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天地人に所属する農学部生が宇宙農業を解説してみた

天地人は、衛星データを使った土地評価コンサルを行っているJAXA認定ベンチャーです。
天地人に所属する学生インターンが、これは面白いと思った宇宙のトピックスを、定期的にお届けします。

今回のトピックは、宇宙農業。天地人は将来、月での農業生産を目指し「月面アスパラガス」プロジェクトを進めています。今回は、農学部学生の鈴木が、世界の宇宙農業を解説します。

「宇宙農業」とは?

宇宙農業の目的は大きく分けて2つあります。

ひとつは、宇宙で過ごす人々の食糧供給や環境維持(酸素供給・不要物の再利用など)を目指すこと。宇宙農業を進めることで得られた知見を、地球外の惑星や衛星での居住や探査に応用する計画です。宇宙農業の技術や知識を活用することで、将来の宇宙探査や地球内外での生活の持続可能性を向上させる可能性があるとされています。

もうひとつの目的は、宇宙で過ごす人々のメンタルケアです。みなさんも、小学校の時にアサガオやトマトを栽培した経験があると思います。私は育てた植物の花が咲いたり、実が赤くなったり、時にはしおれたりする様子に一喜一憂した思い出があります。最近、植物を栽培することが心身へのプラスになる効果があるとして、農業体験や家庭菜園が人気で2000億円を超える市場規模を誇っています。宇宙空間でも、この効果を狙い、宇宙農業が進められています。

また、宇宙における現在の主要な食料源は、乾燥や加熱処理をしたパッケージ食品です。これは、新鮮な野菜などを宇宙に届けることは難しく、莫大なコストも必要になるからです。この理由から、宇宙農業に対する取り組みが世界各国で進められています。

宇宙農業はさまざまな角度で世界各国が取り組んでいます。JAXAでも、宇宙で農業を推進する「月面農場」の実現に向けたプロジェクトが進められています。ほかにも、ドイツやロシア、カナダなど、世界各国で宇宙農業に取り組むプロジェクトが進行中です。今回はそれらのさまざまな宇宙農業の取り組みの中から、NASAが主導する「Veggie」プロジェクトを紹介します。

NASAの「Veggie」プロジェクト

「Veggie」プロジェクトとは?

「Veggie」(ヴェジー)は、国際宇宙ステーション(ISS)で植物を栽培しようという取り組みで、NASAが主導しています。
2014年、「Veg-01」は「Veggie」プロジェクトの第1弾として始まり、「Veg-02」「Veg-03」「Veg-04」とステップアップしながら、ケールやレタスを中心とする「葉物野菜」の栽培に取り組んでいます。

NASAは現在、5フェーズ目である「Veg-05」の準備中です。「Veg-05」では、トマト栽培を行い、宇宙で栽培したトマトの成長の仕方や品質を調査することに加えて、トマト栽培が宇宙で過ごす人々に及ぼす影響も評価します。

「Veg-04」から「Veg-05」へのステップアップ

農学の視点から見て、「Veg-04」以前と「Veg-05」では大きく内容が変わります。それは「トマト」と「葉物野菜」のそもそもの違いに由来しています。

まず、栽培法そのものが大きく変化します。
実をつけるトマトは、「葉菜類」に比べて必要とする肥料の種類や量が異なる上、一般的な栽培期間も長いです。

葉菜類は、植物が葉や茎を出したときに収穫する野菜です。しかし、トマトは、葉や茎を出し、その上で花を咲かせ、受粉することで(受粉が不必要な品種もある)果実ができ、その果実が熟すことでやっと収穫できます。レタスは種を播いてから60日程度で収穫できますが、トマトは、種を播いてから収穫できるまでに100日以上必要です。

また、果実が熟すためには、果実を養うための葉や茎が必要であり、葉菜類に比べてトマトの植物体は大きくなり、宇宙空間における栽培の維持が格段に難しくなります。

この問題を解決するため、「Veg-05」では小さな体でも果実をつけることができるトマト品種「レッドロビン」を使い、実証を進めるそうです。トマトの収穫に至るまでには、多くのプロセスを経る必要があり、それにより必要な肥料や管理の手間も変化します。それ故、地球上での栽培の難易度も、葉菜類に比べて果菜類の方が高いです。しかし、私はその「栽培の難しさ」も欠点だけではないと考えます。

「葉物野菜の栽培」から「トマト栽培」への変化。栽培する人にどんな変化が起きるのか?

私は宇宙農業の「宇宙で過ごす人々のメンタルケア」に注目しています。宇宙空間で植物の緑や生命活動に触れることで、乗組員のメンタルケアやストレスの軽減が期待されている、というのは面白い視点だと思います。

先述したように、「トマト」の栽培は手間がかかり難しい一方で、その「手間」が宇宙で過ごす人にとって良い影響を及ぼす可能性もあります。「Veg-05」では、トマトの栽培管理を行った後の宇宙飛行士の気分の変化も調査するそうです。

最後に「気分」という視点から、私が生産者に聞いた野菜の色にまつわる話を紹介します。葉菜類やキュウリなど「緑色」の作物を主に出荷し生計を立てている生産者が「赤色」を持つ、イチゴやトマトの栽培を始め、出荷を始めました。理由は、「緑色」の作物だけを栽培するよりも、「赤色」の作物を栽培するほうが農作業を行う上で気分が上がり、生産性が向上するからだそうです。また、売り場に「赤色」の野菜を導入したところ、リピーターとなっている元々のお客さんからの評判も向上したそうです。


今回は、宇宙農業の現在をまとめました。宇宙農業の動向に注目しつつ、天地人も「月面アスパラガス」や「宇宙ビッグデータ米」などを皮切りに農業の課題解決を進めていきます。