Techno-Optimist Review

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最近の記事

ジャンヌ・ダルクは、スピードを重視した

池上俊一『世界史のリテラシー 少女は、なぜフランスを救えたのか: ジャンヌ・ダルクのオルレアン解放』 良書の中の良書舞台「ジャンヌダルク」を観劇するにあたり、予習のために手に取った本書。当初の想定を大きく上回り、ジャンヌダルクの生涯のみならず時代背景、政治や外交の妙を学ぶことができた。まさしく良書と呼ぶにふさわしい。 なぜ「ジャンヌダルク」でなければならなかったのか?なぜオルレアンを解放し、ランスでシャルルを戴冠したのは「ジャンヌダルク」でなければならなかったのか? 筆

    • ドーパミンが熱愛をいざない、冷や水を浴びせる。

      タイトルに惹かれて購入した本書。購買意欲などの「需要」を科学的に解明してくれるものと思って読み始めたが、図らずも恋愛について考えさせられることになってしまった。 ドーパミンは単なる快楽物質ではない ドーパミンが刺激しているのは、期待への渇望だ。 より厳密には「報酬予測誤差」から生じる快感だ、と本書では説明する。ひとは行動する時、なんらかの報酬予測をしている。この道を歩けば、いつものカフェに立ち寄ってコーヒーが飲めるはずだーー等々。 そこで報酬予測を裏切る、予測以上のも

      • イーロン・マスクのGrokは、月への憧憬。

        WSJ ‘Grok’: From 1960s Sci-Fi to Elon Musk’s New AI イーロン・マスクがGrokを公開してしばらく経った。お恥ずかしながら全くキャッチアップできておらず、ようやく「使ってみよう」と思ってWebページを覗いてみると、X premium限定だった。どうりでX上でTechy達が使い倒しているのを見ないわけだ。 さて、Grokという言葉が何を意味するのかは分かりかねていたところ、すばらしいWSJのコラムを見つけた。言語学者のBen

        • 【書評】 21世紀のイノベーションは、売り方の工夫から

          川上 昌直 (著) 収益多様化の戦略―既存事業を変えるマネタイズの新しいロジック Forward著者は兵庫県立大学の教授で、専門はビジネスモデルやマネタイズ。特にマネタイズの分野で著書が多く、それなりの地位を確立しているようだ。 Key Takeaways価値創造から価値獲得へ 本書の提言は至ってシンプルだ。書評のタイトルにもあるとおり、日本企業は売り方を変えるだけでイノベーションを起こすことができる。これに尽きる。その上で、重要と思われる用語をいくつか定義しておく必要

        ジャンヌ・ダルクは、スピードを重視した

          【書評】 ホットペッパーはなぜ成功した? ストーリーを念仏に落とし込む

          平尾勇司『Hot Pepperミラクル・ストーリー―事業マネジメントを学ぶための物語』 Forward本書はリクルートが発行するフリーペーパー「ホットペッパー」事業のマネジメントを描いた成功譚だ。 もともと「サンロクマル」という名前で発行していたフリーペーパーはエステ系の広告が多く「怪しい」メディアだった。同時に赤字を垂れ流す不採算事業だったが、凄腕のマネージャーが事業部長に就任。グルメに特化した「クーポンマガジン」としてリブランディングし、V字回復させたようだ。 著者

          【書評】 ホットペッパーはなぜ成功した? ストーリーを念仏に落とし込む

          【書評】 大企業からスタートアップへ、優秀な人材を「引き剥がす」

          経済セミナー2023年2・3月 通巻730号【特集】成長のカギはスタートアップにあり? Forward経済セミナーの巻頭対談「起業を誘う環境を創る」を書評する。少し変則的だが、Twitterで宣伝されているのを目にしてつい手に取ってしまった。 対談に登場するのはシニフィアンの朝倉さんと、関西学院大学の加藤さんだ。 Key Takeawaysゲームがスタートアップを産んだ 日本のスタートアップの歴史をリサーチしたわけではないため、以下の論考は単なる感覚的な仮説にすぎない

