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2020年東大入試問題・英語2(A) 解答解説速報

東京大学入試問題(2020年2月26日実施)の英語2(A)の英作文(エッセイライティング)の解説および模範解答です。受験した人だけでなく、東大志望者の方や教員の方も是非参考にしてください。*解答は東大発表のものではありません。

2(A)
私たちは言葉を操っているのか。それとも,言葉に操られているのか。あなたの意見を60~80 語の英語で述べよ。


解説

ここで言うところの「私たち」とは何かを具体的に想定することから考え始めたい。「私たち」とはこの場合何を指しているのかを具体的に考えないと、内容としてまとまらないだけでなく、おそらく60~80字という字数で仕上げることは難しいだろう。例えば、we control languageやwe are controlled by languageと書き始めたところで、その後書くことがなくなる。

というわけで、ここでの「私たち」とは一体何だろうか?「私たちのアイデンティティ」だろうか?もしくは「私たちの行動」だろうか?それとも「私たちの思考や感情」だろうか?

「私たちのアイデンティティ」という可能性はなくはないだろう。自身がどういう人物かによって言葉遣いが変わったり、言葉遣いによって人格が形成されたりするケースも考えられる。しかし、もしそうだとしたら「操る・操られる」という表現をするだろうか?日本語のコロケーション的に言えば、「形成する・形成される」「影響する・影響される」の方が適切だろう(もっとも「私たちは操られている」というのも比喩表現だが)。

 また、この「操っている」のか「操られているのか」という二項対立の問いかけになっていることを考えると、この場合、「私たち」を「私たちの行動」とするのも無理があるかもしれない。「私たちの行動が『言葉に操られる』」は分かるが、「私たちの行動が『言葉を操る』」というのは想定しづらいからである(前者の場合だと、有言実行だとか他者の言葉に操られるといった流れが想定されるが、おそらく本問の意図に沿っていないように思われる)。

 だとすると、ここで言う「私たち」は「私たちの思考や感情」であるという前提の下で考えてみると良いだろう。例えば、ポジティブな言葉を発することで前向きな気持ちになったりハッピーな気持ちになったりすることもあるだろうし、逆に、気持ちが落ち込んでいたりマイナス思考が重なったりすると出てくる言葉も陰鬱なものになることもあるだろう。そのような具体的な状況を踏まえれば、解答は書きやすいだろう。

 その前に、ここで「言語と認識」についての学術的議論を紹介しよう。まずは、「サピア・ウォーフの仮説」と呼ばれているもので、2名の言語人類学者のエド ワード・サピア(Edward Sapir, 1884-1939)とベンジャミン・リー・ウォーフ(Benjamin Lee Whorf, 1897-1941)から名付けられている考えである(ただしこの二人が命名したわけではない)。そして、その後に登場するスティーブン・ピンカーノーム・チョムスキーによる、言語本能説と生成文法という考えである。

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