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定年女子のありふれた毎日 私も不適切だった

TBS系の連続ドラマ「不適切にもほどがある!」が3月末で最終回を迎えた。久々に毎週その時間にテレビの前に座るのが楽しみで、見たら次週が待ち遠しくなるドラマだった。番組公式サイトには「意識低い系タイムスリップコメディ! 昭和のダメおやじの『不適切』発言が令和の停滞した空気をかき回す!」と、ある。

阿部サダオが演じる主人公市郎は中学の体育教師。顧問をしている野球部の生徒がミスしたら部員全員にケツバット(バットで尻を叩く)、生徒の保護者と応接室で対面しているのにタバコをスパスパ吸い、娘のことは「さかりのついたメスゴリラ」と罵倒する。そんな彼がひょんなことから令和にタイムスリップし、カルチャーショックを受けるという話だ。

令和の世界で、市郎の孫である渚が職場の後輩にエールを送るつもりで言った言葉が悪意に取られ、パワハラと非難されるくだりがある。ドラマの中のエピソードなので誇張されているのだろうと思っていたが、昔の同僚と話をしたら、最近後輩Mさんにも同じようなことが起きていたとわかって驚いた。

派遣社員Aさんの電話応対に問題があったのでMさんが指導したところ、AさんがMさんの指導はパワハラだと主張し、慰謝料の請求までほのめかしたのだとか。その部署では顧客対応はほとんど電話で行うので、電話応対が顧客満足度に大きく影響する。指導するのは当然のことだ。

Mさんは温厚で部下の話にもきちんと耳を傾けるタイプ。決して威圧的な指導をしたりネチネチ嫌味を言ったりする人ではない。しかしこの一件でAさんの派遣元からクレームがつき、上司からヒアリングされ、Mさんは体調を崩して現在休職中だという。同僚から伝え聞いた話だからこれ以上のことはわからないし、私はAさんの主張を聞いていないから公平な判断はできないが、何ともやりきれない気分になった。

厚生労働省によると、パワーハラスメントとは「職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの3つの要素を全て満たすもの」だそうだ。客観的にみて業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導はパワハラには該当しない。

40年以上も昔、職場に1年先輩の男性社員がいて、周囲からは仕事ができない人と見なされていた。当時の上司は彼を厳しく叱責し、ほんのわずかしか担当を持たせず、彼が自ら退職するように追い込んだ。それは当時新人だった私にもわかるようなあからさまな仕打ち。良くないこととは思ったが、間違っているとは言えなかった。

それどころか頑張って仕事をして、入社2年目の年末に退職した彼より少しでも長く働こうと思っていた。その頃パワハラという言葉はまだなかったし、当時の自分が上司に何かを言えたとしても状況は変わらなかったに違いないが、今思えば自分も何と不適切だったことか。

昔と違って会社も人権研修でパワハラ、セクハラなどを取り上げるようになり、パワハラやセクハラの訴えに対して相談窓口を作り、当事者の声を取り上げるようになった。そのこと自体は良いことだが、Mさんの件で会社の対応はどうだったのだろう。Mさんがメンタルの不調による休職に追い込まれたのは、Aさんの訴えより会社の対応によるものだと思えてならない。人権に鈍感だった昭和がよかったとは決して思わないが、過剰反応しすぎる令和もいかがなものかと思う。

「ふてほど」の最終回、登場人物たちはミュージカル仕立てで「多様な価値観を受け入れて寛容になりましょう」と訴える。これが、作者宮藤官九郎が伝えたかったメッセージに違いない。MさんやAさんや会社の上司たちは「ふてほど!」を見ただろうか。見たら何を感じただろうか。今はただMさんが一日も早く健康を取り戻すことを願っている。

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