見出し画像

Bambu Labでkaikaノズルを使う手引き

 Bambu Labのマシン(X1シリーズ/P1シリーズ)で高性能ノズル「kaika」シリーズを使うための問題と手引きをまとめる。


3rdパーティノズルに対応していない

 とても大きな問題としてBambu Labの3Dプリンターは原則として3rdパーティノズルに対応しておらず、公式が販売しているオリジナル設計のホットエンドブロックを使うことが推奨されている。(一部販売品除く)

 そのためkaikaなどノズル部分のみで販売されている製品はそのままでは使うことができないため、3rdパーティノズルに対応しているホットエンドユニットを別途購入、付け替える必要が出てくる。対応製品はAliexpressやAmazonで購入できる。いくつか種類があるが耐久性の問題を解決している「V2タイプ」と呼ばれるノズルを買うのが良いだろう。

V2ノズルへの交換対応

 V2ノズルと使うとM6サイズの3rdパーティノズルをセットできるようになる。「kaika」で言えば「600」シリーズ。一般的な0.4mmノズルであれば「kaika640」を、0.2mmであれば「kaika620」を取り付けられる。

 その他のノズルサイズは以下から。

 一部V2ノズルのセットにセラミックヒーターとサーミスタが付属しているものがあるが、こちらは購入を避ける方が良い。Bambu Labが別途販売しているオリジナルのヒーター&サーミスタのほうが性能が良く、昇温速度も早い。あえて性能の低いものを使うよりはオリジナルのパーツを移植する/もしくは新たに購入して取り付けたほうが良いだろう。

 ホットエンドユニットの交換、ヒーターやサーミスタの交換は以下のBambu Lab公式のwikiを参照し、添付されている動画を閲覧すると分かりやすい。

ホットエンド全体の長さがオリジナルと異なる

 V2ノズルにkaikaノズルを取り付けるとホットエンド全体の長さが異なり、細かい問題が起きてしまう。この原因はV2用のノズルとkaika600シリーズの全長設計が異なるためだ。

V2用ノズルは全長10.60mm
kaika640は全長12.5mm

 この問題を解決するため、いくつかの対処を施す必要がある。詳細は以下2点。

キャリブレーションによる対応

 幸いBambu Labのマシンは自動キャリブレーション機能が豊富に揃っている。今回問題となっている部分は「ベッドレベリング」と呼ばれる「ノズルとヒートベッドの距離」制御に関する部分だ。Bambu Labマシンの場合、ノズルの長さが2mm以上異なるとシステム的にエラーを吐き出して止まってしまうようなのだが、kaikaへの変更は1.9mmとギリギリ範囲内のようで停止するような大きなエラーは起きない。

 V2ノズルにkaikaノズルを取り付けた後は本体、もしくはスライサーソフトである「Bambu Studio」からキャリブレーションを実行しよう。また可能であれば印刷前に「ベッドレベリング調整」を行うようチェックを入れておこう。これでkaikaノズルを使った造形が問題なくスタートできる。

Bambu Studio → デバイス → キャリブレーション → ベッドレベリングを有効にする
Bambu Studio → プレビュー → 造形開始 → ベッドレベリングを有効にする

ノズルワイパー交換による対応

 次に問題になるのはノズルの清掃だ。Bambu Labのマシンは印刷開始時にノズルについている古いフィラメントの汚れやカスを掃除する挙動が行われる。このときノズルの長さが変わったことによって本体奥のダストシュートに備え付けられているノズルワイパーと衝突してしまう。

オリジナルのワイパー

 またkaika600シリーズはV2用のノズルと比較して横幅が4mmから7mmへと増大するためワイパーの幅も変更しないときれいに清掃できないばかりか、ワイパーの本体部分とも衝突してしまいノズル/ワイパーともに傷ができてしまう。

kaikaとの衝突で破損したオリジナルのワイパー

 この問題に対応した専用のノズルワイパーを設計した。ワイパーの高さを1.5mm短くし、横幅を3mm延長、ワイパーの支柱形状を左右反転することでkaikaノズルとの直接的な衝突を避けて清掃できる。

基本的な形状/機能は同じ
全体像
支柱の向き、全高の変更、ワイパー長の変更

 このデータはBambu Labが運営している「Maker World」に印刷用のプロファイルを公開しているのでダウンロードして自分で造形できる。0.4mmノズルでPETGフィラメントを使って印刷しよう。

 PTFEチューブを適切な長さでカットするのが難しいという声が聞こえたので専用の治具を用意した。同様に「Maker World」へ公開したので必要に応じて印刷して使ってほしい。

