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NOT WONK 『dimen』に寄せて

冷くてあったかくて、尖っていてまあるくて、苦しくて気持ちよくて、五月蝿くて静かで、懐かしくて新しい。

北海道苫小牧を拠点に活動するスリーピースバンド、NOT WONKの4thアルバム『dimen』がリリースされた。

Boy becomes a Man now

初期のハードコアなヘヴィネスからしなやかに、ときに軽やかなグルーヴを取り込んで大きく成長したのが前作の3rdアルバム『Down the Valley』であり、多くのリスナーの心を盗んだタイトル・トラック『Down the Valley』。

しかし20代前半の彼らには、
「六本木ヒルズで演奏します。国会議事堂に向けて」
「僕はこの人に投票するぞ!」
とSNSに書き込むような、ある種の少年的無邪気さがあった。それを轟音と叫びで表象していたのだけれど、今作はその面影を残しつつ、複雑さを帯びた、大人の懐の深さが随所に感じられる。

10 tracks 51 minutes

ダイナミックに唸るベースとエフェクティヴなギターが微睡み、子守唄みたいに優しいアコースティック・ギターとコーラスでフェイド・アウトする中後期ビートルズな『spirit in the sun』。There She Goesなストラクチャーに思いっきり曇ったミックスがツイストになっている『in our time』。苫小牧とサウス・ロンドンとブロードウェイを繋げて転がる世界一クールなロックンロール『slow burning』。リヴァーヴで深く深く沈み込んだ深海の光の彩を描く8分30秒のアビス、『shell』。60sリヴァイヴァル、ブリティッシュ・マナーでロールするキャッチーな『get off the car』。オクターブ・フレーズが迸る『200530』。Queen、Green Day、the whoらのロックオペラを思わせる壮大な世界観を、oasisなマイナー調のギターソロで一本芯を持たせた『dimensions』。

ここまでの7曲、37分。おそろしく濃密ながら、リスナーを没頭させる絶妙なタイミングで涼やかな『interlude』でリフレッシュ。

快哉を叫びたくなるクールな繋ぎのミュート・バッキングで始まり、ファルセットとともに鳴らされる、苫小牧に降る雪のように輝くアルペジオこそ主役の『the place where nothing’s ever born』。ラスト、そのアルペジオの雪が空に向かって舞い上がり、天上の世界で『your name』のクワイアが響く。

Things so complicated, feeling all dimensions

言葉の意味、発話、ヴォーカルと楽器のサウンドが混然としていて、内部に複雑さを内包したひとつの生命体として、より強力で強烈なパワーを発している。独りよがりな自意識の薄い殻じゃない。弾力性があるから、しなやかで強い。

丁寧に編まれながら、決してひとつのイディオム、アンサーにリスナーの想像力を収斂させない。そのためのバランスに、とても繊細にアプローチしている。それは前述した『in our time』の曖昧な質感だったり、『slow burning』のAORなサックス・ソロから薫る解放感だったりする。局地的なノスタルジーに安住させない、甘えや馴れ合いを赦さない、とてもアクチュアルで誠実な姿勢だと思う。

誰もがお互いを指差して「バカ!」と罵り合っている。誰かが編集した無料で提供される動画を見て、「大手メディアが隠したがっている真実」とやらを知った気になっている。「洗脳されていない」ことを示すために、議会場に押し寄せる。科学的知見から現状を発信する専門家に、刃物を送りつけたりする。

疲れてしまったらTwitterを閉じて、140字からは決して見えない、白と黒の間にある無数のグラデーションに思いを馳せながら、『dimen』の世界を漂って様々な次元を感じてみよう。世界は複雑だ。たったひとつの真実なんてどこにもない。だからこそ僕らは人間として今日を生きることが出来ていて、恋をしたり美味しいものを食べたりマニキュアをつけて心が弾んだり、音楽を聴いて涙を流したりもする。



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