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ディストピアの向こうにー天羽々幽香『XXX』評

こちらのエントリーは
第1回透明批評会 9月度 天羽々幽香さんの『XXX』の批評となります。
先に本編をお読みいただくことをお勧めします。

 最初、私はこの作品をSFファンタジーの物語として読みました。ーAIを乗せた器物が、ある日「こころ」を獲得するー、そんな風に読めたのです。
 AIは、自分が「おぎゃあ」と生まれた人であると疑わないものの、しかし、

自分自身の身体がただの器のように感じ

ている。そして、自身にしか分からない感覚を有している。それは、やがて「劇的な変化」をもたらす。

ある日、私はそれを捉えた。
鏡を覗き込めば、自分の中に存在していた。

 胸元にある、それ、は「こころ」。そして、主人公は他人の「こころ」を見ることも可能になる。
「こころ」は「誰も彼も同じ形、色、質感」をしている。しかし、ある時、

「こころ」が平等にある世界で、その法則にそぐわないものと私は出会った。

 ボーイミーツガールの青春譚が始まりそうだけれども、少し違っている、と私は考えます。それは後ほど伝えることにして、今はこの出会いについて紐解いていきたいと思います。

 ・彼女の「こころ」は「黒く濁っており。艶やか」であること。
 ・世界が黒白と化すこと。

 この2点から、彼女の「こころ」は黒く、主人公の「こころ」は白いのではないかと考えます。主人公の「こころ」とモブのキャラクターの「こころ」の差が表記されていないので、これは、あくまで想像によりますが、主人公は彼女とは別でありながら、特別な白い「こころ」を持っていたのではないか。

 やがて世界は「色を失い朽ち始める」。そうしてモノクロームになりながら、二人だけで成り立つ世界が現れはじめます。他はすべて朽ちてゆく。
 彼女は奈落を知っており、それは主人公と共有するようであるけれど、

彼女は私とまったく同じような景色が、見えているわけではない。

 これを好意的に解釈するのならば、複数のレイヤー構造になっている世界を二人は歩いているのかもしれません。或いは、量子力学的なパラレルな世界、異世界の林立。
 ここは、もう少し、背景の説明があった方が、よりドラマチックな展開になると思います。違う世界を、平行して会話しているのは、とてもスリリングです。

 辺りは朽ち続け、肉体(器物)は滅び、「こころ」だけがそこらじゅうにうずくまっている。
 朽ちていくビルは何かを象徴しています。かくりよ(幽世)でしょうか、冥府の入り口でしょうか。いずれにしても、黄泉のような場所へと向かうように感じられます。皆、「こころ」だけの存在になっているディストピア。
 上へ上へと登っていくけれど、それは途中で閉ざされてしまう。

一番上へ行く道はない。

 それは、涅槃、ニルヴァーナまでは到達できなかったということでしょうか。まだ、二人は、ヒンズー的世界観で言えば、輪廻の輪から逃れられていないという象徴でしょうか。
 それを表す言葉として「エゴ」という単語が出てきます。エゴがあるのならば、確かに解脱はできていないでしょう。
 そんな風にとどまざるを得なかったフロアで二人は互いに耽溺する。

彼女を、純真な「こころ」を抱く。私は彼女と共にあり続ける。

 解脱は叶わないものの、ここにひとつの世界の完成を見ます。排他的で、それゆえ安定した世界。
 外は朽ち続けています。二人の世界はいつまで保たれるものなのでしょうか。
 TV版のまどかマギカのまどかのように、あり続けることはできるでしょうか。
 いずれにしても、ここはフロアの途中です。続く物語もあるでしょう。

 最初に、この物語を、AIを乗せた器物のSFファンタジーと読んだ、とお伝えしました。この場面とタイトルを踏まえて、少し読み方を変えます。
 XXX
 XXとXXの重なって出来た新しい生命(世界)。女性の遺伝子を持つもの同士が合わさり、新しい性を構築する。

 笹塚さんの評を読んで、XXを遺伝子であると私も思いました。また、丹宗さんの評にあったように、百合の要素を感じたということもあります。
 SFファンタジー X 百合という読み方は穿ち過ぎでしょうか。

水だけは本来の色を忘れていない。

 本来の色とはなんでしょうか。
 もしかして、羊水のことかもしれない、と思いました。この描写を羊水と捕らえることも、深読みしすぎている気がしますが、浴槽にうずくまる二人は、双子の胎児のようです。

 SFファンタジーという解釈は飛躍しているのかもしれませんが、この物語をイラストレーションストーリーとして、複数の絵師で再現してみるというのは面白いかもしれません。様々な描写のイラストレーションが生まれそうです。ただ、そのように想像の余地が多いということは、ディテールがまだゆるすぎる、とも言えると思います。
 成田さんの評にあったようにキャラクターを作り込むことが必要かもしれません。そうすることで、世界は確固としたものになり、ゆくゆくは、派生した物語を生むことができるかもしれません。
 そのような、核となるお話にすることのできる物語だと読みました。


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