 また私のBoothではより造形難度の高い新設計Verのモデルを販売している。こちらは0.2mmノズルとPETG樹脂で造形しており、PTFEチューブもはめ込み済み。こちらはノズルが接触する際の音を大きく抑えたモデルとなっており、造形難度から一般公開せず販売限定としている。是非検討してほしい。

設計変更の詳細

ノズル清掃による摩耗の低減

 Bambu Labのマシンは印刷前に様々な自動処理が行われる。ノズル清掃もその挙動の1つで、ノズルに付着した古いフィラメントのカスやゴミを除去する動作があることは先述の通り。その除去動作の1つに「ノズルをビルドプレートにこすり付けてノズル先端の平面を綺麗に保つ」動作がある。これが真鍮ノズルにとっては致命傷でノズルの急速な摩耗や吐出口の潰れを招いてしまう(体験談)

 この問題に対処するため造形前のノズル清掃、それもビルドプレートにこすりつける挙動を除去する方法を以下にまとめる。

Bambu Studio左上の「プリンター欄」にある赤丸部分から設定編集画面に入る
プリンタG-code欄に切り替えて「プリンター開始G-code」を編集する

 「プリンター開始G-code」欄はBambu Labマシンが3Dプリントを開始するまでの準備挙動がコーディングされている。この欄のG-codeをメモ帳などにコピーして以下の表記がある箇所を見つけよう。

;===== wipe nozzle ===============================

※省略※

;===== wipe nozzle end ================================

 上記欄の間に記述されているG-codeが印刷前にノズルを清掃するコードとなる。ここを丸ごと削除しても良いがノズル寿命に関係のない必要な清掃挙動までなくなってしまうため推奨しない。以下に最適なG-codeを用意したので、該当箇所を丸ごと置き換えよう。ビルドプレートにこすりつける挙動のみを解除できる。

;===== wipe nozzle ===============================
M1002 gcode_claim_action : 14
M975 S1
M106 S255
G1 X65 Y230 F18000
G1 Y264 F6000
M109 S{nozzle_temperature_initial_layer[initial_extruder]-20}
G1 X100 F18000 ; first wipe mouth

G0 X135 Y253 F20000  ; move to exposed steel surface edge
G28 Z P0 T300; home z with low precision,permit 300deg temperature
G0 Z5 F20000

G1 X60 Y265
G92 E0
G1 E-0.5 F300 ; retrack more
G1 X100 F5000; second wipe mouth
G1 X70 F15000
G1 X100 F5000
G1 X70 F15000
G1 X100 F5000
G1 X70 F15000
G1 X100 F5000
G1 X70 F15000
G1 X90 F5000
G0 X128 Y261 F20000  ; move to exposed steel surface and stop the nozzle
M104 S140 ; set temp down to heatbed acceptable
M106 S255 ; turn on fan (G28 has turn off fan)

M109 S140 ; wait nozzle temp down to heatbed acceptable
G2 I0.5 J0 F3000
G2 I0.5 J0 F3000
G2 I0.5 J0 F3000
G2 I0.5 J0 F3000

M221 R; pop softend status
G1 Z10 F1200
M400
G1 Z10
G1 F30000
G1 X230 Y15
G29.2 S1 ; turn on ABL
;G28 ; home again after hard wipe mouth
M106 S0 ; turn off fan , too noisy
;===== wipe nozzle end ================================
編集後は右上の保存ボタンから設定ファイルを保存する
適当な名前をつけてユーザプリセットとして保存
プリンター設定から保存したユーザープリセットを選択して対応完了

まとめ

 上記問題を手引きを参考に対処することでBambu Labプリンターでも高性能ノズル「kaika」を安全に使用することができるようになる。

 一点、真鍮製のノズルがBambu Labプリンターと基本的に相性が悪く、摩耗速度が早いことに留意が必要ではあるが、耐摩耗性に優れた新型のkaikaノズルが2024年の1月31日から一般販売されるようだ。これからkaikaを購入する人はこちらを買うほうが良いと思うのでおすすめしておく。

「kaikaS」プレスリリース

https://www.tecdia.com/jp/products/hf/detail/cms/wp-content/uploads/2024/01/テクダイヤ株式会社、次世代型3Dプリンティング用ノズル「kaikaS」一般販売開始_20240125.pdf

kaikaS発売

 さきほど耐摩耗性に優れた「kaikaS」が発売された。以下に購入できるリンクを追加しておくので購入を検討している方はどうぞ。現状では0.4mmノズルと0.6mmノズルがラインナップされている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?