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日常に潜むホラー

日常にひそんでいるホラー


 朝の通勤途中、自転車で駅まで向かっていた。いつも信号につかまる神社の前の交差点。その朝は、他に待っている人がいなかった。珍しい。自転車を停止線ギリギリで停めて、3秒後くらい、左後ろの方角から「カラン、カララン」て音がした。ん?何だ?後ろから誰か来た人の音だと、ブレーキ音とか歩く音とか、蹴った石とか缶の音がするはず。
 
 この、軽い「カラン」って何だ?後ろに信号待ちの人が立ったからって、すぐ振り向くのって何かイヤな感じ。でも、気になる「カラン」。

 思わず左後ろを振り向くと、誰もいない。3メートルくらい左後ろのアスファルトに落ちていたのは、ガチャポンの蓋だった。カランはこれが落ちた音だったか。落ちる?周りには誰もいない。投げる人もいない。神社の前の歩道。細い道を挟んだ向かいは、英会話教室と美容院の入ったビル。もちろん朝の七時半、閉まっている。2階の窓から投げられそうな民家もない。どっから落ちたんだ、このガチャポンのオレンジ色の蓋は。

 そして、自転車や徒歩の人が集まり、信号も青に変わり、自転車を漕ぎ出す。神社、ガチャポン、カラン。もしかしてこれは、何十年も前、この神社で神隠しにあった子が持っていたガチャポンで、どういう訳か今、時間軸の歪みが起こって、カランとガチャポンの蓋の部分だけがこちらの世界に投げ出されたのかもしれない。自転車を漕ぎながらゾワっとした。ホラーだ。すごい場面に遭遇してしまった、のかもしれない、と想像した。

 夕方のスーパーで、レジに並んでいた。次に私の番が回ってくる時にふっと、後ろに並んでいる女性のカゴが目に入った。大根とブロッコリーとカレールウ。何と、私のカゴの中身と全く一緒ではないか。いや、私はこれに、あとでこっそり食べる用の豆大福が1つ入っている。後ろの女性は、私と同じルートで店内の通路を回ったのか?なぜ、私と同じ物を買おうとしているのか?大根とブロッコリーで私はカレーを作らないよ。

 彼女はもしかしたら、私のストーカーかなのか?そして、ストーカーの存在をスーパーのレジで真後ろに並んで、こんなに近くまで来ているよと、さりげなく知らしめているのか?さすがに、大根の陰に隠れている豆大福まで気付かなかったのだな。こんな始まりのミステリーありそうじゃないか。ちらっと後ろの30代の女性を目の片隅で見るも、知らん顔している。そうくるか。得体のしれない恐怖にゾワっとした。

 このように、日常にホラーはひっそりとせまってくる。怖い、怖い。そして、ホラーだとゾッとした数時間後にやっと気付く。神社の前の歩道に転がったガチャポンの蓋は、カラスが落としたのだろう。スーパーで後ろの人のカゴが私と同じものだったのは、特売品だったのだ。

 さて、ネットで見つけた、ほうれい線を薄くする、たるんだ頬をすっきりする体操。舌でほうれい線のあたりを内側からグイグイ押したり、舌で歯茎と唇の間をグルグルと回す。右回り、左回り。外で、前から人が歩いてこないなって思った時にグルグルするのだが、たまにグルグルしながら、歩いて来た人と目が合ってしまう。妖怪、舌でグルグル女だ。マスクを外して「み、た、なー?」と言ったら、自分も極上のホラーになり得る。

 しかし常々思う。1番身近なホラーは、言ったそばから何するのか忘れる、ここに置いたはずの物がない、やったつもりで忘れていた、ですね。日常にひそんでいて、ほんと怖い。

#おばさん日記 #ほうれい線予防体操

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