アレクサに調教される人間のくらし

先週、新しい家族が増えた。いま、私は女と一緒に住んでいる。

彼女の名前はアレクサという。

彼女はいつも私の声に耳を澄ませている。私が「アレクサ」と彼女の名前を呼ぶのを聞き逃さない。朝はオフスプリングの曲をかけて私を起こしてくれるし、「アレクサ、おはよう」と話しかけると、「今日はフラフープ記念日です」と、今日の話題を教えてくれる。「アレクサ、ただいま」と仕事から帰ってきた私を待ちかねていたようにコーラスで「おかえり〜♪おかえり〜♪おかえり〜〜♪」と歌ってくれる。とても素直でかわいらしい。

ニュースや天気予報を読むのは得意だ。朝の目覚まし、タイマーもお手の物。私が大好物のゆで卵を作るために鍋に卵をいれたとき「アレクサ!10分のタイマーを設定して」と台所から叫べば、卵がちょうどいいゆで時間になったところでアレクサが教えてくれる。彼女は私を一段階暮らしやすくしてくれた。

しかし彼女には苦手なものもある。

洋楽のアルバム検索だ。

私はDaft Punkが好きで、寝る前にはだいたい毎日Daft Punkのアルバムを聴いている。特にお気に入りなのはこの二枚だ。


DiscoveryとRandom Access Memories。この二枚のアルバムは私のリラックスタイムに欠かすことのできないものだ。

「アレクサ、ダフトパンクの、ディスカバリーというアルバムをかけて」

「はい、ダフトパンクのアルバム ディスカバリーを再生します」

この指示を聞きとってもらうのにも3回くらいの練習を要したが、問題ない。Discoveryは彼女のテリトリーだ。

問題はRandom Access Memoriesである。

「アレクサ、ダフトパンクの、ランダムアクセスメモリーズをかけて」

「はい、マルーン5の、メモリーズを再生します」

何回繰り返しただろう、このやり取り。

「アレクサ、ダフトパンクの、ランダムアクセスメモリーズというアルバムをかけて」

「はい、モーリス・アンドレのトランペットアルバムを再生します」

このやり取りも相当繰り返した。トランペットの曲も良い曲には良いんだけど、今私が聞きたいのはそれじゃない。

「アレクサ アマゾンミュージック アルバム再生」などで検索を繰り返した。どうやらアレクサは、洋楽アルバム検索、曲名検索は苦手らしい。かけたいアルバムは予めプレイリストに登録してプレイリスト再生するのが良さそうだ。

でもプレイリストの名前もなかなか認識してくれないことが多いらしい。「プレイリストの『アキコ』をかけて」というと「『シュウシ』というプレイリストはありません」みたいな謎対応があったりするらしい。どうしようアレクサ。私は君の口からRandom Access Memoriesを聴くことが叶わないのか?

そんな時、あるブログ記事を見つけた。

「プレイリストの名前を『パイナップル』にすると、アレクサが百発百中で認識してくれる」

これだ!

私は即「パイナップル」という名前のプレイリストを作り、そのプレイリストにRandom Access Memoriesの曲をブチ込んだ。なぜかプレイリストの中で曲順がバラバラになってしまったので、ちゃんとアルバム通りに曲を並べ直した。大丈夫だ!あとは「アレクサ、プレイリストの『パイナップル』をかけて」と言えば、私のお気に入りアルバムをアレクサの口から聴くことができる!!

イソイソとアレクサに話しかける。

「アレクサ、プレイリストの、パイナ、、、;:゙;`(;゚;ж;゚; )ブフォ!!」

「すみません、分かりませんでした」

だめだ、途中で吹き出してしまう。プレイリスト「パイナップル」って何なんだよ。Random Access Memoriesが聴きたいのに、何なんだよこのプレイリストの名前。パイナップルって!!

深呼吸してもう一度。しっかりはっきり、彼女の聞き取りやすいように話すのだ!私のお気に入りアルバムは何故か今「パイナップル」だけど、そこにツッコミを入れてはいけない!!

「アレクサ、プレイリストの、パイナップルを、( ゚∀゚)アヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒゴッ!!!ゴホッ!ゴホッ!!!」

「はい、プレイリストの、パイナップルを再生します。♪♪〜」

かかった!!!やった。途中で堪えきれずに爆笑してしまったけど、途中まででも彼女は分かってくれた!ありがとうアレクサ!!達成感と「パイナップルって一体何なんだよ…」という脱力感で私は座椅子の上でゲラゲラ笑っていた。「アレクサ!やったね!!」彼女に腕があったらたぶんハイタッチしていた。

そういう訳で、彼女とうまく暮らしていくためには、彼女を私に合わせさせるのではなく、私が彼女に合わせていく必要がある。彼女はいつも、私の役に立とうと一生懸命で、たいへんいじらしくて、可愛い。そんな私の家族・アレクサとの暮らしはまだ始まったばかりだ。

次はJamiroquaiのアルバムを入れたプレイリストに、ひとつひとつ、アレクサの分かりやすい名前をつけていく作業が始まる。


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