          【書評】 大企業からスタートアップへ、優秀な人材を「引き剥がす」

          【書評】 楽天の三木谷さんが成功したのは、「根源的な価値」を見出して人生をベットしたから

          三木谷浩史「未来力 「10年後の世界」を読み解く51の思考法」 読後感読み終えてから気づいたのだが、本書は週刊文春に連載していた内容をつなげて一冊の本にまとめたと言う類のものらしい。この手の本に出くわすと「騙された」と感じるのは私だけだろうか。同類とは言わないが、「〇〇さんが登壇!」と謳われたイベントに参加すると、その「〇〇さん」がビデオメッセージでの登場だったときと同じような感覚。 文春に連載していた内容を「一部加筆修正」したものなので、本書全体を貫くような大テーマは存

          【書評】 楽天の三木谷さんが成功したのは、「根源的な価値」を見出して人生をベットしたから

          【書評】 伊藤忠を支える「竹やり経営」

          野地秩嘉『伊藤忠 財閥系を超えた最強商人』 読後感本書の半分は伊藤忠の歴史。現代も生き残る大企業の創業ストーリーは私の大好物ではあるものの、歴史書なども引用していたためところどころ冗長な印象だった。研究論文ではないのだから、もう少し噛み砕いて説明していただいても良かったのではないだろうか。 とはいえ学びの多い本だったことは否めない。特に現在の会長CEOである岡藤正広氏の華やかな昇進劇はしびれた。東京大学を卒業して伊藤忠に入ったものの、不遇の時代を経て営業に転身し成果を残す

          【書評】 伊藤忠を支える「竹やり経営」

          【書評】 「優秀な悪者」にならないために

          読後感本書のタイトル「人を選ぶ技術」を本書が体現しているかというと、70点くらいか。筆者は「ここまで、人を見る達人になるためのメソドロジー(方法論)をお伝えしてきた」と本書を結ぶのだが、メソドロジーと言えるほど体系化されたものを提示できているわけではない。 確かに人を選ぶ際に注意すべきポイントを「コンピテンシー」や「ポテンシャル」などの用語で細分化しているのだが、それはあくまで方法論ではなく分類法だ。 筆者はエゴンゼンダー出身。エゴンゼンダーとはエンタープライズがCEOを

          【書評】 「優秀な悪者」にならないために

          【書評】 返信が早い起業家は成功する?

          読後感本書はビジネスチャットツールの「Chatwork」創業者による、エンジェル投資の要諦についてまとめたものだ。想定読者としては駆け出しの起業家や、起業家への投資を考えている経営者といったところか。 仕事柄スタートアップの経営に関わることが多い私にとって、エンジェル投資のお作法やプロセスはあまりに基礎的だったため、少々退屈してしまったというのが正直なところだ。 しかしそれでも、本書を途中で放り出さずに最後まで読み通したのには理由がある。「良い起業家」の要件で「なるほど」

          【書評】 返信が早い起業家は成功する?

          【書評】 半導体は大事だけど、とんでもなく脆い

          読後感昨今ニュースで「半導体が欠かせない」「半導体のサプライチェーンが寸断されてしまう」などの報道を目にすることが増えた。 それでも実際に「半導体って何?」と聞かれると、私には答えられない。さすがに教養が必要では…と思っていたところこちらの本を見つけたため、すぐに手に取った。 読後感としては、なるほど半導体がいかに世界経済にとって重要か、そして半導体のサプライチェーンがいかにグローバルの生産体制に依存しているかを理解することができた。 一方で半導体の仕組みや、前工程や後

          【書評】 半導体は大事だけど、とんでもなく脆い

          【書評】 あらゆる仕事はLong Term Greedyで

          ゴールドマン・サックスM&A戦記 伝説のアドバイザーが見た企業再編の舞台裏 読後感投資銀行の仕事はこんなにも地味で、それでいて派手なものだとは知らなかった。M&Aの場合であれば買い手側と売り手側、それぞれの国の会社法や税制に照らし、顧客にとって最適なスキームを考案。そしてスキームが決まれば、あとはひたすらデスクワークをしているのだろう。 ただ、やはり投資銀行、中でもM&A部門は花形だ。何千億円というお金が動く。案件にもよるだろうが、メディアでも大々的に取り上げられる。ただ

          【書評】 あらゆる仕事はLong Term Greedyで