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season 1

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様々な背景を持つ複数人でそれぞれ綴る公開日記/エッセイ。 同じアパートに暮らす住人のように、交わりそうで交わらなさそうなそれぞれの日常。 (第1期は7〜9月)
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[第1期]書き手紹介

様々な背景を持つ複数人でそれぞれ綴る公開日記/エッセイ。アパートに暮らす住人たちの交わりそうで交わらなさそうな、それぞれの日常。 (第1期は7〜9月) ▽エッセイ一覧▽

波と暮らす。 | HINATABOKKO

せっかく何かを書くならば、優しい光が届くようなものが書きたいと思う。しかし、心が疲れ切っている時には、どんなに時間をかけても、なかなか思い通りのものが生まれない。 そういう時に書いたものが、同じ境遇の人に届いて、思いがけず良い影響につながることもあるかもしれないけど…底に指先が触れかけている自分は、ポジティブに捉えるのも難しい。自分の心がまず元気でないと、人を癒したり、元気や勇気を分けることは、できないと思ってしまう。 波は、誰にでもあるものだという。その波を上手く乗りこ

暁光 | re

「真夏のピークが去りました」とテレビで天気予報士が言っていて、「絶対にこの人狙ってるじゃん~」と思いつつ、まんまと思いを馳せてしまう。 私はあまりフジファブリックに思い入れはないけれど、上京してすぐに高校からの友人と神奈川の海へ行った帰り道、バスの中で一緒に聴いた若者のすべてのことは時々思い出したりする。 海辺で遊んで疲れた体に差し込む西日や、私たち以外あまり人のいない少し寂れた観光地の窮屈そうな空気が地元に似ていること、大人になった私たちが地元ではなく東京にいること、夏

ひらいてくる | ちろ

先週のやすみ、六甲山の牧場に行ってきた。 毎日のように隙あれば「牧場に行きたい」と駄々こねていたもんだから、同居人も大変だったんだろうなと思う。「牧場に行きたい」というよりは「広い草原を見に行きたい」という気持ちのほうがつよかったのだけれど、ともかく牧場という場所に行きたかったのはたしか。区切られた空間の中で、見世物のように過ごす動物たちがいる横で人々がわーわー喜ぶことに若干の居心地のわるさを感じているが(自分も行きたがってたくせに)、いざ行ってみると人も少なくて、羊たちがあ

対等する夜 | motoi

数日ぶりに淡路島の家に帰宅。 昨日が新月だったこともあって、島の夜は真っ暗。思わず笑いが漏れる。 充電が切れたただの重たい電動自転車を、こぐ。 向かい風が強く、尚更ペダルが重い。 真っ暗な夜空を飾る星。川に流れる水の音。鈴虫とコオロギの大合唱。木や竹が風に揺らされ、わさわさ、ザワザワしている。息が詰まりそうなくらい湿度が高い。 色んな音が身体に充満し、視界の暗さも相まって、上下左右の感覚を失いそうになる。 前に進んでいるのか、上に進んでいるのか? 一方で、どこか妙に冴えて

ひとりの限界 | オオタミユキ

お店を営み始めて5年目に入った。 毎日に必死で、振り返ってみると一瞬。 まだまだやりたいことが沢山ある。 ただ、最近ふと自分ひとりの限界を知って 窓のない地下室のような、どうしようもない息苦しさを感じてしまうようになった。 接客、通販、配送、仕入れ、やりとり 運営に関わることは基本ひとりで行なっている。器用貧乏なので、満遍なくできることは多いほうだ。 自分の手の届く範囲のことだけをまず考えて仕事がしたい。そう願って会社員を辞めてお店を営んでいることもあってスタッフを雇っ

100万円 | ハコミドリ 周防

幼い頃は100万円って、とんっでもない大金だと思っていたし、 100万円あればなんだって出来ると信じていた。 【ウッチャンナンチャンの炎のチャレンジャー これができたら100万円!!】というテレビ番組で、一般人チャレンジャーが激難イライラ棒に挑戦する回ではいつも手に汗を握りながら刮目し、あとほんのちょっとのところで惜しくもチャレンジ失敗!というシーンのたび、飽きもせず声が枯れるほど「っぎゃあ〜!!!」と叫び、挑戦者の涙を見て一緒に泣いた記憶もある。 「100万円…あとちょっ

