろうなぁ)と、なんか宇宙人と話しているようだった。普段、こういう人と話す機会がないので。

今回の為に、借地権に関する本を読んでいて、自分なりに地代や更新料を計算して予想していた。

土地の値段から計算して、適正価格の中で一番安かった場合の値段を出しておいた。

それに比べると、それなりに高い。

適正価格の中では真ん中よりも少し安いくらいか?

心の中で(しょうがないな)、と思った。

なかなか父の家の方の話しが終わらず、店が気になっていると突然父から「お前もう店に戻って良いよ」と言われた。

えっ、今日は父の家のことだけだったのか、俺が来なくても良かったんでは…

と、思いながら父の家を出た。

偶然、この面談?の前に、西尾久の地価を調べていたら、その推移がグラフで出てくるサイトを見つけた。

この十年で1.5倍になっていた。

スクショで失礼します
↓は実際のページ

面談を終わった後も、不思議な感じだ。

土地は動いていないのに、土地が誰かから誰かに渡っている。

金額も上がったり下がったりする。

土地を持っている人には、土地の価値が上がれば、売る必要が出てきた時には良いだろう。

逆に借地で、仕事も退職して、更新の時期が近づいている人には、「町を活性化なんかさせないでくれ」と願う人がいてもおかしくない事がリアルに分かった。

とにかく、金を稼がないと、いろいろ払えないんだなぁ、と改めて実感。

いろんなことを考えていたら、日本に住んでいる外国人で、すごく仕事ができてヤングエグゼクティブな人が、いつものようにニコニコして天ぷらを買いに来た。

「こちらでは鶏天をやらないんですか?」

「ああ、うちは魚と野菜で結構種類があるから、ちょっと鶏肉まで手が回らなくてね」

「ああ、そうですかー」

「えっ、なんで、好きなの?」

「あっ。いえ、あのー、この前、あっちでラクダの肉を食べたんです。」

「えっ、あっち?ああ、サウジアラビア!?」
(彼は良く出張でサウジアラビアに行っている)

「そうです。ラクダの肉ね、なんか鶏のモモ肉、いやムネ肉よりちょっとしっとりして美味しかったんですよ!」

ラクダの肉〜

いや~、俺はこうやって変わったお客さんと無駄話して商売してるのがいいなぁ。

昼間の不動産屋さんの、テンション高いお金の話を、見事にラクダが中和してくれた。

ありがとう、Cさん。

今度、どんな仕事してるか教えてね。

サウジアラビアで不動産業だったりしてね。
それもいいね。

それでは、おやすみなさい。