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マスカット・ベーリーAワインの進化

日本ワインを代表する品種、マスカットベーリーA。独特のストロベリーキャンディー香が得意ではない人も少なくないとは思うが、特に近年のマスカットベーリーA(以後、MBA)は非常に美味しいと個人的に思っている。


個人的おすすめMBAワイン

先日も山梨県のワイナリーを幾つか訪問させて頂き、数多くのMBAを試飲させて頂いたが、中にはブルゴーニュのピノノワールを彷彿させる味と香りのものもあった。特に個人的に感動したのはダイヤモンド酒造さんのCuvee Kだ。比較的標高が高く冷涼な環境で育つMBAを用いてブルゴーニュ系の酵母で仕込んだワインである。香りの華やかさと繊細さ、そしてミネラル感は従来のMBAワインとは一線を画す。

ダイヤモンド酒造 / シャンテY,A Ycarre CuveeK
シャンテ Y.A. マスカット・ベーリーA イグレック・カレ・キュヴェK | エノテカ - ワイン通販 (enoteca.co.jp)

MBAワインの醸造技法

従来、次の2つの方向性のワイン造りがなされてきた。
1.   木樽を使用して樽香を付与するタイプ(フラオネールを抑え込む)
2.   MBAの赤系果実香を活かしたチャーミングなタイプ(フラオネールを活かす)

しかし、近年ではフラオネールと向き合って上手くコントロールした、ピノノワールを彷彿とさせる高品質なMBAワインが生み出されている。その主な栽培・醸造条件は次の5点。

  • 遅積み(香り成分を最大化)

  • 全房発酵(色素・香り・タンニンの補強)

  • 低温発酵(ピュアな果実味・複雑性向上)

  • 木樽発酵(タンニン・香りの補強)

  • セニエ(凝縮感強化)

  • 適切な酵母の選択(ブルゴーニュ系・ローヌ系など)

それぞれ詳細に書くとキリが無いので割愛するが、近年の傾向は「官能的」「数値的」にどのようにフラオネールをコントロールするのかがポイントだ。その中でも特に遅摘みする手法は、フラオネール成分量(フラオネール及びフラオネールを生み出す前駆体の総量)が通常収獲よりも増えてしまうが、それを知覚しにくくなるように他の香り成分を底上げすることでワインとしてのバランスや香りの纏まりを演出している。

当然ながら、産地毎にその醸造特性は異なる。山梨では如何に酸を「残す」かに関心があるのに対して、山形では如何に酸を「落とす」かに意識がある。

テイスティングにおいてもこのような品種の個性を理解した上で臨むことで、「美味しい/マズい」「マスカットベーリーAっぽい」というような薄いコメントではなく、より深い考察が可能となる。

最後に

先日、サントリー研修センターで実施されたMBA1927と言うマスカットベーリーA大試飲会・勉強会に参加した際、これらの栽培特性や醸造特性について各ワイナリーの声を聞くことが出来た。もしこのような各品種の栽培特性・醸造特性・産地特性に興味のある方が多いのであれば記事を書こうと思う。また、論理的・化学的になぜそのような香りや味になるのか、テイスティング講座もしければと思う。


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