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ディストピアSFの傑作Apple tv+『サイロ』と小説『一九八四』

ディストピア小説を読んでいて背筋が寒くなるのは、そこの住民が必ずしも自分たちがディストピアに暮らしていると自覚していないことだ。

Apple tv+ でシーズン1を配信中の『サイロ』は、地下サイロというコンセプトが視覚的に強烈なインパクトをもって視聴者を惹きつける。

地上は汚染されていると信じる住民は地下144階の地下深く掘られたサイロで暮らしている。

サイロ内には螺旋階段がめぐらされ、上層階から下層階の居住階がそのまま住民の階級を反映している。

ところが、機械工ジュリエットがこのサイロの謎を解き明かし、真実を知ろうとする。

私はちょうどディストピアSF小説の古典にして金字塔とも称されるジョージ・オーウェル『一九八四』を読み終わったタイミングでこのシリーズを見始めたので余計に恐ろしくなった。

「テレスクリーン 」「ニュースピーク」「 二重思考」などのコンテンツは『サイロ』にも、ほかのディストピア小説にも頻繁に登場する。

監視社会での不都合や不可解なできごとはあるものの、いまのささやかな幸せを守るために触れるべきではない。

「真実」を知るため立ち上がる人は異端であり、平和を乱す存在でしかない。「真実」を解き明かそうとすれば命の危険に晒される。

支配者は「ほら、みてごらん。ろくなことにならないぞ」と声にならない声で人々の耳元に囁きつづける。

そうしているうちに、ひとは無意識に身を守るべく、そしてできるだけエネルギーを削がれないために、本来選べるはずの選択権を放棄してしまう。りんごでなくてみかんでも、赤ではなくて青でもいいときにでさえ。

こうした小さな変革や可能性の芽はいとも簡単に摘まれてしまうのだ。あたかも最初から存在していなかったのように。

「一九八四」が1949年に書かれたと思うとさらに恐ろしい。われわれは警告を糧にできているだろうか。

命を賭すことはできなくても、私たちがみずからの人生に日々小さな革命を起こすことはできるかもしれない。自分で考え、人と対話し、小さな選択を積み重ねる。

ディストピアの世界観はダークで滅入るけれど『サイロ』はSFエンターテイメントとしても見どころ満載でおすすめです。



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