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天地人が注目する今月の宇宙ニュース ~ 衛星通信編~ Vol.12

天地人は、衛星データを使った土地評価コンサルを行っているJAXA認定ベンチャーです。地球観測衛星の広域かつ高分解能なリモートセンシングデータ(気象情報・地形情報等)や農業分野の様々なデータを活用した、土地評価サービス「天地人コンパス」を提供しています。
Tenchijin Tech Blogでは、宇宙に関連するさまざまな最新情報を、天地人のエンジニア、研究者、ビジネスリーダーが一歩踏み込んで解説します。

天地人が注目した4つの海外ニュースを紹介します。
今回は、

  • Keysight、 衛星通信事業者向け2GHz帯リアルタイム・スペクトラム解析ソリューションを発表

  • 米FCCがセルラー/衛星通信を支援

  • OneWeb、SpaceXロケットで40基の衛星を打ち上げ

  • Amazon、衛星インターネット「Project Kuiper」で利用するアンテナを発表 Starlinkと競合

を取り上げました。

それぞれについて、天地人の専門家が、ニュースの注目ポイントや今後の動向を解説します。


天地人が注目したニュース4選!

ニュース1:Keysight 、衛星通信事業者向け2GHz帯リアルタイム・スペクトラム解析ソリューションを発表

Keysightは最大2GHzの帯域幅に対応し、同社のN9042B UXAシグナルアナライザで動作するリアルタイムスペクトル解析(RTSA)ソリューションを発表した。従来の衛星通信周波数が地上波無線事業に競売されたことで、衛星と地上局アンテナ間において、衛星と送受信する電波と地上局周辺の他の電波が干渉し、通信速度が減少する問題が発生している。本製品は電波の干渉と衛星信号をモニタリングする目的がある。業界最高水準の2GHzまでの広帯域解析が可能で、解析時間の短縮と高い捕捉確率を実現し、衛星通信事業のサービス向上に貢献する。

出典:“Keysight Introduces 2 GHz Real-Time Spectrum Analysis Solution for Satellite Communications Operators”, businesswire, March 14 2023, Accessed April 11 2023, https://www.businesswire.com/news/home/20230314005737/en/Keysight-Introduces-2-GHz-Real-Time-Spectrum-Analysis-Solution-for-Satellite-Communications-Operators 


ニュース2:米FCCがセルラー/衛星通信を支援

米国連邦通信委員会(FCC)は携帯電話事業者による衛星ネットワークの活用を促すための枠組みを発表した。一方で、 SpaceXは、2022年8月に米国2位の通信事業者であるT-Mobileに、SpaceXのStarlink衛星コンステレーションの通信網を提供する契約を締結しており、FCCの枠組みを活用することが予想される。FCCとしては携帯電話事業者と衛星通信事業者の協力により、米国内で通信が不可能なエリアを減らしていきたいと考えている。

出典:”FCC to Boost Cellular/Satellite Communication Adoption”, WebProNews, March 17 2023, Accessed April 11 2023, https://www.webpronews.com/fcc-to-boost-cellular-satellite-communication-adoption/


ニュース3:OneWeb、SpaceXロケットで40基の衛星を打ち上げ

通信衛星コンステレーションのサービスプロバイダーであるOneWebは、SpaceXのロケットを利用して新たに40 個の通信衛星を軌道に打ち上げ、同社が保有する衛星数は582 基となった。同社はアラスカ、カナダ、英国、グリーンランド、および北極圏で事業を開始している。今度はインド宇宙研究機構 (ISRO) および New Space India Limited (NSIL) と協力して、総打上数648基を目指し、インドでの衛星通信事業の拡大も狙う見込みである。

出典:FE Bureau, “OneWeb launches 40 more satellites with SpaceX, FINANCIAL EXPRESS”, March 11 2023, Accessed April 11 2023,  https://www.financialexpress.com/lifestyle/science/oneweb-launches-40-more-satellites-with-spacex/3005220/ 


