やさしいこころ

借財の申し出を受けた。

信頼に足るとかなんとか以前に
身内であるし即断で受けることを決めた。

幸いにして今手元に自由になるまとまった金額があったせいが大きい。
経済苦の辛さは身に沁みている。
人間余裕がないと精神が荒むのは手に取るようにわかる。
金であれ時間であれ何であれ。

とは言うものの
身内とはいえ世帯を別にしているのだから
家人に無断でまとまった出費をする訳にもいかない。

お互い気が合ってもう長いこと一緒にいるひとではあるが
育ってきた環境が違えばものの価値観が違うのは当然と言える。
ひょっとしたら断る選択をするのかもしれない。

単刀直入に、自分は受けようと思うがどう思うかと尋ねてみた。

いいんじゃない、とさも当然のように答えられほっとはした。

しかし続く言葉に耳を疑った。

もう少ししたら我が家の出費にはある程度の目処がつくことになっている、
そうしたら月々の援助も出来るようになる
と言う。


貧を知らない人だと思った。

我が家もただのサラリーマンであり、経営者でも不動産収入があるわけでもない。
そんなお大臣な収入があるわけではない。

もしもそんなことを言いだしてやりだして、その後どうなるというのだ。
お互い、そんなつもりじゃなかった、では取り返しがつかないのだ。

そしていくら身内とはいえ
対価なしに援助をする受ける、ということから派生してくる人間関係をどう思っているのだろう。


わかっている。

それはただ一心に、助けになりたいばかりのやさしいこころから出た言葉なのだ。

本気でそう考えくれているのだとありがたく
そうまでやさしいひとであってくれて嬉しかったのは嘘じゃない。

その一方で知らない危うさを感じて背筋が冷えた。


結局
判断も金額の都合も、私も範疇でやることとなった。

期限なしで申し出より1割ほど多目の額と決めた。
返ってこないと踏んでいるし、それでいいとも思っている。

返済をあてにしていては貸せない。それならば少し多目に渡してでこれ一度きりとするのが良い。

まさか役に立つとは思わなかったが頭の隅に置いてあった、

先の文人の教えによる。

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