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【エッセイ】エブリィとヒップしっぷ

郵便局の仕事を離れてから、まだ1か月も経っていないのだが、すでに身をよじるほど懐かしいものがある。
業務になど何の未練もないが、あの子には未練たらたらだ。
できることならもう一度、ともに街を走りたい。

そう。
あの子とは、日本の路上でよく見かける、郵便局の赤い車である。


おケツ以外には優しいあの子

私が業務で乗っていた車は、SUZUKIのエブリィという。
様々な業種で使われている、日本を代表する「はたらく軽自動車」。
目の位置が高く、視界が広いので本当に乗りやすい。

ああ、もう二度とあの子と走る機会はないんだなぁ。
そう思うと、寂しさのあまり逆立ちしそうになる。

エブリィが楽しいのは、何と言っても小回りの良さ。
少し不安な狭い場所でも、ハンドルを一杯に切れば、赤い車体はくるんと小さく回ってくれる。
フィギュアスケーターも驚くであろう、キレのいい回転だ。
できることなら駐車場で、8の字を描いて遊びたかったが、通報が怖いので諦めていた。

そんな優しいあの子にも、ひとつ欠点があった。
だがしかし、それはそれで仕方がなかろう。
きっと予算をケチって 完璧な人間がいないように、完璧な車もあり得ないのだ。
あの子のシートが硬く、長時間乗るとおケツが痛いことくらい、大目に見てあげようではないか。

残ってしまった大きな悩み

これを書いていて気付いたのだが、私はここ1年程、おケツの違和感に悩まされている。
正確には腰の下と言うべきか、臀部の上と呼ぶべきか。
毎日おかしいわけではないが、一度違和感が始まると、2日程度は続いてしまう。
酷いときは痛みを伴うので、病院か整骨院に行くべきか、軽く迷っているところなのだ。

この違和感の理由は、私のおケツが一際デカく、ケツ圧が高いせいだと思っていたのだが。
もしかすると、エブリィのシートが原因だったのだろうか?

荷物をたくさん積む設計上、エブリィでなくても、軽バンのシートが硬いのは仕方がないことだ。
しかし、私のケツ圧でそのシートに乗っていたのだから、さすがに臀部も痛かろう。
ごめんよ、エブリィ。
きっと君も、なんて重いおケツだろうと呆れていたよね。

ちなみに、違和感がどうしても酷いとき、私は大きな湿布に救いを求める。
おケツに1枚貼るだけで、驚くほどの効果を発揮してくれるのだ。
しかし、鏡の前で湿布を張る、私の姿を決して想像してはならない。

鏡におケツを向け、上半身をヒネって患部の位置を確認しつつ、肌色の湿布をペタリと貼る。
そんな姿を想像しな……あ、何でもないです。

それでもやっぱりエブリィロス

そうは言っても、またエブリィに乗りたい気持ちは本物だ。
あの気の利いた小回りで、軽やかに街を走りたい。
それが業務ではなく、自分自身のためならば、どれほど楽しいことだろう。

しかし「乗りたい」と「所有したい」はまた別物。
あの子を自分の車にするには、さすがにシートが硬すぎる。
そう考えると、やはり私はもう2度と、エブリィに乗ることはないのだろう。

さみしいな、さみしいな。
さみしいけれど、仕方がない。
私は自分の意志で、エブリィを降りてしまったのだから。

もうこうなったら、ライター道を全力で進んでいこう。
おケツに湿布をペタリと貼りながら。

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