ニュース4:Amazon、衛星インターネット「Project Kuiper」で利用するアンテナを発表 Starlinkと競合

Amazonは、SpaceXのStarlinkの競合となる衛星インターネット事業「Project Kuiper 」に関連して、利用するアンテナを発表した。アンテナは、重量約450gで最大100 Mbit/sの持ち運び型、重量2.3kgで大きさ11インチの最大400Mbit/sで通信可能な中型モデル、最大1Gbit/sで企業・政府・電気通信会社向けの大型モデルの3種類のモデルが用意されている。

出典:Igor Sushon, “Amazon announces Project Kuiper, a new player in the satellite communications market that will compete with Starlink”, Mezha, March 15 2023, Accessed April 11 2023, https://mezha.media/en/2023/03/15/amazon-announces-project-kuiper-a-new-player-in-the-satellite-communications-market-that-will-compete-with-starlink/ 


天地人はこう読む

以下では、本記事で紹介した4つのニュースがなぜ注目されているか、どんなトレンドが今後起こりそうかなど、天地人の専門家の見解を記します。

ニュース1:Keysight、 衛星通信事業者向け2GHz帯リアルタイム・スペクトラム解析ソリューションを発表

ニュース1の解説では、「周波数リソースの効率化を専門とし、通信衛星の通信技術に精通するエンジニアである稲岡」が2GHzの帯域幅の利点と各デバイスの動作方法について見解を記します。

広帯域衛星通信におけるRTSAの重要性と2GHz帯域のメリット

「地上波無線事業」は主に5G通信の事を指すかと思われます。5G通信は近年、利用可能な周波数を次々に獲得しており、その中には衛星通信と重複、もしくは近接する周波数帯も含まれます。
例えば、図1のように3〜4GHzにおいて、5Gと固定衛星サービス(FSS)が周波数重複していることが良く分かります。他にも、27.5‐29GHz においても周波数重複があります。重複する周波数を新たな通信に利用する場合は、周波数共用検討を行い、既存の周波数が許容できる利用条件が設定されるものの、実際に利用された場合、意図せぬ周波数干渉が発生する可能性はあります。


図1 固定衛星サービス(FSS)と5Gの周波数帯の比較(出典①より引用)

そのような周波数干渉の有無やその影響を評価する上で、RTSAは非常に重要な技術です。広い周波数帯域(上記でいうと3~4GHzは0.8GHz、27.5~29GHzは2.5GHz)を持つ衛星通信にとって、RTSAの対応する周波数帯域が広くなることは、一度に解析できる帯域幅が広くなることになります。2GHzの帯域の解析が可能なRTSAが登場することで、今までより解析時間が短縮できるという大きなメリットになると思います。

UXAシグナルアナライザとそのオプション機能であるRTSA

UXAシグナルアナライザとは、Keysight Technologiesから発売されているRF信号(衛星からの電波信号)を解析することのできる装置のことで、RTSAはその装置のオプション機能という位置づけです。オプションは、装置購入時に選択しますが、後から追加も可能かと思います。“The software-based RTSA solution”とありますので、シグナルアナライザN9042Bの所有ユーザは(諸条件あると思いますが)そのオプションを購入し、ソフトウェアインストールすることで、2GHz帯域のRTSA機能を使える、ということになると思います。

出典①:”Coexistence of 5G and satellite services in the C band”, ROEDE& SCHWARZ, Accessed April 11 2023, https://www.rohde-schwarz.com/jp/applications/c-5g-application-card_56279-620189.

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この後もニュース2,3,4それぞれに対して「天地人において通信衛星向けAIプロダクトの開発マネージャーである木村」である木村が解説します。
ニュース2は「FCCによる衛星通信事業者向けの規制緩和と携帯電話サービスと衛星通信サービスの今後」について、ニュース3は「OneWebの海外展開戦略と衛星打ち上げに関する各社との協力」について、ニュース4は「Project KuiperとStarlinkの覇権争い」についてそれぞれ示しています。

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