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「俺のFF7」はもはや二度とプレイできない。

2003年か、2002年か、それくらいのこと。
正確には年号なんて微塵も覚えていないが、いまの家に越してきてから間もなくだったと思うから、それくらいだろう。

当時はまだ存命だった祖父母が家に尋ねてきた。
親と何やら難しそうな話をしている。
それがただの世間話であり、その内容が自分の成長を喜ぶものであったと気付くまで、10年以上の歳月を費やした。

ただ、当時はまだ幼稚園生の自分は退屈で仕方なかった。
「大人同士が顔を突き合わせて何やら話している」
それ以上明確に「退屈」を表す状況は存在するだろうか。
自分だけ何も理解のできない話が続いて、不愉快だった。

やがて、大人を無視して自分の世界に入ることにした。
テレビの前に座って、PS2を起動する。
遊ぶゲームは『ファイナルファンタジー7』。
自分の人生を変えてくれた一本だ。

当時はまだゲームのシステムやストーリーを理解していなかった。
ミッドガルを脱出して、ワールドマップに出て、カームの町へ赴く。
そしてクラウドの過去に関する妄想を聞き、次なる町へ旅をする。

ここで詰まっていた。
タイミングが悪かったのか、それとも自分の操作が悪いのか、ミスリルマインに入れなかったのだ。
ミスリルマインの場所自体は知っていた。
アルティマニア(攻略本)を持っていたからだ。

しかし、不思議とかの場所は俺を拒んだ。
当時の俺にとってのラスボスは、モーターボールであり、ミドガルズオルムだった。

攻略本は、ミスリルマインを超えて、ジュノンの町へと訪れる一行の様子を描き出す。
そこから船に乗り、ジェノバとの戦闘を通してコスタ・デル・ソルを経由して、ゴールドソーサーへと旅をする。
そんな話が、当時の自分には近すぎて、遠すぎた。

では、自分にとってFF7はクソゲーだったのか?
そういうわけではない。
当時の自分にとっても、間違いなくFF7は神ゲーであった。

物語開始直後の壱番魔晄炉爆破作戦。
列車から飛び出すバレットたち。
その合図に続いて飛び降りるクラウド(この時点では"元ソルジャー")。

駅のプラットフォームから出ていこうとすると、向こうから駆けてくる警備兵が二人。
ザコなので、余裕で蹴散らす。
カッコよく刀をふりまわす勝利ポーズの後に、レベルが7に上がる。

ここまでの流れだけで、当時の自分にはいくらでも想像ができた。
この人はどうしてこんなにカッコいいんだろう?
どんな人なんだろう?
どんな物語が待っているんだろう?

ブリザドの魔法を使う時に、剣を一度しまってから、正拳突きのような構えをする詠唱モーションも最高だった。

ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥ、と風を切るような音とともに、カメラがクラウドに寄って行く。
緑の光が術者を包む。
瞬間、敵の胸元で砕け散る氷の華。
これをカッコいいと言わずして、何に言うのか。

壱番魔晄炉作戦の最後に出てくるガードスコーピオン。
妖しく光る青と黄色のスモークで、味方をターゲッティングする。
何をしてくるんだ、何がしたいんだ……。
ドキドキしながらも、敵から目を離すことはない。
なぜならば、眼前の敵から目を離すことは死を意味するからだ。

どうしてこんなに細部まで覚えているのか?
それは、当時の自分は、確かにFF7の世界を生きていたから。
自分は、クラウド・ストライフとして、そして、クラウド、バレット、ジェシーらに続いて作戦をサポートする、6人目の作戦メンバーだったから。

確かに、ありえない。
そんなことはあってはならないし、なかったことだと認識している。
でも、当時の自分には、壱番魔晄炉の内部の様子がありありと見えていた。
冷たい機械、錆びた鉄パイプ、鼻をくすぐる魔晄の匂い……すべてが、実在の物として感じられていた。

もちろん、そのあとの物語もありありと思い出せる。
五番魔晄炉を破壊したり、新羅ビルに乗り込んだり、たくさんの冒険をしてきた。
プレジデント新羅がセフィロスに殺されていたことは、当時の自分にはよく理解できていなかったが、それでも何かとんでもないことが起きていると感じられた。

空が覆われていて重苦しかったミッドガルから抜け出すと、そこには広い広い世界が待っていた。
無限に広がるように思える平原。海。空。
どこからともなくやってくるモンスターたち。

チョコボに乗ると、快適に移動ができた。
ミドガルズオルムからも逃げ切ることができた。
その大蛇が、少し進んだところでセフィロスに殺されていた。
セフィロス。どこまで行っても彼の名が付きまとうFF7の物語だが、当時の僕は終ぞ彼と対峙することはなかった。

もちろん、過去の世界ではあっている。
重厚な鐘の音。セフィロスがゆっくりと刀を抜く。
目の前には緑の巨体を携えるドラゴン。
瞬間、銀色の一閃。龍は赤い光になって消え去った。

ここまで話してきて、なんだが、自分はFF7リメイクが大好きだ。
今日発売のFF7リバースももちろん予約しているし、いまこのnoteを書いている間、僕のPS5は必死にデータをダウンロードしている。

リメイク作品は、僕の記憶の中にあったミッドガルを忠実に描き出してくれたように思う。
プレートに覆われた空。
魔晄が吸い上げられて枯れた大地。
スラムに暮らす人々。

だが、ほんの1%だけ、「俺が見たのはこれではない」と叫ぶ声が聞こえる。
それは過去の方から、幼少の自分の叫びだ。
自分が見てきた魔晄炉は、もっと冷たくサビついていて、古い白熱灯がともっている薄暗い工場だった。
こんなに明るく清潔で広い場所ではない、と。

FF7リメイクのほうが本家である。
これは間違いない。
自分の妄想を人に押し付けてはいけない。
これも確かにそうだ。

でも、やはり「俺はもう、あの時のようにFF7を遊ぶことはできないのだ」と感じるのだ。
忠実に世界を書き出しているからこそ、想像の余地がない。
自分のイメージ力も衰えた。
昔の自分だけが遊べた、あの空間へは、あの世界へは、もはや二度と訪れることがない。

今日これからFF7リバースを遊ぶ。
だが、その前に、一度振り返ってみてほしい。
自分の想っていたワールドマップは、どんな世界だった?
あなたは、どんな世界を冒険していた?

目の前に広がる世界を、記憶と比べてはいけない。

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