おかえり

言わば老舗と呼ばれる仏具屋さんに行った。

去年、長い間懇意にしていた仏具店から、
「お世話しません」と出禁になったからだ。
仏具屋だけでは食っていけない時代が来て、
後継者が見込めるところは、
だいたいが、葬祭業に乗り出した。
27年間葬式を出していないうちなど、もう、いらないのだろう。

ドアは開いたから、
営業はしていると思われた。
豆電球一つない、真っ暗な店内。
奥にあるレジの前におばあちゃんが座っていた。

「おぼき」。
私はそういう呼び方しかできないが、
仏様に供える、
ごはんの器みっつ。
そして、お水とお茶を入れる湯飲みふたつ。

もう新しく仕入れはしないのだろう。

水子供養とかかれた湯飲みがむっつくらい。
なにも書かれていない湯飲みは、
本当にまめこいのが対でふたつしかない。

ごはんの器も、
金色が眩しいもの、
みっつそろっているのはそれしかない。

一万円札を出したら、
レジには、
おそらく今日の両替分だけだろう、
9枚の千円札と小銭が入っていた。
まだ昼間。

その店のあたりには、
おばあちゃんが気安く行けるような両替用の店はない。

バックの底から小銭入れを取り出して、
「おいくらですか」
「500円です」。

そんなはずはないじゃないか。
少なくとも、2000円弱とらないとだめだよと思った。

思っているうちにおばあちゃんは、
手際よく、
いつつの陶器を新聞紙に包んでいた。

店の中を見回すと、
上の方に、
うちに来たいようにしている神棚と目が合った。
「ごめんね。
 氏神様のほげさまが信じられないから、
 うちの古いのをずっと使うの」。

私は仏具マニアだ。
これからちょくちょくその店に顔を出して、
おおおおおお!と思える仏具を買おう。
おばあちゃんが元気なうちに。

去年のクリスマスに、
投げつけられ続ける理不尽に腹を立て、
仏壇を閉じた。
「おまえら、さっぱり、守ってくれないじゃないか」。
仏様にやつあたりしてもね、クリスマスイブにね。

3月1日。
仏壇を再開した。
おかえり、
ご先祖様。
ごめんね、
ご先祖様。

そういえば、
あの仏具屋の屋号の親戚がいた。

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