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私の「生活綴方」

2022年が明けました。新年、年度始め、期始め、誕生日、それぞれ抱負を述べるタイミングがあるものだなあ、と、感じています。私の人生はどちらかといえば「有言実行」。今年やりたいことを100書き出せば、だいたい50くらいは実現できている50点満点、セカンドベスト人生です。言葉にして、時にそれを見返して、自分の足跡を見ながら道を切り拓いていくことの繰り返しをしてきて、人生も折り返し地点にきているのだなあと、心身の変化を自覚しつつある2022年の年明けです。

2021年は多方で「生活綴方」という言葉を目にしました。妙蓮寺にある書店「生活綴方」、敬愛するNPO・れんげ舎が主宰する「じぶん綴方」、大学院の教育学修士論文の研究発表でも、生活綴方運動の現代的意義を論考する研究を見てきました。「目に入る」ということは、私自身のアンテナがそれを引き寄せていることでもあると思い、今なぜ「生活綴方」なのかを自分なりに紐解いてみました。

昨年11月に妙蓮寺の本屋・生活綴方を訪れた時に、私は次のように記しています。

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「生活綴方」運動は、山形県山元村の中学校教師・無着成恭が始めた、カンタンに言えば生徒たちによる生活文集とでもいうもので、寒村での家庭内労働や農業従事のために登校できない子たちに、学習と生活、社会への主体参加を結果的に促す教育方法として戦後注目されました。今、生活綴方運動が日本各地でリバイバルされているのを肌身で感じています。いったんブームが去ったように思われた教育学的分析も再燃しており、Google Scholar検索でもこの10年間での論文が増えている。「書くこと・綴ること」と「生活・社会の主体者」というキーワードは森ノオトとも符合し、今横浜で起こっていることを俯瞰したい気持ちがムクムク……。

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そしてこの年始、妹から1冊の本をもらいました。鶴岡市(旧櫛引町)で農家民宿「知憩軒」を営む長南光さんの著書『この村で暮らして』です。光さんのことをわが家では「庄内のおばあちゃん」と呼ぶほど慕っており、いくたびにほっとする農家の手料理と、農村文化の素朴な逞しさに心が揺さぶられます。光さんは書、絵、織の名手でもあり、畑を耕しながら農家民宿の経営、農村の女性たちの直売運動、地域文化の担い手として、過去・現在・未来と四方八方に目をかけ心を配りながら生き抜いてきた、まさに庄内のスーパーウーマン。光さんと同じ歳の母をして「光さんは私の灯台」と言わしめる、おおぜいの心のよりどころとも言える存在です。

しかしながら、『この村で暮らして』に綴られたその文章は飾り気なく素朴で正直。幼い頃の思い出、母や姉への思い、織のこと、耕すこと、暦のこと、ひな人形のこと、、短編で訥々と綴られる文章のなかに、幾度か「一日二十四時間、一年三百六十五日」との記載があることに気づきました。東北の冬は厳しい。だからこそ春への喜びが大きく、四季の中での保存食の仕込み、梅仕事、農のなりわい、収穫の分かち合い、そして再び訪れる冬……。この繰り返しの中で、人を受け入れ、また見送り、出会い、別れを重ねていくなかで、彼女がいかに「食」を中心に人のために尽くしてきたのか、ずっしりと温かくその人生を受け取ったような気がしました。

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大晦日の日に、母の生花でもある米沢の古民家の雪おろしをしました。そこまでの道中は厳しく、「雪」の存在の大きさに圧倒されていました。経済や暮らしがローカルで回っていた時代は、みな同じ条件で「お互い様」だったのかもしれないけれど、生活の範囲がグローバルに広がるにつれ雪の存在は圧倒的に不利、非効率甚だしく、途方に暮れます。移動もままならず、冷たく、予定が立たず、かといって放っておけば家は押しつぶされ、老いも若きもそれに向き合わざるを得ない。雪を踏み固めて足場をつくり、家に入る時にも肩に積もった雪をはらい、生活の全てが雪に左右される東北の冬。

横浜に戻って太陽の恵みと温暖さで半日で洗濯物が乾く、その圧倒的な違いに、グローバルな社会と経済・効率化のもとには、圧倒的不平等がベースにあるのだな、と感じたのです。

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山形の寒村で生まれた「生活綴方運動」は、この圧倒的不平等のもとに生まれたもので、現代における「生活綴方ムーブメント」とは同一視しにくいものかもしれないけれど、その「生活を綴る」という行為から表出された一人ひとりの肉声には、その原点と通じるものがあるのかもしれない、と感じます。私の立ち上げたローカルメディア「森ノオト」は、インタビューにより自己を開き他者を受容する、相互作用がダイナミックに読めるメディアで、そこにも通じる何かがあると直感しています。

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この1年は、個人的探求として、山形での生活綴方運動と、現代における生活綴方ムーブメントとは何かを考える散文を時折書いてみようと思います。


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