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一月一酒 第4回

初出:月刊ハンガリージャーナル 2004年9月号

Áts Cuvée 2003
醸造家:Áts Károly
製造元:Royal Tokaji Wine Company, Mád

 ハンガリー各地に素晴らしいワインが見つかりますが、まだトカイ・ヘジャイヤ・ワイン地区から離れるのは難しいようです。今月号でみなさんに紹介するワインもトカイ・ヘジャイヤ産ですが、伝統的なトカイ(貴腐)ワインには属しません。
 製造元のロイヤル・トカイ社は創業以来、伝統的な製法に則り、木製樽の中で醸造しています。同社の所有者メンバーに名を連ね、そのワイン生産の方針を支えるのは、世界的に有名なワイン批評家、美食家であるHugh Johnson氏です。
 2002年、同社醸造主任のÁts Károly氏が、社の伝統とは別系統になるワインを仕込み、アーチ・キュービーÁts Cuvéeと名付けました。生産数の少なかったこのワインは、発売開始数週間のうちにほぼ完売という爆発的な成功を収めました。そしてその翌年の作品がこのÁts Cuvée 2003となります。
 このワインの何がこれまでのトカイ(貴腐)ワインと異なるのでしょうか。
 第一には、ボトリティス・シネレア菌による貴腐ぶどうを使うのではなく、枝に実った状態のまま水分がとんで果汁が濃縮されるまで待った、遅摘みぶどうの房だけを使うところが異なります。また発酵は金属製の樽によってなされ、最終段階において3ヶ月間、木製樽にて熟成されます。
 ブレンドされるぶどう品種はフルミント、ハールシュレヴェルー、ミュスカ・ド・リュネルの3種類。ミュスカ・ド・リュネルの香りに特徴がありますが、決して強すぎることはありません。
 木製樽による仕上げの間に角がとれて、よりまろやかな舌触りとなりますが、貴腐ワインよりも新鮮で若々しく、軽やかなボディーを持っています。鮮やかな酸味と高い糖分(120 g / L)の程好いバランスが爽やかで、値段も手ごろな普段着のワインと言えるでしょう。
 このÁts Cuvée 2003に合うのは、フォアグラ料理各種、ブルーチーズ、デザート、カレー風味の料理などです。また、貴腐ワインの濃密で重厚な味の世界が実は苦手、という方には特におすすめです。

原文:Tőzsér Róbert
訳文/画像:高久圭二郎

注:Áts Károly氏は現在は独立して自身の醸造所で素晴らしいワインを生産しており、2020年度「ハンガリーワイン醸造家が選ぶ最高のハンガリー醸造家」の栄誉を受けました。またトカイ地区最王手の醸造メーカーが設立した「グランド・トカイ」という新ブランドの主任醸造家を勤めています。

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*ハンガリージャーナルでは編集のミスにより、写真が第3回のまま出版されました。


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