モラトリアム | 池上まい

イギリスに来て4ヶ月が経った。 月日の流れはあっという間に過ぎる。こわい。 鼻高々と、海外に住んでいることを書いてきたけれど、運が良くてラッキーなだけで今住んでいることを最後の投稿で白状しようかと思います。笑 わたしは今、YMSビザというビザで滞在している。ユースモビリティスキームビザ、通称ワーキングホリデー。ワーホリだ。 は〜ん、ワーホリねえ。へ〜なんだ〜、ワーホリかあ。と、思う人もいるかもしれない。あの、なんか海外で遊んで暮らすだけのやつでしょ?って。私も実はそうだっ

宙ぶらり | ちろ

晩夏って、無性に味噌煮込みうどんが食べたくなりませんか?食べたら食べたでおそらくめちゃめちゃ汗かいて暑くなって後悔するんだろうな。 自分が「移民」という部類に該当するということを自覚したのは、つい最近のことだ。 浅学であることを重々承知したうえでいうと、「移民」というのは何らかの事情を抱え「仕方なく」生まれた故郷を離れ、異国に移り住む人のことを指すとばかり思っていた。けれど自分もとっくに身心ともにふるさとを離れてしまっていて、気がつけばこの国で、ある意味「仕方なく」17年も

蒔いたり、拾ったり | motoi

9月3日でHIRAMATSUGUMI主催の展示会「日常の事実」が終了。感謝。 展示会前日。私は午前中のうちに搬入を終えた。 その時点での展示会場はというと、恐らく半分ほど決まっているようす。つまり、半分残っている。 …大丈夫かな…お手伝いした方が良いかな…と思うけれど、ジュエリーの仕事が押していたので、家に戻ることにした。 今回のような大きな空間で展示をしたことがないので、完成までにどのくらい時間が必要なのかが分からない。 はたして今日中に搬入が終わるかな?!と本当に心配し

風が吹いたら | オオタミユキ

8月も終わりの日 家から出た瞬間に「秋の始まりがきた」と直感した。吹いた風が少しだけひんやりとしていたからなのか季節の匂いが変わったからなのか 私の身体全体が季節の変化を捉えた瞬間。 次の瞬間に思ったのは 「散歩に行かねば…!」 そう。夏や雨の日を除いて、てくてく目的地を決めずに散歩するのが趣味。なにかしらの趣味の欄に“散歩”と書く人間に面白みは感じられないよな〜と思いつつ、実際に趣味だから。と言い訳しながら書くくらいには歩くことは好き。 少し先にはなるけど秋から冬の狭

小さな抵抗 | 橋口 賢人

世の中には納得できないことがたくさんある。 子供のことはその連続で、たくさんのことが「承服できぬ」なガキだった。 大人になるに連れて納得できないと感じること機会は減ってきた。 子供の頃よりは賢くなって物事を詳細までわかるようになったからか、「これはそういうものと」いかにもな大人になってしまっているのかは五分五分な気がする。 そんな僕が三十路になっても未だに納得できないのが「エスカレーター片側1列並び問題」である。 ここ数年でエスカレーターの「歩かず、立ち止まって、2

週末美瑛ドライブ | HINATABOKKO

とある週末、家族で美瑛と上富良野に遊びに行った。 運転手は、運転練習中の私と妹。助手席には指導係の母。 札幌から美瑛まで、高速を入れて車で約2時間40分の長距離移動だ。 私は運転という行為自体が、どちらかというと苦手な方だ。いつかの講習で見た、交通安全を訴えるビデオがいつまでも脳裏を離れず、運転中は”命”という言葉が、背中にどんどん迫ってくる感じがする。自分は1つのことに強く意識が向いてしまいやすく、瞬間空間把握が求められる運転は、普段と違う脳を使っている感覚がある。運転席

夏のデートの最適解 | re

土曜日の午後八時、新宿三丁目のスターバックスにいる男女の会話を聞きながらこの文章を打っています。 恐らく隣の二人はまだ付き合っていないけれど、お互い”アリ”だと思っている一番楽しい時期の人たちで、最近の飲み会の話しやインスタで見つけた美味しそうなご飯屋さんの話、この間行ったマッサージが良かったとか、そこまで話したいと思っていないような話ばかりをしているけれど(偏見)、その時間も楽しいよね……わかる……と心のいいねボタンを押しつつ、でも本当に話したいことはそんな話じゃないんで